Ep2-9 第三者(たにん)からしたら所詮そんなもの
夜。
俺と妹は眠りについていた。
昨日は気絶したので、眠りについた、という感じではなかった。しかし、今日は違う。何が違うかって?それは当然「自分の意志で地面に寝る」という事だ。
はっきり言って、俺は現代っ子だ。そう、布団orベッドで就寝、というスタイルが身についた軟弱少年。
ここに宣言しようっ!!
むりっ!!
そう、固い地面で雑魚寝ってできるわけないじゃないか。どこの修行僧なんだよっ!!
妹はこちらの気も知らずにすでに夢の中。俺は、目はつぶってはいるものの不満たらたらで考え事を続けていた。
住処ができたらベッドを作ろう!!
・・・・・まあ、こんな考えをする犬は、この世界広しといえども俺ぐらいだろうなー。
そう、あまりに自然に受け入れてしまっていたが今の俺は犬なのだ。
一番の違いはゼ・ン・ラ。なんというか開放感が半端ない。まあ、それ以上に全身毛でふさふさだが。
食べ物に関しては、まだ受け入れられる。なんせ、まだ生後2日なので固形物は口にすることができないからだ。
もし、固形物を口にするようになったら戸惑いが出るかもしれない。生で食べないといけない、というのもあるが、昨日の夜の事を考えると血まみれになるんじゃないだろうか?超野蛮人(犬)だ。自分的には世紀末の荒廃した街中でヒャッハーな三下のイメージが強い。そのうち大々的にピラミッド型の墓標を作ろうと画策するようになるかもしれない。自重せねば。
いずれにせよ固形物を口にできるようになれば、その時は料理することを考えたい。気分的に火であぶるだけでもずいぶん違う気がする。料理犬爆・誕っ!!
そしてトイレ。これはこまった。そう、開放感がぱないっす。すごく開放的な気分になります。この野生の空間で、敵に見つかるかもしれないという緊張感、膀胱を圧迫する利尿感、人間の時の記憶が残っているための背徳感、その他もろもろが混じって、まー、ほんとにもー。
いけない扉ひらいちゃう?
※ 良いこの皆さんは真似をしないようにお願いします。排泄はきちんと施設を利用しましょう。
まだまだ気が付いていないだけで、恐らく人間だった時の差異と価値観の違いなどがどんどん出てくるだろう。頭が痛いものだ。
そういった違いも確認していかないといけないうえに、生き残るの事も考えていかないといけない。
もう少し勉強以外の事にも手を出しておくべきだったのだろうかと少々後悔する。
後は、明日は何をしないといけない、とかモフモフ成分が足りないとか。そういえばシラユキの能力もしっかり確認しておかなければならないなー、とかモフモフ成分が足りないとか。
言いたいことはわかるっ!!
だけど考えてみて欲しい。
ようやく大学生になるかならないか、そんな身の上で死亡、そしてよその世界で覚醒したら当日から死の危険に遭遇し続けたそのストレスを。
もう、いっぱいいっぱいですっ!!!
まともな住処があればまた違ったんだろうなー。
目をつむったまま、特に考えをまとめることはなく雑然と思考しているとやがて眠気が襲ってきた。
微睡みつつ思う。
シラユキは等身大の抱き枕として意外にモフモフ感が良い気がする
地面の固さに辟易しつつ、けれど寝れないことはなさそうであった。
どのくらい眠っていただろうか?
長かったのか?もしくは深く短い眠りだったのか?
不穏な気配を感じた為に、目が覚める。
なんだ?
目を開いて最初に見えたのは
広場の中心に立つ「烏賊」だった。
????
