第24話 幻影魔法にかけられて
意外だとは思ってた。
魔法学院なら、もっと魔法に関する課題が出ても良いのに。
まだ最初だから、魔法関係なく易しいものばかりにしてるのかなって勝手に考えてた。
でも、それ狙いだとしたら?
もし、今までの課題に魔法が関係してたら、今回も魔法を警戒したかもしれない。
「これで確信を得たよ。
ここには幻影魔法がかけられているね。」
「幻影魔法?
それって、アルトとアマリリスが得意って話してたやつ?」
「そうだけど…。
こんな高度で繊細な技術、全く別物だと考えていい。
幻影は空気中の粒子と調光に魔法で干渉する。
つまり、粒子の配置を変えたり、抜き取ったりして、隠したい物を隠し、相手に見せたいものを見せるんだ。
人によって見える様子が違うのなら、かけている位置はココだね。」
アルトは私の目の前を指さしてクルクルさせる。
「目?」
「目自体というより視線かな。」
私の前にパンを見せてくる。
「被写体までの距離…目から物体までの距離に魔法の幻影を重ねてるんだ。」
パンを見た途端、忘れかけていた空腹を思い出したようにお腹が鳴った。
お腹に虫がいたら涎ダラダラだろう。
アルトは、私のお腹の音に気づいたのか口にパンを押し付けてきた。
「むぐっ…」
先ほど同様、食べ慣れた麦の味が口に広がる。
「一説によると、五感の中で視覚情報は80%を超えると言われている。
君が今、感じている味覚はせいぜい1%だ。」
五感て、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のことだったはず。
人間って結構視覚に頼ってるんだねぇ。
「視覚さえ騙せれば、人を欺くのは容易いってこと?」
「そう。
厄介なのは、視覚情報は心理的要因も作用すること。
人間は、無意識のうちに見たいものだけ見るよう、脳に制限をかけてしまうんだ。
目に入っていても、視覚情報が脳まで行かない、深く考えないようになる。」
本当だ。
どうして、おかしいと思ったことを口に出さなかったんだろう。
違和感の正体を考えなかったんだろう。
今考えると不思議だ。
「さっき呼び止めた時、俺と目の焦点が合ってなかった。」
「え?
そんなことないと思うけど。」
「無意識だったんだよ。
グランテ、早く食堂に行きたがってただろ。
幻影魔法特有の影響だ。
心理的に負担がかかっていると正常な判断を欠くことに加えて、目が幻覚に慣れて焦点がいつもよりズレるからだと言われてる。」
「ジンとユートは?」
男子3人は先に食堂に行ったはずだ。
もしかしてもう幻影魔法だって気づいてるのかな。
「…おかしくないかって声はかけたんだ。
だが全く聞く耳持たれないまま食卓に置いてあるものを食べてたよ。
俺は違和感の原因を探さずにはいられないんだ。そのまま館中を探索してた。」
私たちが温泉でのんびりしてる時に1人で調査してたんだ。
なんか申し訳なくなってきた。
あれ?館中…?それって脱衣所とか、温泉も含まれるわけで…
「…エッチ。」
「何を勘違いしてんだよ熊女。
これでも俺は貴紳なんだ。紳士道に外れたことするか。
万一、仮にそうだったとしても、君みたいな永遠発展途上国興味もつ人はいないから安心しなよ。」
こいつ、自分がかっこいいからって、人のことを発展だかなんだかんだ…!
体型のことは否定しないけど、女の子相手にその言葉は紳士とは言えないんじゃない?
「あぁ、人間の女性限定なんだ。
熊は対象外。」
こいつは、もおおおおお!!!!
「あのね!
自分が弱々しいこと棚に上げて、人を熊呼ばわりするの、止めてくれる?
もしかして、まだ投げ飛ばしたこと根に持ってるの?」
「まさか。驚いて頭から離れないだけだよ。
世の女の子は、男を投げ飛ばしたりしない。
そんなことより、」
そんなこと?
あんたにとってそんなことでも、私にとってはそれほどのことじゃぁぁ!
「4人に会っても、「幻影魔法がかかってる」なんて、正面から突っかかっても無駄だと思うよ。」
アルトは、ドアノブに手をかけたまま止まる。
隣には「食堂」のプレートが掛かっていた。
「どうして?」
「まぁ、言ってみればわかるよ。」
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「メル、テュームモンク様、見てください!
