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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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6/22

第6話 あなたは、何が好き?

数日後。

アシュリーさんが、ベルフォード家を訪ねてきた。

「今日はお時間をいただいて、ありがとうございます」

「こちらこそ。私も楽しみにしていました」

これは本当だ。

すごく楽しみにしていた。

ただし、今日はお兄様のときとは違う。

いきなり髪を触ったり、「その色違います」と言ったりしてはいけない。

当然である。

相手は被験者ではない。

お客様――と呼ぶにはまだお金をもらうわけでもないけれど、少なくとも私に相談したいと思って来てくれた人だ。

まずは、話を聞く。

私はアシュリーさんと向かい合って座った。

改めて見ると、やっぱり華やかな人だ。

大きな目。曲線のある輪郭。柔らかな唇。

黙っていても女性らしい。

それなのに。

今日の装いは、少しもったいない。

大きく巻かれた長い髪。

耳元には存在感のある飾り。

濃い色のドレスには、胸元から裾までたっぷりと装飾が入っている。

どれも単体では綺麗だ。

でも、全部が頑張ってる。

本人が華やか。

髪も華やか。

アクセサリーも華やか。

ドレスも華やか。

メイクも華やか。

情報が多い。ただし、ここで言ってはいけない。

「全部取った方がいいです」

それでは私の好みに変えるだけだ。

「アシュリーさん」

「はい」

「最初に、いくつか伺ってもいいですか?」

「もちろんです」

「どんなものがお好きですか?」

アシュリーさんが、少し意外そうに瞬きをした。

「好きなもの、ですか?」

「はい。色でも、形でも、飾りでも。逆に、あまり好きではないものがあれば、それも知りたいです」

「似合うものを教えてくださるのではないのですか?」

「もちろん、それも考えます。でも」

私は少し考えてから言った。

「似合っていても、ご本人が好きではなかったら、着ていて楽しくないでしょう?」

アシュリーさんが黙る。

「私は、アシュリーさんを私好みにしたいわけではないので」

「……なるほど」

それから少しずつ、彼女は話し始めた。

赤が好き。

花の刺繍も好き。

リボンも可愛いと思う。

きらきらしたものも嫌いではない。

逆に、地味すぎるものはあまり好きではない。

可愛らしさは残したい。

でも、子どもっぽくは見られたくない。

華やかで、綺麗だと思われたい。

なるほど。私は紙に書いていく。

赤。

花。

リボン。

華やか。

女性らしい。

「全部残せそう」

「え?」

「いえ。こちらの話です」

アシュリーさんを、もう一度見る。

彼女自身に、すでに華やかさがある。

だったら必要なのは、それを消すことではない。

華やかさの種類を変えることだ。

◇

まず、色を見た。

いくつかの布を顔の近くに当てていく。

重いワインレッド。悪くない。

でも、少し顔より色が先に来る。

暗い深紅も同じ。

次に、明るく柔らかな赤。

「あ」

顔がぱっと明るくなった。血色までよく見える。

「これです」

「赤……ですよね?」

「はい」

「でも、今着ているものも赤です」

「赤にもいろいろありますから」

私は二枚を並べる。

「アシュリーさんが好きなのは赤でしょう? だったら、赤をやめる必要はないです」

好きなものを諦める必要はない。似合う赤を探せばいい。

「こっちの方が、アシュリーさんの顔が先に見えるんです」

「顔が先?」

「今の赤は、最初に『赤いドレス』が目に入る感じ。でもこちらなら、『アシュリーさんが赤いドレスを着ている』になるというか」

我ながら感覚的。

でも、アシュリーさんは鏡を見比べて少し驚いた顔をした。

「……本当」

伝わったらしい。

次に、ドレス。

彼女は身体の線も柔らかく、上半身には繊細さがある。

