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神々よ、ご遊戯のお時間はそこまでです。  作者: 神村遥


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12/20

転生のお時間です。

意識が戻る。


そして俺は、この妙に清々しい気分の原因を瞬時に理解した。


警棒があるはずの場所に手を伸ばす。


感覚がダイレクトに伝わってくる。


案の定、俺は全裸だった。


つまり、ここは別の次元だということだ。


慎重に目を開け、体を起こす。


眼前には、見覚えのあるヤツがいた。


『武技:軒轅の(けんえんの)獣鎧(じゅうがい)』


俺は反射的にその顔面を殴っていた。


「おい……勇者よ。

起きるなり我の顔を真っ先に殴るとは、随分と我が憎いらしいな?」


魔王の右頬に黄金の拳がめり込む。


しかし魔王は微動だにしなかった。


「お前がなぜここに……」


魔王は俺の拳を静かに払いのけ、相変わらず邪悪な笑みを浮かべて言った。


「そんなに凄むな、勇者よ。

我もお前も、もうくたばっているのだ。

もう少し肩の力を抜け」


「……やっぱり、俺は死んだのか。

で、なんでまた女神に召喚された時と同じ空間にいるんだ?」


「今度は我が呼んだのだ」


「お前が?」


「そうだ、勇者よ。それと、我は魔王などではない。邪神だ」


「邪神? 魔王を召喚するあの?」


「その通りだ。

女神と対を成す存在とされる邪神だ。

まあ、邪神と言っても、お前が我を殺して邪神にしたのだがな」


「魔王が……一介の魔族が神になれるのか?」


「魂の格が上がればなれるさ。まあ、この話はまた今度にしよう」


俺は話を逸らされた気がしつつも、それより気になることを尋ねた。


「邪神であるお前が俺を呼んだってことは、俺に魔王になれってことか?」


魔王は俺の両肩をがっしりと掴んで言った。


「いや、お前は魔王としては転生しない。転生するのは辺境の農民だ」


「何を言って――」


再び、意識が遠のいていった。


「コテュス、見て! 元気な男の子よ!!」


「あぁ、スラッタもよく頑張ったな」


視界はぼやけていてよく見えない。


しかし、この二人が私の手を優しく握っていることだけは伝わってきた。


その感触は温かく、心を満たす不思議な幸福感を与えてくれた。


……っていうか、眠い――

またこの感覚か……

俺は自身の股間に手を伸ばす。


やはりまた全裸だ。


目を開け、体を起こす。


「さっきぶりだな、勇者よ」


俺は夢でも見ているのかと思った。


「おい、なんでお前がまた出てくるんだよ。俺はまた死んだのか?」


「そんな馬鹿なことがあるか。ここはお前の頭の中だ」


「は? 頭の中!?」


「分かりやすく言うなら、夢の中だ」


「夢の中だと? ならなんでお前が出てくるんだよ?」


「そのことについてはまた次だ。もう時間だ、勇者よ」


ああ、また意識が遠のいていく――

意識が戻った。


直後、胃が何者かに握り締められるような強烈な不快感が襲ってきた。


そこには、じんわりと響く鈍痛も混じっていた。


(なんだよ、これ……)


