選択のお時間です。
衝撃波が村の原型を失うほどの威力を生み出す。
技を放った俺も致命傷を負ってしまう。
いくら再生するとは言っても、しばらくは動けそうにない。
攻撃の影響で周囲に白い靄がかかったみたいで、幼女の様子が見えない。
視界が晴れてきた。
「なっ……」
そこには、あの幼女が悠然と立っていた。
腕を天高く掲げ、砕けた黒光りのガントレットに代わり、白銀のガントレットが月光に照らされていた。
その剛健な手には、直方体の鉄の塊を象ったような無骨なハンマーを握っていた。
絶望感が俺を蝕む。
魔王と対峙した時ですら感じたことのない圧倒的さを体感する。
絶対、魔王の方が強いと思えるのに、絶望感は今の方が強い。
なぜだ?
それは、ミルディンがいないからだ。
そうだ。
今回は、俺が一人で戦っている。
一人で強敵と戦うというのは、こんなにも孤独で恐ろしいものなのか。
本当にどうすればいいんだ。
そんな絶望感を抱く俺を断ち切るように、幼女はハンマーを地面に叩き落とす。
そのハンマーの一撃は落雷をまとう。
俺は痺れて、しばらく動きを封じられる。
地面にハンマーが打ち込まれると、
地面を水でも叩いているかのように同心円状に衝撃波が引き起こされる。
その衝撃波は地面を深く抉り、周囲を巻き込みながら崩壊させていく。
俺もその衝撃に巻き込まれる。
空に体が放り出される。
一面の夜空に不穏な影が見える。
そこには、月を隠してしまうほどの、
まさに巨人の拳を連想させる巨大なハンマーが視界に映る。
そのハンマーは身動きのできない俺を無慈悲に地面へ叩きつける。
クリスから貰い、懐にしまってあった大切な物も壊れてしまい、破片が辺りに飛び散る。
俺の意識はここで途切れる。
「久しいな、勇者よ。」
「お前、いきなり姿を消してどうしてたんだよ!?」
気付くと、目の前にはギルガメッシュがいた。
アイツはいつものように不敵な笑みを浮かべている。
「込み入った事情があってな。
まぁ、今はそれよりも憂慮すべきことがあるだろ」
「そうだった……俺はもしかしてまた死んだのか?」
ギルガメッシュは首を横に振る。
「いいや、死んでない。
ただ、死にかけてはいる。
気を失っている状態なのだ。」
「そうか。たとえ力を取り戻してもアイツに勝てる見込みはない。
どちらにしろ、俺は死ぬ運命だ……」
俺は不甲斐なさをひしひしと感じながら、消え入る声で言う。
「あぁ、お主一人ならそうなるだろう。
だけど、今は我もおるではないか」
「……?」
「何をとぼけた面をしておる。
我が力を貸してやると言っているのだ。さぁ、我を受け入れろ」
俺は目の前にいる邪神に希望を見出している。
ふざけた話だ。
だが、悪魔だろうが、邪神だろうがなんだろうと、ミルディンを救えるならその誘いに乗ってやる。
それが、今俺にできる全てだ。
「いいさ。ギルガメッシュ、お前の提案を呑んでやるよ」
「その返事を期待していた」
やはり邪神は邪悪な笑みを浮かべる。
意識が戻る。
空にはクリスから預かった物の破片が浮いている。
その破片は俺の体へと突き刺さる。
直後、異物が俺の体内を縦横無尽に駆け巡る。
気持ちが悪い。
言葉にできない不快感が押し寄せる。
ただ、傷が急速に癒えていくのは感じられる。
不快感が消えた頃には、体は十分に動かせるぐらいには回復していた。
俺は起き上がり、幼女を確認する。
幼女はその場で突っ立っているばかりで、何かする様子もなかった。
先制打を与えるチャンスだ。
しかし、俺にはもう確実にダメージを与えられる術は持ち合わせていない。
どうすればと苦悩していると、何やら声が聞こえてきた。
「上手く適合できたようだな」
「この声はギルガメッシュ!?」
「お主が取り込んだのは、元々我の一部だった角の欠片だ。その欠片を使って、お前に魔族としての力を付与した」
「魔族……?」
「あぁ、そうとも。
そこに落ちてるお主が振っていた剣を鏡代わりにしてみればよい」
俺は指示通りに剣を拾い上げ、そこに映る自分を見つめる。
そこには、頭上に突き抜けるように角が一つ、禍々しく生えていた。
その角はまさしく魔王が備えていたものだった。
右目も白目が黒く、瞳は月光のように覗かせている。
あの時、俺が見た魔王の特徴と似ている。
文字通り俺は悪魔に、いや邪神に魂を売ってしまったのだろうか。
それでも構わない。
仇を、復讐を、ミルディンを救えるのなら、構わない。
「で、魔族の力を取り込んだ後はどうするんだ?」
「我が念じることに続け。」
俺は『超電磁砲』を放つように、左手首に剣身を重ねる。
右膝を地面に着け、左膝は立ててそこに左肘を重ねる。
詠唱する。
『不従の君主』
剣は白く煌めくが、漆黒に上書きされる。
赤褐色の魔法陣が目元を囲うように現れ、そこを覗き込むとスコープになっている。
静止した幼女の眉間に照準を合わせる。
「さぁ、勇者よ!お主の復讐の灯を燃やせ!!!」
「あぁ、裏でコソコソやってるクソ野郎に一発ぶちかましてやるよぉぉぉ!!!」
『反逆or 解放』
左目には黒い魔法陣が、右目には白い魔法陣が出現する。
『行使』
俺は左目を閉じ、白い魔法陣で照準を合わせ、撃ち放つ。
すると、黒光りしていた剣はまばゆい光を放ち、純白に輝く。
その輝きは剣先に球状を形成する。
そして、矢のごとく細く、鋭く、速く幼女の眉間へ突き進む。
眉間を光の矢が貫通する。
しかし、損傷はない。
幼女にまとわりついていた禍々しいオーラだけが霧散する。
幼女はそのまま崩れ落ちる。
「お主は俺でよかったのか?」
「アイツは悪くないからな。
利用されていただけだ。
復讐すべきはその背後にいるヤツだ」
「お主ならそうすると思っておったわ」
きっと、ギルガメッシュは悪党じみた笑みを浮かべている。
改めて惨状を俯瞰する。
地面は大きく抉れ、村の原型などない。
もはや火や爆風などにより、村民の遺体や住居はみる影もない。
俺は土を盛り、近くに落ちていた石に父と母の名前を刻む。
「こんな質素な墓でごめん。
今度、昔の仲間と盛大に弔うから、今はこれで我慢しててな……」
盛った土にポタポタと水滴が落ちる。
夜は静けさを取り戻し、空は星ヶが見えるほど澄んでいる。
でも、俺の心は雨模様一色だった。




