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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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第5話 兄、化ける

結果から言うと、お兄様は化けた。

「ダミアン様、今日は雰囲気が違いますね」

「髪を変えられたのですか?」

「そのお色、とてもお似合いです」

社交の場へ出たお兄様の周りには、明らかに以前より人が集まっている。

特に女性。

私は少し離れたところから、その様子を観察していた。

お兄様がこちらを見る。

目が合う。

ものすごく何か言いたそうな顔をしていた。

たぶん、「検証ってこれのことか。」と、思っている。

そうです。それのことです。

「満足したか?」

帰宅後、お兄様が聞いた。

「かなり」

「そうか」

「お兄様も、ちょっと嬉しかったでしょう?」

「別に」

「嘘」

「エレナ」

「何ですか?」

「最近、遠慮がなくなったな」

「家族なので」

「前から家族だ」

それは、そう。

でも、元のエレナより今の私はたぶんずっと喋る。

「でも、すごく似合ってましたよ」

「それは認める」

お。

「髪も服も、自分では選ばなかったと思う」

「でしょう?」

「ただ」

お兄様が私を見る。

「お前、これを誰にでもやるつもりか?」

「え?」

「今日も、ずっと人の服を見てただろう」

バレてた。

「見てただけです」

「顔も」

「見てました」

「髪も」

「見てました」

「怖いな」

失礼な。でも、確かに見ていた。

あの人は、もっと首元をすっきりさせた方が綺麗。

あの人は、今より柔らかい色の方が顔が明るくなる。

あの人は、大きなアクセサリーより小さいものを重ねた方が似合いそう。

勝手に、次々浮かんでくる。

楽しい。

でも、だからといって全員に言うつもりはない。

「頼まれたらやってみたいですけど」

「頼まれたら?」

「はい」

お兄様が少し考えた。

「なら、案外早いかもしれないな」

「何が?」

「頼まれるの」

翌日、本当に手紙が来た。

「お嬢様」

ローラが、少し驚いた顔で封筒を持ってくる。

「何?」

「アシュリーさんからです」

「アシュリーさん?」

記憶を探る。

二十歳。私より二つ上。何度か社交の場で会ったことのある令嬢。

華やかな顔立ちに、大きな目。曲線的な雰囲気。

あ。覚えてる。

この前、お兄様の近くにいた。

手紙を開く。

丁寧な文章で、先日のダミアンの装いがとても素敵だったこと、それを私が選んだと聞いたこと、もし迷惑でなければ自分のことも相談してみたい、と書かれていた。

「…………」

来た。

「お嬢様?」

「来た」

「何がですか?」

「被験者二号」

「その呼び方は、お相手にはなさらないでくださいね」

「しないよ」

さすがに。

でも、すぐに返事を書く手は止まった。

お兄様は家族だった。

私が勝手に似合うと思うものを試しても、最悪、怒られるだけ。

でも、アシュリーさんは違う。

本人がどうなりたいのか。

何が好きなのか。

それを、私はまだ知らない。

私が似合うと思うものを一方的に着せればいいわけじゃない。

そもそも、私の目的は人を私好みに変えることではない。

「ローラ」

「はい」

「人に何かを選ぶときって、何から聞いたらいいと思う?」

「私にですか?」

「うん」

ローラは少し考えた。

「その方が、何をお好きなのかでは?」

「……だよね」

やっぱり、まずはそこだ。

好きなもの。

嫌いなもの。

どう見られたいか。

それを聞く。

その上で、その人自身を見る。

似合うものも、好きなものも、両方大事。

「よし」

私は返事を書く。

ぜひ、お話を伺いたいです。

そう書いた。

その日の午後、ルカのところへ行った。

「今度、人の相談に乗ることになったの」

「あら。もう?」

「うん」

「誰?」

「アシュリーさん」

ルカが少し考える。

「ああ。あの華やかなお顔の」

「そう」

「あなたとは全然違うわね」

「だから面白いでしょ」

私に似合うものだけ分かっても意味がない。

違う顔。

違う身体。

違う好み。

そこでも私の考え方が使えるのか、試したい。

「でも、髪はまた相談していい?」

「もちろん」

ルカが笑った。

「その代わり」

「何?」

「私の意見もちゃんと聞きなさいよ」

「聞くよ」

「あなた、理屈が通るとすぐ走るから」

何。

みんな、私のことそう思ってるの?

「でも」

ルカが続ける。

「面白いわね」

「何が?」

「あなたと話してると、私も今までやらなかった髪型を考えるのよ」

それは、嬉しい。

すごく。

「じゃあ」

私は笑う。

「一緒に考えよう」

「いいわよ」

帰りの馬車の中で、私は窓の外を見る。

最初は、自分を可愛くしたかっただけだった。

それがお兄様になって、次はアシュリーさん。

自分とは全然違う人。

どうなるんだろう。

楽しみ。

すごく楽しみ。

そして、ふと思う。

私、もしかしてこれ、かなり好きかもしれない。

自分が可愛くなるのも好き。

でも、誰かの中にある、まだ使われていない可愛さや綺麗さを見つけるのも同じくらい――いや、もしかしたらそれ以上に面白いのかもしれない。

このときの私は、まだ知らなかった。

アシュリーさんが私にとって最初の「お客様」になることも。

最初の令嬢の友達になることも。

そして、この遊びみたいな研究が、いつか私の仕事になることも。

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