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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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8/21

第8話 それ、仕事にしたら?

「最近、君の妹が面白いことをしてるらしいね」

そう言われたダミアンは、手にしていたカップを置いた。

「……どこで聞いた?」

向かいに座っている男が笑う。

「どこっていうほどでもないよ。ただ最近、結構聞く」

ロイ・アシュフォード。

アシュフォード侯爵家の次男。

ダミアンとは学生時代からの友人で、今は自分で商売をしている。

「ベルフォード家の令嬢に相談すると、見違えるって」

「話が大きくなってるな」

「でも、完全な嘘じゃないんだろう?」

「まあ」

「君もやられたらしいね」

「…………」

「前より似合ってるよ、その色」

「お前まで言うのか」

ロイは楽しそうに笑った。

「何をしてるの?」

「俺に聞くな。本人に聞け」

「じゃあ、会わせてよ」

「何で?」

「面白そうだから」

「そう言うと思った」

ダミアンが額に手を当てた。

数日後、お兄様が突然部屋に来た。

「エレナ。客だ」

「お客様?」

「俺の友人」

「お兄様の?」

「お前に会いたいらしい」

「私に?」

誰。

何で。

「何かした?」

「してない。たぶん」

「たぶん?」

不穏。

でも、来ているなら仕方ない。

応接室へ向かう。

部屋に入ると、男性が一人、お兄様と話していた。

私を見ると立ち上がる。

「初めまして。ロイ・アシュフォードです」

アシュフォード。

記憶にある。

侯爵家。

そして、私は挨拶を返しながら見た。

髪。

顔。

服。

靴。

全体のバランス。

姿勢。

「…………」

珍しい。

あまり直すところがない。

年齢は、お兄様より少し上だろうか。

派手な顔立ちではないけれど、清潔感があって、全身がちゃんとまとまっている。

服も本人に合っている。

サイズもいい。

色も悪くない。

髪もやりすぎていない。

「エレナ?」

お兄様の声で我に返る。

「あ」

しまった。

見すぎた。

ロイさんが笑っている。

「何かついてた?」

「いえ」

「じゃあ、何?」

「……珍しいなと思って」

「何が?」

正直に言うか。

「直したいところが、あまりないので」

一瞬。

沈黙。

お兄様が私を見る。

ロイさんも私を見る。

そして笑った。

「それ、褒められてる?」

「かなり」

「なら、よかった」

この人よく笑うな。

ロイさんが私に会いに来た理由は、すぐに分かった。

「最近、令嬢たちの相談に乗ってるんだって?」

「はい」

「何をしてるの?」

「何を……」

説明しようとして、止まる。

何をしてる?

服を選ぶ。

髪を考える。

メイクも。

アクセサリーも。

場合によっては姿勢や話し方も。

でも、それだけじゃない。

「その人が、どう見えたら一番素敵かを考えています」

「へえ」

「あと、何が好きなのかも聞きます」

「似合うものだけじゃない?」

「それだけだと、本人が楽しくないかもしれないので」

ロイさんが少し身を乗り出した。

「それで、実際に変わった?」

「変わりました」

即答。

「アシュリーさんも、お兄様も」

「その自信すごいな」

「結果出てるので」

また笑われた。

何で。

「誰が服を作るの?」

「仕立屋さんです」

「髪は?」

「ルカ」

「化粧は?」

「私が考えることもあります」

「服の形も全部君が?」

「そこは仕立屋さんに相談します。私は男性服とか、仕立てについて全部詳しいわけじゃないので」

「なるほど」

質問が早い。

私が一つ答えると、次が来る。

何をしているのか。

誰が作るのか。

どこまで私がやるのか。

何人くらい相談が来ているのか。

今後も増えそうか。

「ロイ」

お兄様が呆れたように言う。

「何の尋問だ」

「尋問じゃないよ」

ロイさんは笑っている。

「面白いんだ」

私もちょっと面白い。

今まで、私が考えていたのはほとんど「どうしたら似合うか」だった。

ロイさんが聞くのは、その外側。

誰が。

どうやって。

何人に。

続けられるのか。

視点が違う。

「で」

一通り話したあとロイさんが言った。

「それ、仕事にしたら?」

「…………」

仕事。

また出た。

ローラも似たようなことを言っていた。

「お金をもらうってことですか?」

「そう」

「でも、楽しくてやってるだけです」

「楽しいと、お金をもらっちゃいけないの?」

「…………」

そう言われると別に、いけないことではない。

「相談したい人がいる。君にはできることがある。実際に喜ばれてる」

ロイさんが指を折りながら数える。

「需要があって、価値を提供できて、結果も出てる」

「需要」

「欲しい人がいるってこと」

それは分かる。

手紙、増えてるし。

「もちろん、仕事にするなら考えることは増えるけど」

「例えば?」

「値段。予約。誰に何を頼むか。材料費。時間。どこまで君がやるか」

「…………」

いっぱいある。

「面倒そう?」

聞かれて。

考える。

正直。

ちょっと。

でも。

「面白そう」

口から出た。

ロイさんの目が、少し楽しそうに細くなる。

「そう?」

「はい」

今まで仕事にするという発想がなかった。

でも、もしこれがお金になるなら。

私は好きなことをして。

誰かが喜んで。

それで仕事になる?

「ちょっと面白そうです」

もう一度言う。

今度は、さっきよりはっきり。

「じゃあ、考えてみれば?」

「ロイ」

お兄様が口を挟む。

「煽るな」

「煽ってないよ。決めるのはエレナ嬢だから」

エレナ嬢。

さっきからそう呼ばれている。

「仕事にするのは俺じゃないしね」

押してこない。

やれとも言わない。

ただ、選択肢を置いただけ。

「…………」

仕事か。

帰り際、ロイさんが言った。

「もし本気で考えるなら、相談には乗れるよ」

「どうして?」

「面白そうだから」

また、それ。

「あと」

ロイさんが笑う。

「商売の話なら、少なくともダミアンよりは詳しい」

「聞こえてるぞ」

後ろからお兄様の声。

私は思わず笑った。

この人話しやすいな。

その夜、ベッドに入ってからも。

仕事。

という言葉が、頭に残った。

楽しいこと。

人に喜んでもらえること。

自分が得意なこと。

それがお金になる。

そんなことあるんだろうか。

いや、あるから仕事って存在するのか。

現世では仕事は仕事、好きなことは好きなことってどこかで分けて考えていた。

でも今、私にはやってみたいことがある。

しかも、頼みたいと言ってくれる人までいる。

「…………」

明日、お兄様に相談しよう。

分からないことは調べればいい。

やりたいかどうか。

もうだいたい分かっている。

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