俺は無意識に声を上げていた。


精神は大の大人にも関わらず。


すると、再び抱き上げられ、顔面を柔らかいものに押し付けられた。


その瞬間、俺は本能的に強い飢えを自覚しつつ、心まで満たされていく感覚を味わった。


食事を終えると、意識は再びプツリと途切れた。


また意識が戻り、勢いよく体を起こす。


「またお前かよ」 


「また会ったな、勇者よ」


「これは一体何なんだよ!!」


「言っただろ? お前は辺境の農民として生まれたと」


「俺は……やっぱり今は赤ん坊なのか?」


「その通りだ。

そして赤子はよく眠り、よく食べる。

現実での意識など一時間もないだろう。

だから我が夢の中で、お前に伝えるべきことを伝えに来ているのだ」


「事情はわかった。でも、なんで農民なんだ? なんで俺なんだ?」


「そう焦るな。これから何度も顔を合わせることになるのだから」


邪神の言う通り、現実での意識が夢の時間を超えるまでに4ヶ月かかった。


その間、延々と顔を合わせ続けた。


この邪神――ギルガメッシュ曰く

「とにかく強くなれ」とのことだった。


コイツが何を考えているかは知らないが、少なくともミルディンを封印から解き放つためには、

あの自称勇者をぶちのめすためには、強くなるしかない。


利害の一致というやつだ。 


とはいえ、全幅の信頼を置いているわけではない。


今でもギルガメッシュのことは常に警戒している。


どんなに怪しくても、俺を騙しているとしても、今の立つこともままならない無力な四頭身に何ができるというのか。


しかし今となっては、体がある程度動かせるようになり、夢を見る頻度も減ってきた。


これでアイツと顔を合わせる機会も減っていく。


これからが正念場だ。


かといって、大それたことができるわけではない。


首がやっと据わった俺は、赤ちゃんらしく「ばぶばぶ」としか言えない。


全く、二次元の連中は赤ちゃんの頃から普通に喋れるなんてどうなっているんだ。


喉の器官も未成熟で、舌の動きも未発達だ。発声など到底できない。


つまり、動くことも喋ることも


できない俺にできるのは、無詠唱での魔法練習だけだった。


幸い、この世界では無詠唱は珍しくない。


ミルディンも以前言っていたが、魔法はイメージが重要だ。


日常的に行う動作に関しては、貴族も平民も関係なく無詠唱でできることが多い。


実際、父であるコテュスもよく無詠唱で農作業をしている。


「なぁ、スラッタ見てくれ!! 

今期は出来がいいぞ!!」


噂をすれば早速、無詠唱で採った作物を大量に持ってきた。


「スパルタクス、今日も頼んだぞ」


父は俺の目の前に作物を掲げる。


少し前から風魔法の練習をしているのを目撃した父は、俺に作物の土を落とす作業を手伝わせるようになった。


クリームパンのような小さな手を作物に向かってかざす。


そしてイメージする。


王都から遠く離れた辺境のトラキア村。


かつて俺とミルディンが戦った荒野だったこの地に、数年時代は流れ、

新たな生命が芽吹き、一面が緑に染まっている。


開けた大地に風が吹く。


この風は植物の種子を運ぶ乗り物だ。


時には木の枝を激しく揺らし、気になるあの子がスカートを押さえるほどの

――それは疾風。


体内に眠る血中の魔力が手のひらへと流れていく。


血管が焼けるような痛みを伴いながら。

それを無理やり押し出す。


すると、作物に向かって十分な風が吹き、土ぼこりを吹き飛ばした。


さらに力を強める。


砂ぼこりだけでなく、

木の枝から葉をもぎ取り、

周囲の土を舞い上がらせる、

つむじ風の赤ちゃんのような風に。


「目に土がぁぁぁ!!!」


激しく舞う土が父の目に直撃した。


俺は無理に魔力を流し込んだせいで、血管を直接焼かれるような痛みに襲われた。


でもこんな痛みはもう慣れっこだ。


あの訓練に比べればまだマシだ。


ただ、耐えられるのは精神だけで、体は痛みのあまり勝手に悲鳴を上げてしまう。


「あら、パルちゃんまたお漏らししちゃったのね。コテュスは叫んでないで、さっさと桶と水を持ってきなさい」


中世辺りの雰囲気だから、

昭和の亭主関白みたいな父親だと勝手に思っていたが、

少なくとも俺の父親は尻に敷かれるタイプだったらしい。


それにしても、やはり慣れない。


羊毛と麻布で作られた簡素なオムツは肌触り自体は悪くないのだが、毎回母親に醜態を晒されるのは恥ずかしさの極みだ。


しかも母親はまだ二十歳にも見えない若さに見える。


元警官の俺が犯罪行為をしているような気分で、非常に落ち着かない。


赤ちゃんプレイは素晴らしいと熱弁していたあの同僚は、やはり逮捕すべきだった――


前々世の俺は、今日この頃そんなことを改めて後悔している。


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