だから、厚く重い生地をたっぷり使うより、軽い素材の方が綺麗に動く。

重心も、少し上にある方がまとまりやすい。

「お花も入れましょう」

「いいのですか?」

「もちろん」

「リボンは?」

「使えます」

「装飾は減らすのですよね?」

「減らすというより、全部を一度に使わないだけです」

好きなものは、全部持っていていい。

でも、一着の中に全部集合させなくてもいい。

「今日は花。次はリボン。別の日には宝石を主役にしてもいいでしょう?」

「あ……」

「可愛いものって、使う機会が一日しかないわけじゃないですから」

アシュリーさんが、少しずつ笑顔になっていく。

よし。

方向は合っている。

◇

髪は、ルカにも見てもらった。

「あら。これは確かに、やりがいがあるわね」

アシュリーさんの髪を触りながら、ルカが楽しそうに笑う。

「今も綺麗だけど、量がちょっと多く見える」

「そうなの。髪が多いから、いつもこうして大きく巻いていただいていて」

「多いからこそ、全部を広げなくていいのよ」

ルカが後ろから髪をまとめる。

ふわりと持ち上げ、首元を出した。

その瞬間。

「あ」

声が出た。

「アシュリーさん」

「はい?」

「首、綺麗ですね」

「……首?」

本人が驚いている。

今まで、ほとんど髪に隠れていた。

細くて、長い。

肩への繋がりも綺麗。

「ここ、見せましょう」

私は鏡越しに彼女を見る。

「全部下ろすより、上げた方が絶対綺麗です」

「でも、華やかさがなくなりませんか?」

「なくならないです」

だって、アシュリーさん自身がもう華やかだから。

その言葉を口にすると、彼女が少し目を見開いた。

「私自身が?」

「はい」

そこだ。

今までのアシュリーさんは、華やかに見せるためにいろいろなものを足していた。

でも本当は、足さなくてもすでにある。

だから、なくすわけではない。

重くしていた華やかさを、軽くする。

重厚な華やかさから、軽やかな華やかさへ。

それが、今回のコンセプトだ。

◇

数日後。

仕上がったドレスに袖を通したアシュリーさんが、鏡の前に立った。

柔らかく明るい赤。

軽い生地。

上半身には小さな花の刺繍。

ウエスト位置は少し高め。

髪は首元を出してまとめ、小さなリボンを一つ。

イヤリングは、これまでよりずっと小さい。

メイクも色を重ねすぎず、彼女の大きな瞳と元々の血色を活かした。

「…………」

アシュリーさんが、鏡を見たまま動かない。

どうだろう。

私は横顔を見る。

少し不安になる。

やっぱり、好きな華やかさが足りなかった?

「アシュリーさん?」

「可愛い……」

小さな声。

「でも」

彼女が鏡に近づく。

「ちゃんと、綺麗」

よかった。

その言葉が一番嬉しい。

「私、赤も着てる」

「はい」

「お花もある」

「あります」

「リボンも」

「ちゃんと」

アシュリーさんが笑う。

「何も、諦めてないですね」

「そうですよ」

似合うものを知るのは、好きなものを捨てるためじゃない。

好きなものを、もっと自分らしく楽しむためだ。

私は、その方が絶対楽しいと思う。

◇

帰り際、アシュリーさんが振り返った。

「エレナさん」

「はい?」

「今度、お茶会があるんです」

「はい」

「この格好で行ってみてもいいでしょうか?」

「もちろん」

むしろぜひ行ってほしい。反応が見たい。

「それで……もしよければ、エレナさんもいらっしゃいませんか?」

「私も?」

「はい。私だけだと少し心細くて」

そして、少し照れたように笑う。

「それに、もっとお話してみたいです」

「…………」

それは予想してなかった。相談が終わったら、それで終わりだと思っていた。

「もちろんです」

答えると、アシュリーさんが嬉しそうに笑った。

なんだろう。

これもちょっと嬉しい。

美容の実験をしていただけなのに。

新しいものが、一つ増えた気がした。

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