夢の中では相変わらず人間の頃の記憶が再生されていたため、一瞬、前世界と今世界の狭間で、認識力がエラーを起こしていた。
森の中にたたずむ烏賊って・・・・。
なんというか、トラブル臭がぷんぷんしていた。
関わるまい(0.0001秒)
瞬時に見なかったことにする。どうせ相手は気が付いていないようだ。距離的にもある程度あるので、まあまずこちらに絡んでくることはないだろう。
楽観的に考えつつも、万が一のことを考えて逃げ道を確認しておく。最悪、シラユキをたたき起こしてから、木の洞の反対側からダッシュで逃げればいいか。
しかし・・・・・あの烏賊、やたらと落ち着きがないなー。
なんと言うか、えらく小刻みに貧乏ゆすりをしている。まあ、烏賊の貧乏ゆすりっていうのも変な感じだ。
すっかり目がさえてしまったため、眠れないので心の中でセリフを勝手にあてて遊んでみることにする。
『めがね、めがね』
・・・・・・さっきまでの緊張感が薄れていくような気分だ。
のんびりと眺めつつ考えていると、反対方向に妙な気配を感じた。
どうもFSEを上げてから、妙に周囲の気配に敏感になってきているような気がする。まあ、野生で生活する上では便利といえば便利か。
それはともかく
妙な気配の方を見ると・・・・・・今度は「蛸」が佇んでいた。
もう勘弁してください。
正直、ほんといっぱいいっぱいだ。
関わりあいたくないのに、蛸は俺たちの隠れている木を隠れ蓑にして烏賊の様子をうかがっていた。
烏賊
木
蛸
こんな感じだ。
蛸は木にぴったりと寄り添って、烏賊を見ている。
俺は木の洞から、蛸の様子をうかがっている。
そして少し視線を逸らす蛸。
目が合いまくっていた。
もう、逃げたいっ!!
ちょっと涙目でそう思っていたら、蛸が徐に触手の一本を口元に持っていく。そう、まるで「しーーーーっ」っとこちらに騒がないように釘を刺しているかのようであった。
えっ??
一瞬理解できない。
蛸がそんな行動をするなんて微塵も思っていなかったので、一瞬ついていけない。
もしかすると蛸にとっては別の意味ではないのだろうか?ぶっ殺す、とか。
そう考えもしたが、蛸の目が明らかにこちらに静かにしているように、っと念を押しているように感じた。
気分で心の声を追加してみる。
『少しの間、黙ってみてるんだ。良いかい?坊や』
こんなところだろうか?
とりあえず、そちらの言い分を理解した、と主張するように、両手で口を押え頷いてみる。
こちらが意図を理解したと思ったのか、再び蛸は烏賊の様子をうかがっていた。
そちらを伺ってみると、まるで錆びついた機械が動いているかのように、ぎこちない仕草で周りを見渡している烏賊の姿が目に入ってくる。なんでそんなに落ち着きがないのだろうか?
その様子を見たのか、蛸はため息をついているかのように長く息を吐く。
唐突に、蛸は地面に墨を吐き出して土をこね始めたのだった。
何を奇怪な行動をしているのだろう?こちらの好奇心を感じたのか、こちらを見て(おそらく)にやけた。
ますます疑問に思っていると、今度はその土を体中に塗り始める。みるみる塗られていくその黒い土によって、赤黒い色をした蛸があっという間に闇にまぎれていったのだった。
なるほど、迷彩か
何らかの準備が整ったのか、蛸は再びこちらに向かって沈黙を貫くように、と念を押すような感じで手を口元にあてていた。先ほどは気が付かなかったが、その手(触手)の先には爪が生えている。
己の注意深さの無さを反省しつつ、神妙にうなずくと蛸は満足そうだった。
なぜおとなしくいう事を聞くのかって?
そりゃ、もちろん変なトラブルとかかわりあいたくないからさっ!!
どうやら目の前の蛸はある程度、知性と理性を持っているようなので下手にかかわらなければ問題ないと判断したのだった。
蛸と烏賊、お互いにどんな因縁があるのかわからない2匹の演劇が始まる。
蛸は徐に全ての手足(触手?)をすべて絡めてまとめたかと思うと回転し始める。
ぎょっとしてみていると、なんと静かに地面にもぐって行ってしまった。
すごっ!!
えっ?あれもしかして土竜だった?やばっ、真眼で確認してなかった(笑)というか、土の中にもぐるのならなんで迷彩したんだ、意味ねぇーっ!!
一瞬、目の前で起きた事が余りに予想とかけ離れていたために変な笑いが出てくる。当然、声は出さないが。
しかし、えらく静かにもぐっていったなー。
感心しながら烏賊の方を確認してみる。
あれ?更に落ち着きがなくなってる?