ケーキがこんなに沢山!」
アマリリスが頬張っているものは、黒パンだ。ケーキどころか菓子ですらない。
テーブルには中心に花瓶に刺さった紫の花。その周りに黒パンが無造作に積まれ、茶器にはヒビが入っている。
「お先に失礼していました。
一緒に食べましょう!」
「えっと、私…さっき同じ物食べたから…。」
「アルト、さっきは一つも食べずに席を外したろう?
さぁ、食べよう。僕のおすすめはブルベリーのデニッシュだ。」
いや、何度見てもジンが差し出してきたのは黒パンである。
というか、この部屋にある食べ物は黒パンしかない。
「うおっつ!」
戸惑いに困惑がおぶさってきた。
テーブルの陰から腕を引かれる。
「メル!何してるの、早く隠れなきゃ。」
「えっ…隠れるって…」
なぜ?何から?
みんな、おかしい。言葉と状況がチグハグだ。
それに、アルトが言っていたように、焦点が微妙に合っていない。
私の目を見ていると言うより、私の目の前の空間を見ているように見える。
「あのね、レン。
この館には、幻影魔法が使われてるの。」
「何変なこと言ってるのよ。」
「変なこと言ってるのはそっちだよ。
食堂でどうして隠れる必要があるの?」
「怒ってるの?
かくれんぼに最初から誘わなかったのは悪かったけど、怒ることないじゃない!」
んなっ!なんでそうなるの?
私の話が全く入っていかない。
カチンとしてレンの腕を掴んで叫ぶ。
「怒ってないよ。
人の話くらい、ちゃんと聞いてよ!
あっ……」
レンにとって、ここは洞窟なんだ。
腕に触れた途端、レンの見てる世界が頭の中に広がった。
薄明るい洞窟、隠れられそうな岩場が沢山ある。
驚いたのは、レンから見た私が幼かったこと。5歳くらいかな。
「…ごめんね。
言い方が強かった。」
レンは今にも泣きそうな顔をしていた。
「もう、いい!
メルなんて知らない!!」
「まって!い“っつ!!」
逃げるレンを追おうと立ち上がろうとした勢いでテーブルに頭をぶつける。
「だから言っただろう。正面から突っかかっても無駄だって。」
ズキズキする頭を押さえながら、斜め上で様子を見てたアルトを睨む。
濡れ衣だとわかっているが、この痛みはこの男のせいな気がしてくる。恨めしい。
「ねぇ、アマリリス。そのケーキのどんなところが好き?」
気を取り直してアマリリスに向き直る。
レンは食堂から出て行ってしまったようだ。少し時間をおいた方が良いかもしれない。
今はアマリリスの方を解決しよう。
さっきの失敗からわかったことがある。
いくらこっちが正しくても、ただ正しさを伝えるだけじゃ相手には伝わらないんだ。
自分と相手の見ている世界は違うのだから。
まずは相手の世界を知るとこから始めなきゃ。
「木苺のコンポートがキラキラしてるところですかね。ホイップがのってるとこも、ずっと、生クリームが乗ったお菓子、ずっと憧れていたので。」
「アマリリスは、お菓子が好きなの?」
「好きですよ。お菓子だけじゃなく、甘い物ならなんでも好きです。」
「じゃあ、味は?甘い?」
「ええ、もち…あれ?
あ、甘い、はず…です。」
アマリリスの表情が曇る。
やっぱり、違和感は感じてるんだ。
「何か、不思議に思うことがあるの?
私にも教えて。何か力になれるかも。」
「…。」
アマリリスはもう一口、口へ運ぶ。
何度か口を小さく動かした後、迷った目が私と合った。
「…これは、本当に…お菓子ですか…?」
「私には、お菓子には見えない。
ずっと黒パンに見えてるよ。」
アマリリスの手からパンが離れた。
「…幻影魔法ですか…。
可能性は初めから頭の片隅にありました。
情けないですね。
得意魔法に幻影を上げておきながら、まんまと引っかかってしまいました。」
アマリリスは、憑き物が取れたようなホッとしたような、悲しそうな顔をした。
「王都には、おしゃれなお菓子屋さんがいっぱいあるんだって。
いつか、みんなと行こう。私も、ほいっぷ?がのったケーキ見てみたい!」
ほいっぷとか、生くりーむとか、風の噂程度しか知らない。
とても高価なお菓子で、貴族や一部のお菓子店でしか食べれないらしい。
「はい。今からとっても楽しみです。
ありがとうメル。」




