フランちゃんだけがって言うのは不思議だよね
みんなの様子がおかしい。
昨日は確かにこの町に来たけど、着いたのはお昼頃だったはず。
その後は行商人のアレックスさんを手伝って、それからお金を貰って三人で買い物をしたはず。
私は日用品と杖とローブも買ったし、似合ってるってタクト様に言われたのが嬉しくてはしゃいじゃったし。
もしかして全部夢だったの?
「フラン、大丈夫か? 慣れない旅で疲れてるのか?」
「大丈夫です。今朝のことは忘れてください」
「わかった。辛かったら遠慮せずに言えよ」
タクト様はいつも優しいですね、いつも私達を助けてくれます。
普段のこういう優しさも好きですが、戦ってる所も好きですけど。
「手伝ってもらってありがとうございます。今日はゆっくり休んで明日出発しましょう」
私としては二回目のお手伝いを終え、自由時間になりました。
昨日はお手伝いの後にみんなでお買い物のはずです。
「二人ともこれから買い出しに行こう。フランは杖とローブが欲しいんだろ?」
「はい」
「今朝のフランちゃんはおかしかったですから、先にフランちゃんの買い物を終わらせちゃいましょう」
二人は本当に忘れているんでしょうか?
でもそうなるとアレックスさんも共犯ってことになってしまいます。
そんなことをする理由はあるんでしょうか?
「おい、フランどこ行くんだ? 道もわからないんだからノノが戻ってくるまで待ってろよ」
考え事をしていたせいか、昨日の武器屋さんまで一気に向かうところでした。
「お兄さん大丈夫ですよ。その道を直進で合ってます」
道も違っていないみたいです。
そうなるとやっぱり夢じゃないですよね?
夢の場所と同じなんてことはないでしょうから。
「それでその道を――」
「右に曲がって、二つ目の路地を入る。そこに二本の槍と剣がクロスした看板があるコルテットって武器屋さんがある。で合ってる?」
私の夢の通りなら間違いないはずです。
「全部正解。フランちゃんここに来たことあるの?」
「昨日来たんだよ」
これで私の記憶は間違っていない。
昨日のは夢じゃない。
だとするとみんな記憶が消えてるの?
だけどタクト様の記憶はなんで消えてるの?
魔族の洗脳も効かないのになんで私だけ昨日を覚えてるの?
「なあ、その昨日あったことを教えてくれないか?」
「はい。昨日は――」
私は昨日起こったことを覚えている限りタクト様に伝えました。
買い物した店、買った物、食べた物、話した内容全てを伝えました。
「なるほどな。そこまで鮮明なら夢って言いきれないな」
「そうですね。私も言われるまでナイフと矢の事は忘れていましたから」
二人は自分には荒唐無稽に思える話でも真摯に聞いてくれました。
そのことが嬉しいです。
イクシル家に居たら絶対に手に入らなかった優しい人たち。
「考えられるのは三つあるな。まずはずっと言っている様にフランが予知夢を見ている可能性。フランは魔力が高いし魔力が暴走してそういう夢を見ている可能性はゼロじゃない。もう一つは魔族の攻撃だな。俺達を殺すために俺達の記憶を操作しようとしている可能性もゼロじゃない。三つ目は二つ目と被るけど俺達の足止めだな。記憶を奪い俺達をこの町に閉じ込めている間に何か行動を起こす」
流石タクト様です。
私の言葉ですぐに三つも可能性を探し出してくれました。
「いや、もっとあるか……」
「カッコよくするならもう少し考えてから発言してください」
「あはは……」
こういう少し抜けているのもタクト様の良い所です。
きっと私を和ませるために気づいていてわざとやってるんだと思います。
「もう一つは偶然って線はもしかするとあるけど、それはあまり気にしない方がいいと思う」
「どういうことですか?」
偶然で昨日買った物だけが消えてタクト様達の記憶が無くなるモノなのでしょうか?
「極々稀に道具もモンスター化するんだよ。その影響かもしれない」
「お兄さん、魔道具のことは私も知ってます。でも珍しいですか? 値は張りますけど大きな町なら専門店もありますし」
ノノちゃんの言葉に私もうなずきます。
確か家にもいくつか魔道具はあります。
「それは人工の場合だろ。今言っているのは自然発生した物だ。確認はしてないけど、町で騒ぎもなさそうだし範囲も町全体で効力も町にいる全員。こんなのは人工の魔道具じゃ不可能だ」
そういえば家にあった魔道具は極々小規模な範囲で火を吐いたり、少量の氷を作ったりしかできません。
これほどの規模と威力となればタクト様の言う通りなのでしょう。
「でも天然の魔道具は、タクト様に魔法をかけられるほどに強力なのでしょうか?」
魔族の魔法も効かなかったタクト様に影響を与えられるなんて信じられません。
「詳しくは言えないけど、俺のは発動を無効にしてるだけだからな。発動された影響は受けるんだよ。それよりも問題なのはフランはなんで影響を受けて居るのかだな」
「そうですよね。お兄さんだけが覚えているとかだとわかりやすいけど、フランちゃんだけがって言うのは不思議だよね」
それは私も気にはなっていました。
なぜ私だけなのか。
タクト様の方が私よりも遥かに強いはずなのに、私だけが残っている。
でも昨日買った物は一切残っていないのは何故なんでしょうか。
「そう言えばアグリールでフランは洗脳を解除したんだよな、それなら俺達のも解除できるんじゃないか?」
「そうですね。それができるなら手っ取り早いですね」
「やれるだけやってみます」
二人に頼まれてはやってみないわけにはいきません。
私はタクト様に触れ集中します。
「すみません、ノノちゃんからでいいですか?」
「それでいいぞ」
タクト様の内にあるMPと魔力が膨大過ぎて、私は咄嗟に手を離してしまいました。
とても普通の人間とは呼べない程に強大で、強力で、絶大な力。
あのクルトに居た魔族が赤ちゃんの様に感じる圧倒的な力。
私はタクト様がなぜここまで強いのかその一端に触れた気がします。
「フランちゃん、ちょっと怯えてない?」
「それはたぶん俺の魔力を見たんだろ。それなら怯えるのは仕方ない、俺は魔王を倒す勇者だし人並み外れている自覚もある」
「ごめんなさい……」
落ち込む私にタクト様は別に気にするなと笑ってくれました。
たぶん今までにも似たようなことがあったんだと思います。
申し訳ないと思いながらも私はノノちゃんに意識を集中します。
洗脳されていた人たちとは違うようで、魔法の痕跡が見つからない。
魔法の残滓も存在さえしていない。
それなら何が影響している?
「ごめんなさい。やっぱり私には無理みたいです」
何か力になれるかもと思っていたのに、結局何の役にも立ちません。
「わからないなら今日もう一度実験してみればいいだろ。今日は別の物を買ってみよう。それを三人で持ちながら眠る。それで原因を探ろう」
タクト様の提案通り昨日は買っていない物を買い、夜を迎えます。
誰かがもし来てもいいように三人で起き続け朝を迎えることにします。
「まさかベッドがあるのに眠れないとは思わなかったよ」
「しょうがないだろ、こんな状況だしな。魔族が絡んでいるかもしれないんだ」
眠らないように本当にただただとりとめのない話を続けていると、急に目が開けてられない程の睡魔が襲ってきます。
「タクト……、さま……、ノノちゃ……ん……」
眠気に必死に抗いながら二人を見ると、二人ともベッドの中に潜り込みます。
そして私も猛烈にベッドに入らないといけない衝動に駆られベッドに潜り込んでしまいます。
そしてそのまま私の意識は深く深く沈んでいきました。




