第10話 私が売るのは、「魅せ方」です
数日間私は考えた。
服ではない。
髪でもない。
メイクでもない。
全部使うけれど。
どれも、それ自体が目的ではない。
アシュリーさんを思い出す。
好きな赤。
花。
リボン。
何も捨てなかった。
ただ使い方を変えた。
お兄様も。
顔を変えたわけではない。
体型が変わったわけでもない。
元々あったものをちゃんと見えるようにしただけ。
クララさんも。
ミレイユさんも。
きっと同じ。
変える、というより見つける。
そして使う。
◇
「ローラ」
「はい」
「分かったかも」
「何がでしょう?」
「私が売るもの」
ローラが手を止める。
私は紙に書いた。
『魅せ方』
見る。
うん。
これだ。
ただ「見せる」ではない。
その人の魅力を見つけて。
どうしたら、一番素敵に伝わるか。
その人自身が好きなものも使って。
その人らしく魅力を表に出す。
だから魅せ方。
「自分を好きになれる、魅せ方」
声に出してみる。
ちょっといい。
「素敵ですね」
ローラが言った。
「本当?」
「はい。お嬢様らしいと思います」
それ、かなり嬉しい。
◇
次に会ったロイさんへ、そのまま伝えた。
「私が売るのは、魅せ方です」
「魅せ方?」
「はい」
私は紙を広げる。
「服だけを選ぶんじゃなくて、まずその人が何を好きなのか、どう見られたいのかを聞きます」
「うん」
「それから、顔や身体のバランス、色、雰囲気を見て、その人に合う形を考える」
「うん」
「必要なら仕立屋さんに相談する。髪はルカに相談する。メイクも考える。アクセサリーも。場合によっては、姿勢や話し方も」
言葉にしていくほどはっきりしてくる。
「私が全部作るわけじゃないんです」
「そうだね」
「でも、全部を見て、その人が一番素敵に見える形を考える」
ロイさんが笑う。
「前にも言ったけど」
「はい」
「君は全部作る人じゃなくて、全部を繋ぐ人になればいい」
あ。
やっぱり。
それだ。
私は服を縫えない。
髪も、ルカほど綺麗には作れない。
アクセサリーだって作れない。
でも、この人のここが素敵。
だから、
この色。
この形。
この髪。
この見せ方。
それを考えて必要な人に繋ぐ。
「それなら、できそうです」
「できそうというか、もうやってるけどね」
「……確かに」
仕事にしていなかっただけで、やっていること自体はもう同じだ。
◇
「それで」
ロイさんが紙を見る。
「誰に売る?」
また来た。
でも今度は答えられる。
「垢抜け迷子の人」
「……何?」
あ。
「えっと」
現世用語。
「綺麗になりたい気持ちはあるけれど、自分に何が似合うのか分からない人です」
「なるほど」
「好きなものもある。でも、それを自分にどう使えばいいのか分からない」
アシュリーさんみたいに。
好きなものが、似合わないと言われた人もいる。
ミレイユさんみたいに。
なりたい印象へ行く方法が分からない人もいる。
「そういう人が、自分を見て」
私は少し考える。
「『今日の私、素敵』って思えるようになる」
派手ではない。
でも、私はそれがいい。
「そのための魅せ方を、一緒に考えたいです」
ロイさんが少し黙る。
「いいんじゃない?」
「本当?」
「うん。前よりずっと分かりやすい」
よし。
「じゃあ、次は値段と、実際の流れだね」
「…………」
現実。
戻ってきた。
「嫌そうな顔した」
「してません」
「したよ」
笑われた。
◇
その帰り、私はそのままルカのところへ向かおうとした。
「今から?」
ロイさんに聞かれる。
「はい」
「連絡は?」
「…………」
また。
「します」
少しずつ学習している。
◇
後日。
予定を合わせて、ルカのところへ行った。
「あら、エレナ」
「お願いがあるの」
「何?」
「一緒に仕事してほしい」
「いいじゃない!」
「まだ何も説明してない」
早い。
私より早い。
「だって面白そうだもの」
ルカは全然気にしていない。
「でも、ちゃんと聞いて」
「はいはい」
私は今まで考えたことを説明した。
人に似合うものを一緒に考える。
ただし、好きなものを捨てさせるのではない。
髪、服、メイク、アクセサリー。
必要な専門家と繋ぐ。
「髪は、私よりルカの方が分かるでしょう?」
「もちろん」
「だから、一緒にやってほしい」
ルカは少し考えた。
「仕事として?」
「うん」
「なら、条件があるわ」
「何?」
「私の意見をちゃんと聞くこと」
前にも言われた。
「聞くよ」
「エレナは似合う方向を見つけるのが上手い。でも、髪で実際に何ができるかは私の方が詳しい」
「うん」
「だから、『これにして』じゃなくて、『こう見せたいけど、どうしたらできる?』って聞いて」
「分かった」
むしろその方がいい。
私は専門家を従わせたいわけじゃない。
一緒に考えたい。
「あと」
ルカが続ける。
「仕事なら、仕事として扱って」
「もちろん」
「今までみたいに、知り合いだからって曖昧にしないでよ」
報酬。
ロイさんにも言われた。
「ちゃんと考える」
「よろしい」
そしてルカが手を出した。
「じゃあ、やりましょう」
私はその手を見る。
初めて、明確に、私の仕事を一緒にやってくれる人。
「よろしくお願いします」
手を握るとルカが笑った。
「あら、急に真面目」
「だって仕事でしょう?」
「そうね」
その言葉がなんだか嬉しい。
◇
ロイさんに報告すると。
「早いね」
第一声がそれだった。
「ちゃんと予定は聞きました」
「そこじゃなくて」
「何ですか?」
「もう仲間を増やしたんだなと思って」
仲間。
そうか。
ルカは仲間になったんだ。
「……嬉しいかも」
「よかったね」
「はい」
また一つ形になった。
私一人ではできないことが。
誰かと一緒ならできる。
ルカは髪。
仕立屋さんは服。
私はその人を見て全部を繋ぐ。
これ、かなり面白い仕事になるんじゃない?
◇
帰る前に私はロイさんを見る。
「ロイさん」
「何?」
「ロイさんと話すと、整理しやすいです」
「そう?」
「はい。私、一人だと『これやりたい』『あれもやりたい』って増えていくので」
「それは何となく分かる」
「何で」
笑われる。
でも本当にそうだ。
私が広げる。
この人が形を見つける。
「また分からないことがあったら、聞いてもいいですか?」
「もちろん」
あっさり。
「面白いからね」
やっぱりそこなんだ。
でもいい。
私も面白い。
「じゃあ、またお願いします」
「うん」
部屋を出ながら少しだけ思う。
この人と話すの、結構好きかもしれない。
――もちろん。
今のところ。
仕事の話がという意味だけど。
◇
私がやりたいことが少しずつ分かってきた。
可愛いものを選ぶだけではない。
綺麗な人を、もっと綺麗にするだけでもない。
本人もまだ気づいていない魅力を見つけて。
好きなものと繋げて。
その人自身が、鏡を見るのを少し楽しみにできるようにする。
私が売るのは「魅せ方」。
自分を好きになれる、魅せ方。
これならやってみたい。




