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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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9/21

第9話 やってみよう

翌朝。

「お兄様」

「やっぱり来たか」

朝食の席で、お兄様が言った。

「何で分かったんですか?」

「昨日のお前の顔を見れば分かる」

また。

思いついた顔?

私、そんなに分かりやすいんだろうか。

「昨日の話なんですけど」

「仕事にする話?」

「はい」

お兄様がカップを置いた。

今度は、からかわない。

「やりたいのか?」

聞かれて少しだけ考える。

仕事にするのが怖くないかと言われたら、よく分からない。

だって、何をしたらいいのかもまだ分かっていない。

でも。

アシュリーさんが鏡を見たときの顔。

クララさんが「小さなお花も使っていいんですね」と笑った顔。

ミレイユさんが、楽しそうに話を聞いていた顔。

思い出す。

「やってみたいです」

答えは、普通に出た。

「なら、やってみればいい」

お兄様はあっさり言った。

「いいんですか?」

「俺が決めることじゃないだろう」

「伯爵令嬢が商売って、大丈夫なのかなと思って」

「珍しくはある」

やっぱり。

「でも、できないわけじゃない。家の名前を使うこともあるだろうから、その辺りは父上たちが戻ったら話した方がいいだろうけど」

両親は今、少し離れた領地に滞在している。

そうだった。

「ただ」

お兄様が私を見る。

「一人で勝手に全部決めるなよ」

「決めません」

「本当に?」

「……たぶん」

「エレナ」

「分からないことは聞きます」

これは本当。

「契約とか金の話は?」

「聞きます」

「俺か、詳しい人間に見せろ」

「はい」

「無理な数を受けるな」

「はい」

「思いついたからって、その日のうちに全部始めるな」

「…………」

「そこだけ返事がないな」

だって、思いついたら試したい。

「気をつけます」

「気をつける、ね」

信用がない。

でも。

「応援してるよ」

最後にそう言われて。

ちょっと嬉しくなった。

その日のうちに私は紙を広げた。

仕事にするなら、何を決めればいい?

分からない。

だから書く。

誰に提供する?

何をする?

どこまで自分がやる?

服代は?

ルカには?

仕立屋さんには?

予約は?

時間は?

値段は?

どうやって知ってもらう?

「…………」

増えた。

一枚。

二枚。

三枚。

「お嬢様」

ローラが机の上を見る。

「これは?」

「分からないこと一覧」

「多いですね」

「うん」

でも。

分からないことが多いから、できない。

ではない。

分からないなら聞けばいい。

「ローラ」

「はい」

「ロイさんに連絡したい」

「本日ですか?」

「できれば」

「まずは、ご都合を伺いましょうね」

「……はい」

学習している。

少しずつ。

数日後、私はロイさんの仕事場を訪ねた。

侯爵家の屋敷ではなく、街にある建物。

人が出入りしている。

帳簿。

書類。

商品の見本らしきもの。

現世の会社とは全然違う。

でもなんとなく、仕事場だ、ということが分かる。

「本当に来た」

迎えたロイさんが笑った。

「来ますよ」

「もう少し悩むかと思った」

「悩みました」

「何日?」

「一晩」

「早いな」

そう?

「やりたいって分かったので」

私は持ってきた紙を机に置いた。

「それで、分からないことを書いてきました」

ロイさんが一枚目を見る。

二枚目。

三枚目。

「…………」

「多いですよね」

「いや」

顔を上げる。

「いいと思う」

「本当ですか?」

「分からないのに分かったふりして始めるより、ずっといい」

よかった。

一つずつ話していく。

私はこういう人に届けたい。

好きなものはある。

可愛くなりたい。

綺麗になりたい。

でも、自分に何が似合うのか分からない。

鏡を見ると、人と比べて落ち込む。

「そういう人に」

私は考えながら言う。

「自分のいいところって、ちゃんとあるんだって分かってほしいです」

ロイさんは口を挟まず聞いている。

「それで、自分で鏡を見て」

何だろう。

大げさな言葉じゃない。

人生が変わる。

とか。

世界一美しくなる。

とか。

そういうのじゃなくてもっと小さいもの。

「今日の私、可愛いなって思えたらいい」

言ってみて。

これだと思った。

「それが、やりたいこと?」

「たぶん」

「じゃあ、それを中心に考えればいい」

「中心?」

「君ができることを全部並べるんじゃなくて、その人をそこまで連れていくために何が必要か」

なるほど。

また話が整理される。

私の頭の中には。

服。

髪。

色。

素材。

メイク。

体型。

姿勢。

表情。

いっぱいある。

でも、売りたいのは知識の一覧ではない。

その人が、自分のことを、少し好きになれる状態。

「……ロイさん」

「何?」

「すごいですね」

「急だな」

「話してると、頭の中が整理される」

ロイさんが少し笑った。

「それはよかった」

帰るまでに全部が決まったわけではない。

むしろ、新しく考えることも増えた。

でも昨日よりはっきり形が見える。

「エレナ嬢」

帰り際、ロイさんに呼び止められる。

「はい?」

「一つだけ」

「何ですか?」

「夢みたいだと思ってる?」

「え?」

「好きなことをやって、人に喜ばれて、それがお金になること」

図星。

「……ちょっと」

「なるよ」

あっさり。

「ただし」

ロイさんが笑う。

「夢で終わらせないように考えようか」

その言い方がなんだかすごく心強かった。

帰りの馬車の中で私は紙を見る。

いっぱい書き足されている。

いっぱい直されている。

それでも最初よりずっと分かりやすい。

私は何を売りたいんだろう。

服?

違う。

メイク?

違う。

髪?

それだけでもない。

ロイさんに最後に聞かれた。

『エレナ嬢は、何を売る?』

答えはまだはっきりしない。

でも、もう少しで掴めそうな気がする。

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