新しい弟子
集落より、少し行った丘の上で、レイは乗っていた馬車を下りて止めた。
崖まで行くと、そこからは赤く燃える村の様子が見える。
それをレイは、何も言わずにただ、眺めていると、馬車から目を覚ましたリコが降りてこちらの方へやって来た。
「気が付いたのか……?」
レイがそう言うと、リコはおぼつかない足取りで辺りを見渡した。
「お父さんは……?」
リコの問いにレイは何も答えずに、遠くで赤く燃える集落に指を差す。
それを見た瞬間、リコはとっさにどこかに走ろうとした。恐らく、彼女は今からでも村に向かおうと思ったのだろう。
「どこに行く気だ……?」
「どこって、村に戻るに決まってるじゃないですか!今行けば、まだお父さんは、助かるかもしれない……!」
そう言うリコに、レイは乾いた笑みを浮かべた。
「もう遅い!恐らくクトルフはもう、死んでる……!」
「行ってみなければ、分からないじゃないですか!どうして、そんなことが、あなたに分かるって言うんですか!」
「俺は、託されたんだ!あの人に、お前のことを……!」
レイ言葉に、一瞬リコの表情は固まった。
「リコ、お前にいいことを教えてやろう……。なぜ、あの村が燃えているのか。なぜ、お前の親父さんは、あそこで戦って死んだのか……。それは、お前に人を守るだけの力がなかったせいだ……!」
その時、リコは反射的に、レイの頬を思いっきり叩いた。
「そんなの、そんなの分かっています……!でも、どうしようもないじゃないですか!」
リコがこの場で泣くのを必死にこらえているのが、レイには分かった。
リコの悲しみは、恐らく肉親を失った悲しみとは違う。これからどうやって生きて行けばいいのか分からない、という絶望に似た、感情のようなものだろう。
彼女は、恐らく幼い子供ながら知っているのだ。この世界はとても不条理で、何の力も持たない自分が、1人で生きて行くことは、できないという事に。
「私は、いったいどうすれば……?」
その場で、膝をついて絶望にかられるリコに向かって、レイはこう言った。
「お前は、今日この時から、俺の弟子になれ!」
「……え?」
戸惑いながら、レイの方を見るリコは小さく声を上げた。
「言っただろ?クトルフにお前のことを託されたって……。もちろんお前の異論は認めない。リコ・ヴィルカ。これから、お前に、この世界を生きる術を、教えてやろう……」
――それは、かつて絶望の淵にいた頃、あの日であった老婆に言われたことだ。
しかし、人生という奴は、こうも皮肉じみた出来事を巻き起こしてくれるものだと、呆れてくる。
かつて、俺の師匠が言った言葉を、自分の口から発しなければいけなくなるとは……。
レイの言葉に、リコは黙ってうなずいた。てっきり反発でもするのかと、そう思っていたのだが、あっさりとした返事にレイは小さく鼻を鳴らした。
この日、レイには新しく弟子が出来た。
彼女の名前はリコ・ヴィルカ。かつて伝説の傭兵の娘だという。
これが、彼ら2人の物語の始まりだった。




