怖い人もいない所なんだな
私は今寝てたんでしょうか?
ベッドに入っているのは確かで、手に握っていたはずのお菓子もありません。
おそらくさっきの眠気が何かヒントになっているのは確かです。
タクト様とノノちゃんも熟睡しているようです。
でもなんで私だけ今起きているんでしょうか?
だいぶ遅くまで起きていたので、外も静まり返っています。
窓から外を眺めてみても民家の明かりは全て消えていますし、外を歩いている人は誰もいません。
小さな町ですから当然なのですが、どうしても嫌な違和感があります。
同じ現象は起きました。
少し怖いですけど、私は外に出ることを決めます。
軋む床を通り年季の入った扉を抜け、宿の外に出ます。
静寂に響く自分の足音が反響し他に人がいる様に感じてしまいます。
舗装されていない道を進み、昨日買ったお店を覗こうとしましたが中は見えません。
真ん丸のお月様を頼りに昨日一昨日に行っていない方向に進みます。
どこもかしこも無音で、私の足音だけが耳に届きます。
「怖い人もいない所なんだな」
この静寂が嫌で声を出しますが、一瞬で夜に消え余計に怖くなってしまいます。
やがて町の出口にたどり着きました。
夜なので門は閉まっていますが、不思議なことに憲兵さんもどこにもいません。
誰もいないのか?
詰め所らしき場所にも誰もいない。
これもアグリールと同じなのかな?
洗脳だとタクト様が気づかないはずはない。
もしかしてこれは夢なのかな?
そんなことを考えていると夜の怖さに負け、私は宿に戻ります。
少しだけ体が冷えていたのか、ベッドに潜るとほんのりと温かくなり歩いた疲れと共に眠気が襲ってきます。
この眠気はさっきのとは違う、本当の眠気だ。
私はそのまままどろみの中に沈んでいきました。
†
「フランちゃん、そろそろ起きて。今日はアレックスさんの仕事を手伝うんだよ」
目を開けるとノノちゃんが覗き込んでいました。
昨日の事は何も覚えている様子はありません。
「アレックスさんのお手伝いが終わったら、私一人で散歩してきてもいいかな?」
「私達も付いて行くよ? 大丈夫だと思うけどやっぱり心配だし」
「ノノちゃん大丈夫だって。タクト様、いいですか?」
心配してもらっているのはうれしいですが、今は一人になりたい。
タクト様がいいと言ってくれればノノちゃんも引き下がってくれるはず。
「わかった。危なくなったらとにかく叫べよ。助けに行くから」
「はい。ありがとうございます」
その言葉がとても嬉しいです。
それからアレックスさんのお手伝いを終え、私は一人で町の中を散策します。
気になっているのは昨日夜に向かった町の出入り口。
あそこに人がいるのかを確認しておきたい。
そこが使われていないなら、昨日人がいなかったことも十分に納得できます。
町の出入り口の詰め所を覗くと普通に人がいます。
「お嬢ちゃん何か用かな?」
「えっと、み、皆さんは、その……、夜もいるんでしょうか?」
私の最大限の勇気を振り絞って聞いてみます。
普段はノノちゃんにこういうことをしてもらっているせいか、上手に話せません……。
「当然だよ。俺達はここを守ってるんだから一日中ここには誰かがいるよ」
「ありがとうございます」
私は勢いよく頭を下げ、その場を離れます。
全力疾走をしたせいで胸が痛いです……。
そう言えば最近運動してませんでした……。
あそこには常に誰かがいる。
それなのに昨日は誰もいなかった。
それってどういうことなのでしょうか……。
「魔道具……」
不意に口から零れた言葉が妙にしっくりきました。
タクト様から教えてもらった天然の魔道具。
やっぱり魔道具が関係あるのだと思います。
一度魔道具についてタクト様に聞いた方がいいのかもしれません。
この時間なら休憩しているじかんでしょうか。
私は二人が毎日休んでいるお店に向かいます。
「魔道具について教えて欲しいって、急にどうかしたのか?」
「はい。実は――」
昨日話した内容を再び伝えると、タクト様は納得した様に頷きます。
「フランちゃん事情はわかったけど、魔道具にそこまでの力は無いですよね?」
「その可能性は俺が伝えたってことでいいのか?」
タクト様は何かを悟ったらしく、私にそう聞きます。
「はい。他にもいくつか教えてくれましたけど、私は魔道具が一番しっくりきました。なので魔道具を探して破壊するのが一番かと思いまして」
「わかった。俺達は何も覚えていないけどフランがそう言うなら魔道具なんだろうな」
タクト様は何も疑うことなく私の言葉を信じてくれました。
「魔道具は道具がモンスター化、つまりは魔力を吸収した物ってのは理解してるよな」
私は頷きます。
その辺りの事は昨日タクト様から聞いています。
「魔道具が生まれる場所っていうのはある程度決まっている。自然の多い所、善悪問わず感情が溢れているって感じの魔力の濃度が濃い所だ」
そうなると町を囲んでいる森の中ってことでしょうか。
「じゃあ、まずは森の中を探してみるか」
「天然の魔道具っていくらで売れるんでしょうか?」
「最低でも億は固いな。ましてこの規模の力を持っているなら公爵くらいにはなれるんじゃないか?」
もう桁が違いました。
それを売ればお金の力で公爵になれるなんてどれくらいの値が付くんでしょうか……。
私達はそのまま店を出て町の出口に向かいます。
「あのやっぱり私は宿に戻っていてもいいですか?」
急にノノちゃんがそんなことを言い始めました。
「やっぱりそうなるよな。俺もこの町から出ることに嫌悪感がある。たぶん魔道具の効果の一端だろうな」
タクト様までそう言ってこれ以上は進みたくないようです。
これは私が一人で探しに行かないといけないのでしょうか……。
「そう心配そうな顔するな。こういうことをしているなら、この町に居て欲しいってことだ。要は魔道具はこの町のどこかにある。悪いけどフランが探してくれ」
私の頭を撫でながらタクト様に言われ、私は魔道具探しを始めることにしました。