何かを感じたのだろうか?もしくは何も感じないからだろうか?烏賊はますます落ち着きがなくなってきている感じだった。
なんだろう、あれ。似たような人を見た気がするなー。
そうそう、面接のときに自分は冷静だ、っと自分に言い聞かせている受験生があんなだったかな?
色々考えていると、突然、烏賊の背後でボコッっと土が盛り上がる。
さっきの蛸がわざわざ自分の存在を主張するかのようにわざとやったのだろう。何せ、ついさっきまでは毛ほども地面を盛り上げる気配がなかったのだから。
そうこう考えていると、地面の盛り上がりは烏賊の方向に向かっていく。
何が起こるんだろう?
ちょっとドキドキ。
なんというか、蛸とのわずかながらの交流に血生臭い気配が全くなかったために、スポーツ観戦でもしている気分になってくる。
何が起こるのか?そう期待していたら烏賊に接敵するはるか手前で突然、さっきまで存在していた消えたかのように盛り上がっていた土が停止した。
??
あの蛸、何がやりたかったのだろう?
そう思っていると烏賊の様子がおかしい。それはもう、これでもかっ!!と言うくらいに落ち着きなく周りを見回していた。まるで人格(あるのか?)崩壊を起こしたかのようでもある。
一瞬、何も起こらないのかっ、とがっかりしていたら、突然、烏賊の周りの地面から8本の触手が生えてきた。派手にではなく、物音を立てず、そして自然に生えてきた触手に烏賊は何の反応もできない。
パパパパパパパパンッ
烏賊が反応できなかった一瞬の事、その一瞬で烏賊を囲むように生えてきた触手は、そのすべてで鞭の様な一撃を与える。
あれは痛いっ!!
なんというか、打ち込んだ後の衝撃?そういったものが隠れている木の表面をたたくかのように、一瞬ビリッと震えるのを感じた。
蛸の攻撃はそれで終わらない。
鞭打った後、そのまま触手を絡め低下の体を締め上げていく。
プッ
ボンレ〇ハム状になった烏賊の姿に笑いが込み上げる。
このまま終わるのか?そう思っていたら、今度は関節技をかけるかのように蛸の触手が烏賊の触手を絡めていく。
やばいっ!爆笑しそうだっ!!
関節ねーよっ!!
何とか声をこらえてみるが、体は小刻みに揺れていた。
だってねぇ?軟体生物が軟体生物に関節技って?
ある意味珍しい光景が見れたと思っていたら、戦いは終わっていた。蛸がとどめを刺さずに烏賊を開放したのだ。
烏賊の傍らにたたずみ、見下ろす蛸。
なんだろう、あれ?何となく体育教師に説教を受けている在りし日の俺を彷彿させるのだが。
ちょっともやもやしていると、満足したのか蛸がこちらにやってくる。
見てみると、いつの間に引きちぎったのかその手には数本に雑草が握られていた。
俺の目の前まで来ると、徐にその雑草に墨を吹きかける。そうやって黒くなった雑草は木の洞の入り口をふさぐかのように積み上げられていった。
どうやら俺とシラユキが外から見えないようにしてくれているようだ。
最後に見えたその眼はこう言っているようだった。
『ゆっくり休みな、坊主』
そうやってできた目隠しのおかげで外の様子は見て確認することができない。
時折、走り回る音や争う音が聞こえてくるので外の様子が平和とは言い難いようだ。幸いなことに、目隠しが効いているのかこちらに近寄ってくる存在はないようだが。
まあ、こちらに飛び火しないようなら気にせずに寝てしまおう。
外でいまだに続く争い。
だけど、幸いなことにその争いの渦中には巻き込まれることはなかった。
俺は安全に眠ることができることのありがたさをかみしめつつ眠りについたのだった。
しかし、墨臭いな。
次の日の朝、木の上にぶら下がる烏賊から声をかけられるまで、すでに済んだ出来事と思い込んでいた。
前話の主人公視点になります。
考えては修正しての繰り返しで、少々遅筆気味になってます。できるだけ早く次を上げたいな。




