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草原の子  作者: 王虎
2/8

第2話 草原の

 横殴りの風 白くなる視界 動かない妹  青燕のぬくもり

 誰か 誰か 


「はうっ」

 巴特は飛び起きた

 パチパチと音がする。

 炉にたかれた大きな火

 温かな敷物。


「小妹! 青燕!」


 急いで回りを見渡す


「あっ」


 暖かそうな布に包まれた 薩蘭がいた。

 駆け寄って息を確かめる

 すうすうという穏やかな息

 ほほに触れる 暖かい。


「よかった」


 力が抜けた巴特の後ろで声がした。


「目が覚めたようだな。 ちょっと待ってろ」


 びっくっとして振り向くと、女が火のそばにいた。

 炉にかけられた鍋から 何かをすくう。


「熱いから ゆっくりたべるんだぞ」


 青い目 深い深い夏の空のような目


「誰だ おまえ! …青燕をどうした!」


「助けてやったのにご挨拶がそれかい? 普通はありがとう だろ」


 巴特に器を差し出しながら女は笑う。

 そして それでも器を受け取らない巴特に向かって言った。


「青燕というのかな。 彼は 無事だよ」

「青燕! 青燕も助かったのか!」

「もちろんだ。だから安心しておあがり」


 ほっとした巴特の腹が盛大に鳴った。

 赤くなりながら器を受け取って、女にお願いする。


「小妹にも。今起こすから」

「いや 小妹はまだおこさないほうがいい。先に食べておきな」

「あ、あの……ありがとう」

「やっと言ったね」

「ごめんなさい」

「いいさ 食べ終わったら青燕のところに いこう」

「うん」


 食べながら あたりを見渡す。


「あ?」


 炉の向こうには 草原があった。

 広々とした洞窟 その端まで草原が続いていた。


「なんで?」


 ぽかんと見上げた天井には大きく空に開いた穴があった。そこから 薄明るく 光がさしこんでいる。


「あ 雪やんでる。」

「いやまだ降っている」

「え でも雪降ってない」

「積もったらこまるからな、ここには入らないようにしてる」

「え」


 女の顔を見た。そして草原を見た。


「これは?」

「草原」

「そうじゃなくってなんで洞窟んなかに草が生えてるのさ」

「落ち着くからな。それに綺麗だろ」


 自慢そうな 女の顔を見て 巴特は考えるのをやめた。


「ねぇ どうやって俺らのことみつけたんだ?」


 食べ終わってから巴特は尋ねた。

 器を受け取りながら女は答えた。


「声がな 聞こえてきた」

「声?」

「そう 声。助けてくれという叫び。ふつうはな そんな声が聞こえても助けにはいかん。

 だけど あまりに悲痛な叫びだったんで ちょいと好奇心で見にいった。

 そしたらおまえたちがいた。青燕がおまえを守りおまえは小妹を守り」


 そこで少し言葉を区切ってから女は続けた。


「助けてくれってな。なんかうるっとしてなぁ。ついつい助けてもうた。

 いつもは助けない。今回は特別」

「あの中で声が聞こえた?」


 つぶやいた巴特に女は答えた。


「ちゃんと届いた」

「吹雪なのに? 聞こえるわけないじゃないか 嘘つくな」


 小枝を火に放り込んで女はいった。


「草原は我が治めている。草原でおきたことで我が知らないことはない」

「何言ってんだ、草原を治めているのはオヤジだぞ。アンタじゃない」


「おまえの父が治めているのは草原の人。我が治めているのは草原だ」


 静かに笑って女は巴特を見ている

 洞窟の中の草原 積もらない雪 きこえないはずの声

 草原の空の色の瞳。

 黒と見間違うほどの深い深い濃い緑の髪。夏の草原の色。


「あんたは…草原の…」 言葉が続かない。


「その…なんなんだよ?」

「なんなんだよとはなんなんだ」

「なんていうか えーっと主とか?」

「知らんな 我は我だ」


 パチリと小枝のはぜる音がした。


 黙り込んだ巴特に女が声をかけた。


「そろそろ青燕に会いにいくかい?」

「んぁ?」

「心配なんだろ。青燕に会いにいくかい?」


 ちらっと薩蘭をみる。また起きそうにない

「うん」

「よし ついておいで」


 女は火のついた松明を手に取った。

 炉の近くの岩壁にうがたれた通路があった。導かれるままにその道に入っていく。

 道は粗削りの岩でわずかに下に向かっていた。

 すぐに暖かい湿った空気が感じられ、小部屋のような洞窟についた。

 そこは温泉だった。


 燈明にてらされた湯気の中に立つのは漆黒の馬体、額の流星。


「青燕!」


 自分が濡れるのもかまわず、首に抱きついた。


 暖かい。

 耳元に息がかかる。

 くすぐったい。

 生きてる。生きてる。


 涙があふれる。止まらなかった。


「青燕 青燕」


 巴特の頬を青燕の舌がぬぐう。 何度も何度も


「大丈夫、大丈夫だ」


 ひとしきり泣いて、巴特は袖で鼻をぬぐった



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