クトルフ・ヴィルカ
クトルフの後について行った先は、家の近くにある納屋だった。扉を開けて明かりを点けると、そこにいたのは、すでに荷車に繋がれた1頭の馬だ。
クトルフはその荷台に、そっと担いでいたリコを寝かせると、落ちないように固定する。
「死神。さっさと操縦席に乗ってこの娘を連れて行け!なぁに、わしがここで出来る限りの時間稼ぎをしてやる!」
クトルフはそう言うと、納屋の壁に飾ってあった両手斧を手に取った。
「あんた、ここで死ぬ気なのか?」
操縦席に飛び乗ったレイは、手綱を握りながらクトルフに言うと、彼はふっと笑った。
「ふんっ。もう知れことだ。この土地にはわしの大切だった妻が眠っている。グールなんぞに荒らされてたまるか……!」
クトルフは言うと、もう一度荷台で眠るリコを見て、優しく頬を撫でる。
「死神よ……。この子を連れだした後は、好きにすればいい。だが、もしもリコを悲しませるようであれば、わしは死んでもお前を呪い殺してやるから覚悟しておけ……!がはは!」
強迫じみた言い草にレイは小さく「分かったよ……」とつぶやき、クトルフに向かって
「なぁ……あんたに一つだけ聞いてみてもいか?」と言った。
レイのクトルフに対する質問は1つだけ。
「あんたは、傭兵になって、楽しいと思えたか?」
レイの質問に、少しばかり考えたクトルフは答えを出した。
「あぁ、こう見えても割と面白かったぞ……。お前はそうではないのか?」
「……俺が、傭兵業をしてきたのは、すべては金のためだ。もう二度とあんな惨めな思いをしないために……。でも最近分からなくなってきた。俺が今までしてきたことが、本当に正しかったのか、それとも間違っていたのか。このまま進んでいいのか、それとも……」
そう言うレイに向かってクトルフはふっと笑った。
「お前が、今までどんなにつらい過去を乗り越えてきたのかは知らんが、今まで見て来た傭兵の中でも、お前が一番、なんだか生きづらそうに見える……。まるで、今も暗闇の中で行きつく場所も分からずに、彷徨っている様じゃ……。解決策も見つからないままに……」
「解決策なんて、人それぞれじゃないのか……?」
「確かに、解決策なんて人それぞれじゃ。だけど問題を乗り越えた者は、必ずあることを第一に考えるもんじゃ……」
「あること……?」
「それは、自分のやりたいことを精一杯、そして自由にやることだよ……!」
――自由……。
レイはそう思いながらふと、言葉が詰まった。
「お前は、金だったり名声だったり、権力だったりと、色々なことを考えすぎだ。だから、もっと自由に、そして、自分が心の底から面白いと思うことを、とことん突き詰めればいい。そうすれば、お前の見ている世界はたちまち姿を変え、人生は大いに色づくだろうよ……」
――面白い事か……。とレイは心の中でつぶやいた。
「まぁ、今わしが言っていることが分からんでも、いずれこの娘が気付く手伝いをしてくれるだろうよ……」
クトルフがそう言うと、納屋の外で何やら暗闇にうごめく、魔物の鳴き声が聞こえて来た。それは、もうグールが近くに来ていることを意味していた。
「さぁ、行け死神よ!奴らが来る前に……!」
クトルフは叫び、馬の尻を思いっきり叩くと、そのことに驚いた馬は甲高い鳴き声を上げて。納屋の扉から飛び出すように駆けだした。
2人を乗せる馬車が、無事に村の門を抜けるのを見届けたクトルフは、掲げた松明を家や納屋に放つと、その明かりで今夜の招かれざる客に向かって、持っていた武器を構える。
闇夜に紛れながらやって来たグールだ。
彼らはそんなクトルフを囲むように立ち回り、口からはよだれをたらしている。
「さぁ、最後の大仕事だ!かかって来やがれ!」
クトルフは、がははと笑いながら、握っていた斧を振り上げるのだった。




