木こりのお時間です。
やっと一歳になった。
ある程度発声はできるようになり、短い距離なら歩けるようにもなった。
しかし、詠唱は発音が命だ。
舌足らずな発音では効果が半減してしまう。
結局、まだ無詠唱を続けるしかない。
今度は風魔法以外の練習もしたいと考えていた。
とはいえ、イメージが重要な魔法で、実際に使っているところを見たことのない魔法を使うのは難しい。
そう悩みながら反芻していると、ある強力な魔法を思い出した。
それは、奇襲作戦で俺たちを襲ってきたあの水龍の魔法だ。
あの魔法は、水竜を形作る前に一帯のあらゆる水分を集めていた。
つまり、この魔法の初期段階では、物質から水分を抽出する作業が必要となる。
何か練習に使えそうなものはないかと辺りを見渡すと、円柱状に積み上げられた薪の山が目に入った。
この薪は、村の男たちが奇襲作戦で使った湿地林の木々を切り倒し、適度な大きさに切断したものだ。
湿地林の木だけあって、乾燥させるのに時間がかかるらしい。
この薪を使って水分を抜く練習をすれば、薪も乾くし魔法の腕も上がる。一石二鳥だ。
早速試してみることにした。
薪の乾燥で求められるのは、とにかく内部の水分を徹底的に取り除くことだ。
手をかざす。
一本一本の薪の内部に魔力を浸透させるイメージを描く。
染み込んだ魔力が水分と共に外へ集まり……
ドゴォォォン!
「なんだ? 魔族か? スパルタクス、大丈夫か!?」
魔力の操作を誤り、中心部分だけ水分を抜き取ってしまったらしい。
薪が爆発するように破裂した。
俺は赤子としての特権を行使する。
「オギャァァア!」
母が家の中から駆け出てきて、俺を力強く抱き上げた。
「パルちゃん、もう大丈夫よ」
後から来た父も、俺の手を痛いほど握ってくれた。
罪悪感に押し潰されそうになる。
その罪悪感を抱えたまま、魔力を使い果たして俺は眠りに落ちた。
気がつけば朝になっていた。
今日も父は朝から薪割りをしている。
俺の腕よりも太い丸太を土台に置き、重厚な斧を振り下ろす。
丸太は一撃で真っ二つに割れる。
さらにその割れたものを半分に、半分にと、大きさの異なる薪を次々と作っていく。
しかも、全て一撃で。
やはり、この世界は異世界なのだと改めて実感する。
恐らく、どこにどの角度で斧を入れればいいのかを瞬時に把握し、
無駄のない身体の使い方で斧を自在に操っているのだろう。
これは、無意識のうちに無詠唱で魔法を使っているからこそ成せる技に違いない。
そんなことを考えながら、乾燥を待つ薪の一本に向かって手をかざす。
今度こそは、と慎重に魔力を浸透させ、水分を抜き取ろうとする——
が、やはり失敗した。
バァン!
薪が破裂し、破片が父の尻に向かって突き刺さる。
「あぁぁぁぁっ!?」
父の絶叫が響き渡った。
「コテュス、大丈夫!?」
母が素早く父のもとへ駆け寄る。
幸い、父は軽い切れ痔と、新たな扉を開きかける程度で済んだ。
……父よ、もう薪では練習しないから、その扉は閉めてくれ。
三歳になった。
ようやくまともに喋れるようにはなったが、まだ言葉に違和感が残り、詠唱は厳しそうだ。
とはいえ、ある程度歩き回れるようになったので、肉体の訓練も少しずつ始めたいと思っている。
父は今日も白い息を吐きながら薪を割っている。
俺は父のところへ駆け寄り、相談してみた。
「おとうはん、運動するのにいい場所ってある?」
「なんでそんなことを聞くんだ?」
「強くなりはいの!!」
そう言うと、父は振り上げかけた斧を止め、少しの間沈黙した。
何か思いついたのか、俺の目線に合わせてしゃがみ込む。
「良かったら、父さんたちの仕事を少し手伝ってみないか?」
「おひごと?」
「ああ。こんな寒い季節になると、村の男たちで湿地林の木を伐りに行くんだ。
伐って、運ぶのも良い運動になる。
まずは父さんたちについてくることから始めてみろ」
そして翌日。
村の男たちがぞろぞろと湿地林の麓に集まっていく。
俺もその群れに混ざり、湿地林へと向かった。
男たちは最低限の防寒着と巨大な斧を肩に担ぎ、ズケズケと林の中へ消えていく。
俺は父のコートの裾を掴みながら、後を追った。
あの時の奇襲作戦とはまるで違う姿を、湿地林は見せていた。
空を青く染める日差しは、この林までは届かない。
眼前には暗闇と、地を這うような濃い霧が漂っている。
外界から光を失ったこの空間は、熱までも奪い去ろうとしていた。
足元は半分凍った地面で、氷水に足を突っ込んでいるような感覚が続く。
息を吸うたびに肺が凍りつくような鋭い痛みが走る。
針でも飲まされているようだ。
どうやって父たちはこの極寒と視界不良の中で進んでいるのかわからないが、
俺にとってはすでに限界だった。
とりあえず寒さをしのぐため、体表に風のバリアを張るイメージを浮かべ、体内の熱が奪われるのを防いだ。
さらに足に魔力を流し、神経を研ぎ澄ますようにして足場の悪さを克服しようとした。
それでも視界は悪く、歩くだけで精一杯だった。
どれほど時間が経ったのか、考える余裕もない。
すると、突如として視界に微かな光が差した。
見上げると、何筋もの淡い光の矢が木々の間を貫いていた。
その光が当たる地面には、整然と伐採された木々が聳え立っていた。
間伐がきちんとされているのだ。
やはり、この世界にも魔法という未知の力はあれど、人類が辿り着く技術の本質は変わらないのかもしれない。
しかし、地球とは明らかに異なる光景が、これから始まる。
一人の男が木の前に立ち、四人の男が少し離れた場所で待機している。
目の前の男が瞬時に体から蒸気を吹き出し、器用に木にV字の切り込みを入れる。
そして素早く反対側へ回る。
V字の切り込みを入れた方向に、待機していた男たちが列を作る。
斧を持った男が水平に切り込むと、木はバキバキと音を立てながら列に向かって倒れていく。
その瞬間だった。
迫り来る木を受け止めるように、男たちが両手を突き出す。
同時に体から蒸気を噴き出し、瞳が赤く燃え上がったように見えた。
足元には魔方陣が展開されている。
恐らくこれで地盤の沈みを防ぎ、しっかりと踏ん張れるようにしたのだろう。
木を受け止めた男たちは、それを担いで湿地林を抜けていった。
抜けた者たちはやがて戻り、同じ作業を繰り返す。
何十回となくこれを繰り返し、
合間に休憩を挟みながら作業を続けているうちに、日が落ちる頃になっていた。
ようやく作業が終わり、皆で村へ帰路についた。
そこで俺は、なぜギルガメッシュがこの村で生まれることを推したのか、なんとなく理解できた気がした。




