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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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7/21

第7話 どうやら、噂になっているらしい

アシュリーさんのお茶会の日。

私は会場へ入ってすぐ、彼女を見つけた。

そして心の中で、かなり大きく頷いた。

いい。

すごくいい。

あの日と同じドレスを着ているのに、今日は自分で選んだらしい小さな髪飾りが一つ足されている。

ちゃんと似合っている。

しかも楽しそう。

これ大事。

「エレナさん!」

私を見つけると、アシュリーさんがぱっと笑った。

その笑顔まで含めて、前よりずっと華やかに見える。

「とても素敵です」

「本当ですか?」

「はい。その髪飾り、ご自分で?」

「分かります?」

「分かります」

ちょっと得意そう。可愛い。

「前なら、もっと大きなものを選んでいたと思うんです。でも、今日はこれくらいかなって」

「いいと思います」

自分で考えて選んだ。

それが、なんだかすごく嬉しい。

私の答えを覚えて、そのまま真似したわけじゃない。

考え方を使って、自分で選んだ。

これ、すごくいいな。

そして周囲の反応もよかった。

「アシュリーさん、今日はいつもと雰囲気が違いますね」

「その髪型、とてもお似合い」

「赤なのに、ずいぶん柔らかく見えるのですね」

アシュリーさんは、そのたび嬉しそうに笑っている。

私は少し離れたところで紅茶を飲みながら観察する。

仮説。

実行。

反応。

成功。

「……ほらね」

「何がです?」

隣にいたアシュリーさんに聞かれた。

「いえ。何でもないです」

危ない。つい口に出た。

問題は、そのあとだった。

「エレナさん」

声をかけてきたのは、背の高い令嬢だった。

すらりとしていて、直線的な印象が強い。

「クララと申します」

「エレナ・ベルフォードです」

「存じています。あの……アシュリーさんの装いを考えられたのは、エレナさんだと伺って」

横を見る。

アシュリーさんが、にこにこしている。

広めたな。

「もし、ご迷惑でなければ」

クララさんが少し言いにくそうに続ける。

「私も、一度ご相談してみてもいいでしょうか?」

来た。

今度こそ、本当に被験――。

違う。

「もちろんです」

危ない。口に出さなくてよかった。

クララさんは、二十一歳。

背が高く、細身で、顔立ちも涼やか。

一見すると、いわゆる格好いいものが似合いそうな人だ。

でも。

「可愛いものが好きなんです」

本人はそう言った。

「小さなお花とか、柔らかい色とか」

「いいですね」

「……いいのですか?」

「何がです?」

「私は、そういうものが似合わないと言われることが多くて」

なるほど。

また出た。

似合わないから禁止。

「全部を甘くしすぎると、確かにクララさん自身の綺麗な線が消えるかもしれません」

「やっぱり」

「でも、小さなお花を使うのをやめる理由にはならないです」

私は彼女を見る。

すっきりした形。

長い線。

そこは活かす。

その中に、好きなものを置けばいい。

「形は綺麗なまま。そこに、小さなお花を入れませんか?」

クララさんの顔が明るくなった。

よし。

一人目。

さらに。

「エレナさん」

また来た。

今度は小柄で、丸みのある可愛らしい令嬢。

ミレイユさん。

十九歳。

「私、大人っぽく見られたいんです」

なるほど。

見る。

現在のドレスは、かなり濃い色。

髪もきっちりまとめている。

大きめの宝石。

そして、本人の表情がちょっと苦しそう。

頑張って大人になろうとしている。

「大人っぽいって、どんな感じですか?」

「え?」

「落ち着いて見られたい? 格好よく見られたい? 女性らしく見られたい?」

ミレイユさんが考える。

「……子ども扱いされたくない、かもしれません」

なるほど。

だったら。

大人っぽい服を無理に着ることより、話す速度や姿勢を少し変える方が効くかもしれない。

装いは、本人の柔らかさを消さなくていい。

「可愛いまま、大人っぽくできますよ」

「本当ですか?」

「たぶん」

「たぶん?」

「まだちゃんと見てないので」

適当な約束はできない。

でも面白そう。

帰宅すると。

ローラが手紙を持っていた。

「お嬢様」

「また?」

「はい」

一通。

二通。

三通。

「……何これ」

「ご相談を希望される方々からです」

「何で?」

「アシュリーさんのお茶会で、ずいぶんお話が広がったようですね」

噂。なるほど。

「お嬢様に相談すると、自分に似合う装いを考えていただけると」

「自分に似合う、だけだとちょっと違うんだけどな」

「そうなのですか?」

「好きなものも大事だから」

でも噂なんてそんなものか。全部正確には伝わらない。

「それにしても」

ローラが手紙を整えながら言う。

「これだけご希望があるのでしたら、何かお仕事のようですね」

「仕事?」

「はい」

考えたことがなかった。

今はただ面白い。

相談されるのが楽しい。

考えるのが楽しい。

相手が鏡を見て笑うのが嬉しい。

「でも、お金もらってないし」

「そうですね」

「今は楽しいから、いいかな」

ローラが何か言いたそうな顔をした。

「何?」

「いえ」

また、その顔。

「何?」

「そのうち、もっと増えそうだなと思いまして」

「そのとき考える」

今のところできる。

楽しい。

だったら、やる。

それでいい。

その頃、私の知らないところでもどうやら噂は広がっていたらしい。

ベルフォード伯爵家の、以前はあまり目立たなかった令嬢。

自分自身が急に綺麗になった。

兄まで変わった。

今度は、他の令嬢たちの装いを見ているらしい。

しかも、流行のものを全員に着せるわけではない。

本人が好きなものを聞いて、似合う形にする。

そんな話が、社交界のあちこちで少しずつ交わされるようになっていた。

その噂を、面白そうだと拾った人がいたことを私はまだ知らなかった。

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