私達の荷物が盗まれてるの!
行商の馬車に揺られること四日、途中で現れたモンスターや盗賊を退治しながらようやく次の町にたどり着くことができた。
憲兵の荷物検査も終わり馬車は町の中に入る。
ここの町はあまり栄えているわけではないらしく、アグリールの様に石造りの町ではなかった。
地面も舗装されてはいないし、平屋も多い。
「のどかなところだな」
正直言ってゆっくりできる町で嬉しい。
酪農が主要な様で農工具を担いだ人達が多い。
「トクレスはこの村の様な空気感が売りと言ってもいいですから」
「売りってここの人達はわざとやってるのか?」
「それはここに来た人が勝手に言ってることですから。癒しや安らぎを求めてここに来ているんですよ」
ノノから説明を受け納得した。
この空気を求めにやってくる人の気持ちはわかる。
現にフランは爆睡中で、口を開けだらしない顔をしている。
「お兄さん、女の子の寝顔を見るのは趣味が悪いです」
「それはわかるんだけど、気持ちよさそうに寝てるなと思って」
「ノノさん、荷下ろしをお願いします」
「わかりました。この辺の荷物ですよね?」
行商人は初日の内に俺に話しかけるのはやめてくれたいい人だ。
俺とフランが人見知りだと気が付いてくれ、やり取りはノノに全て伝えてくれる。
そのおかげで旅がとても快適な物になっている。
「お兄さんも早く手伝ってください」
ノノに指示された荷物を持ち荷下ろしを終え、俺達は今日泊る宿に着いた。
部屋割は行商人が一部屋、俺達三人で一部屋だ。
男女で分けてしまうと人見知りの俺が大変なことになるとノノに言われてしまい、この部屋割になってしまった。
「今日はもう皆さんに仕事はありませんので、どうぞご自由にしていてください」
「はい。ありがとうございます」
給料を受け取り寝ていたフランを起こし三人で買い物に出かける。
「雑貨はあっちらしいです」
ノノのコミュ力に助けられながら町を歩き回る。
ここは本当に良い所で適度な距離感を持っているおかげで、俺でも町の中なのにゆっくりと買い物ができる。
大きい町だと、買い物の最中に色々と話しかけられ買い物どころではなくなってしまう。
「ここに住みたい。人間このくらいの距離感でいいんだよ」
「私も賛成です。不必要に話しかけられたりしないですから」
買い物も一段落し休憩所でのんびりとお茶を啜る。
「二人ともお年寄りみたいになってますけど……」
「しょうがないよ、こんな場所キックスでもそうないから」
キックスも小さい町だが、ここまでのんびりはしていない。
結構色々な人が話しかけてくる。
まあ、ここも住んだら同じように知り合い同士で話かけられたりするんだろうけど。
「私も武器を補充してもいいですか?」
「いいぞ。ノノの場合は消耗品だからな」
ノノの武器は投げナイフや弓だ。
一応普通のナイフは持っているが、本人曰く身体能力も魔力も高くないため遠距離の技術を磨いているらしい。
消耗品なので出費は多少かさむが仕方がない。
「フランもこの際だし杖とか買うか?」
「魔力制御ができるタイプが欲しいですね。まだまだ下手なので」
「じゃあ、買いに行くか」
武器屋に入りお目当ての武器を探す。
武器ごとのジャンル分けはされておらず、壁や箱に乱雑に武器が置かれていた。
見た感じだと可もなく不可もなくな感じだ。
値段相応で掘り出しもなさそうな店。
「私は決めました。フランちゃんはどうですか?」
ノノは店に入るなり店主に場所を聞き、お目当てのナイフと矢をすぐに買い終わっていた。
「早すぎだろ。吟味とかしなくてもいいのか?」
「私のは消耗品なので持ちやすくて傷が無ければ十分ですから」
ノノらしいと言えばノノらしいが、色気が無いな。
効率重視というべきだろうか。
「タクト様、この杖とこの杖どっちがいいですか?」
ノノと反対にフランは優柔不断のようだ。
ぱっと見二本とも差がわからない。
「お兄さん、どっちでもいいは禁句ですからね」
「先回りはやめてくれ……。そうだなどっちの方が持っていてしっくりくるんだ?」
「こっちです」
「じゃあそれにしとけ。戦闘の時は使いやすい物が一番だからな」
二人の買い物も無事終了し俺達は宿に戻った。
「どうですか? 似合いますか?」
新しく買ったローブを嬉しそうに着るフランをノノと二人で褒め俺達は眠りについた。
翌日の朝、珍しいフランの絶叫で目を覚ました。
「タクト様、ノノちゃん大変だよ! 私達の荷物が盗まれてるの!」
寝ぼけたまま俺とノノも自分の荷物を確認する。
日用品に装備、ヤギ頭の魔石と全て確認したが何一つ盗まれていない。
ノノもどうやら同じらしい。
「俺達は何も取られてないけど、フランは何を盗まれたんだ?」
「杖とローブです! それと昨日買った物が一通り!」
その言葉に俺とノノは首を傾げる。
「フランちゃん、昨日買った物って何? 私達昨日ここに着いたのが夜だったから、ついてすぐに寝たんだから買い物はしてないでしょ?」
「えっ……? タクト様そんなことないですよね?」
本気で驚いているフランは俺に助けを求めるが、俺の記憶もノノと同じだ。
昨日は結構遅い時間だったしこの町に着いてから買い物をしている時間はなかった。
「その時フランちゃん寝てたし、夢でも見てたんじゃない?」
「そんなこと無いよ。私確かに買ったんだよ。武器屋さんで杖とローブ、二人も似合うって言ってくれて……」
これは困ったな……。
フランが嘘を言っている様子は無いけど、それでも買い物をした記憶はない。
何かの魔法が原因だろうか? だとすると俺には効かないはずだし、フランに何かの魔法がかけられているってことか。
「フラン、少しいいか?」
「はい……」
落ち込んでいるフランの頭に剣を当てる。
何か魔法の影響なら【鴉雀無声】で無効化できるはずだ。
「何か変化はあるか?」
フランは弱く首を左右に振る。
こうなると更にフランが夢を見ていたんじゃないかと思ってしまう。
「騒いでごめんなさい、私顔洗ってきます……」
落ち込んだ様子でフランは外に出て行ってしまった。
「どう思いますか?」
「魔法でもないみたいだし、フランが寝ぼけていたとしか言えないんだよな」
この日はフランを励ますために、俺とノノはフランをできるだけ盛り上げたが、結局落ち込んだまま眠りについた。




