表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DOG LIFE  作者: MIYABI
第2章 森の海
19/21

幕間 死闘という名の狩り

いわゆる「前ふり」にあたるお話になります。

 静寂に包まれる森の中。

 「武人」は静かに(たたず)んでいた。

 それは今から始まる死闘のための準備であり、己の気を静める儀式でもあった。

 そこは銛の中に突然できた闘技場。

 その一帯は不自然に、木が伐採(ばっさい)されてできたかのような広い空間。

 いつの頃からか、その一帯の獣たちの死闘の場として用いられている空間。


 当然のことながら、野生の獣、魔物たちにとっての死闘にルールはない。死闘を繰り広げる最中に横やりが入ることもままある。

 いわば無法地帯。


 そんな中、武人は静かに気を練り「敵」の到着を待つ。


 それは「師」の仇。

 それは終生をかけても乗り越えなければならない存在。

 そしてそれは己の弱さの象徴。


 非才な身の上では、打倒困難。

 されど、逃げる事は己の心の死と同義。

 故に、ただひたすらに己を鍛えては挑戦し、そして死の淵に追いやられる。

 性格ゆえに(から)め手は不得手。

 ただひたすらに実直(じっちょく)に、愚直(ぐちょく)に挑戦を続けて早104戦。

 いまだ縮まらぬ「敵」と己の力量に焦りを感じるのも確かであった。


 『はやるなっ!、恐れるなっ!!、揺らぐなっ!!!』


 「武人」はただひたすらに己に言い聞かせる。

 その様子は、まるで祈りにも似ていた。



 故に、敵は嘲笑する。



 ぼこっ


 「武人」の立つ位置よりも後方10mほどだろうか?突然、地面が盛り上がる。それは、まるで地面の下に巨大な何かが、突然、現れたかのようでもあった。



 『来たかっ!!』


 とうとう、今宵(こよい)の対決の時間がやってきたことを「武人」は悟った。

 その心は、己の「武」を全力でぶつけられる相手が現れたことに対しての悦びと、そして―――――「武人」本人が自覚はしていないが―――――敗北に対する恐怖が入り混じっていた。


 己を鼓舞(こぶ)するように念じる。


 『今日こそは勝つ』


 「今日こそは」

 戦いの場において、過去の敗北が己の心に焼き付いているために出た言葉であった。今までの敗北を糧にするために出た言葉ではなく、恐怖から出た言葉、と結局「武人」は自覚することができなかった。



 そして、それは戦いの場において致命的な隙を生むことになる。


 そして、その致命的な隙を「敵」は見逃しはしなかった。



 ぼこぼこぼこっ


 地面の下を、巨大な何かが移動しているかのように地面は「武人」に向かって一直線に盛り上がってきていた。

 その光景に、一瞬とはいえ「武人」は気を取られる。

 今までのパターンとは違っていた。「敵」にとって「武人」は取るに足らぬ存在。故に堂々と―――――己の存在を誇示するかのように―――――「武人」の前へと姿を現す。

 それは今まで繰り返された一幕。

 それは今まで繰り返された嘲笑。

 「武人」にとっては当たり前となってしまった戦いの始まり。



 そのために「武人」は「今まではと違う戦いの始まり」に一瞬ついていくことができなかった。



 己の失策を悟る。

 「いつも通りの戦闘の開始」を待っていた己を(ののし)る。

 平静を保てぬ未熟さを恥じる。


 (あせ)る心。

 無理やり心を押さえつけた瞬間に、自分に向かってきていた「盛り上がり」が唐突に急停止、そして敵の気配が消える。

 

 『どういうことだっ?』


 まるでない気配に、再び揺れる心。

 一度、無理やり抑え込んだがために、その動揺は先ほどとも比べようがないくらいに大きい。

 周囲を見回す。

 心は動揺したまま。

 そのために「最悪の隙」をさらすこととなった。



 「敵」は「暗殺者」

 

 気配を操ることに()ける存在。

 気配を消しての移動に長ける存在。

 存在を誤魔化すことに長ける存在。


 その思い込みが、盛り上がった地面が陽動(ようどう)と判断させる。

 その思い込みが、死角からの攻撃を警戒(けいかい)させる。



 その思い込みが、単純な「答え」から目を逸らさせる。


 (ある)いは恐怖から来る思い込みだったのかもしれない。



 「武人」は単純な答えである「地面からの攻撃が来る」、という事に目を逸らしてしまった。



 「武人」を中心に、八方から吹き上がる「鞭」の攻撃。

 

 冷静な「武人」であれば、強靭(きょうじん)な脚力にて木の枝に届くほどの跳躍(ちょうやく)にて(かわ)していたかもしれない。

 もしくは、被弾を覚悟し、己の攻撃にて相打ちを狙ったかもしれない。


 動揺していた「武人」はどの選択肢をとることもできない。

 意識を逸らしていた「武人」は、その攻撃に反応することができない。


 直撃。


 八方からの「鞭」の攻撃による激痛。それだけでは終わらなかった。

 「暗殺者」の真の武器は「柔」。

 絡め取られ、そして締め上げられる。


 本来であれば、それにて決着。

 しかし「暗殺者」はわざと拘束(こうそく)をとく。

 すでに「武人」がろくに動けなくなっていることを知っているからだ。


 嘲笑。


 とどめを刺さずに、その場を立ち去る「暗殺者」。

 それは「武人」にとっての、何物にも代えがたい侮辱(ぶじょく)であった。


 しかし「暗殺者」はしっている。

 しかし「武人」は理解している。


 とどめを刺すのに己の労力は必要としないことを。



 ここは野生の森の中。

 

 強靭な獣たちが跋扈(ばっこ)する無法地帯。

 凶悪な魔物たちが徘徊(はいかい)する無法地帯。




 「武人」駆り立てるのは「師の敵討ち」。


 「武人」を性にしがみつかせるのは「暗殺者」。








 「武人」の長い夜が幕を開ける。

本編外のお話が2本続きました。

次からは本編に戻ります。

とうとう主人公が周りの探索を始めることとなる予定になっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