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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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第3話 今日の私は、どう見せる?

数日後、私は久しぶりに社交の場へ出ることになった。久しぶりっておかしいな。転生後初めての社交の場。

小規模なお茶会。

夜会ほど大げさではないけれど、何人かの令嬢や令息が集まるらしい。

元のエレナなら、たぶんできるだけ目立たない服を選び、壁際にいて、話しかけられたら笑って終わる。

でも、今の私は違う。

「よし」

机に紙を置くと、ローラが横から覗いた。

「何をなさっているのですか?」

「今日の設計」

「設計?」

「今日の私は、どう見せるか」

まずはコンセプト。

可愛い。でも、頑張りすぎていない。

柔らかい。上品。

そして、今までのエレナとはちゃんと違う。

一度に全部を変えすぎると、「何があったの?」になる。

でも、変わったことには気づいてほしい。

「……清楚で、柔らかくて、少しだけ華やか」

うん。

これでいこう。

次に決めるのはドレスだ。

ここは大事。

今日はメイクから決めるより、まず一番面積の大きいところを決める。

全身の印象を作るのは服。そのあと髪やメイクを合わせた方が、全体の調和が取りやすい。

衣装部屋を見ていく。

濃い茶。重い赤。黄みの強いベージュ。

悪くはない。

でも、今の私には少し重い。

「これ」

奥にあった一着を出した。

淡いラベンダー。

青みはあるけれど冷たすぎず、光が当たると少し柔らかく見える。生地も軽い。

形は上半身をすっきり見せながら、重心が下がりすぎない。

「これにする」

「以前は、ほとんどお召しになりませんでしたね」

「もったいない」

肩に当てて鏡を見る。

やっぱり。

顔が明るい。

「可愛い」

「まだ着ていませんよ」

「もう分かるの」

ローラが笑った。

ドレスを決めたら、次は髪。

ルカに整えてもらった形を活かしつつ、今日は少しだけ柔らかくする。全部をきっちりまとめるより、顔周りに動きを残した。ちなみにあります。髪を巻くコテのような道具が。ご都合主義に感謝。

そのあとにメイク。

ラベンダーのドレスに合わせて、頬と唇には柔らかなローズ。目元も濃くしすぎず、肌の透明感を消さないようにする。

アクセサリーは小さなものにした。

ドレスも髪も柔らかい。ここで大きな宝石を足すと、少し重い。

そして最後。

振る舞い。

鏡の前に立つ。

肩、背筋、顎、目線。

元のエレナは、人と目が合う前に視線を落とす癖があったらしい。

今日は先に逃げない。

話しかけられたら相手を見る。それから笑う。

笑顔は、ずっと貼りつけているより必要なときに出した方が印象に残る。

「……よし」

「完成ですか?」

「完成」

ローラが私を見る。

少し黙った。

「何?」

「いえ」

「何?」

「お綺麗だなと思って」

「でしょう?」

「そこは謙遜なさらないのですね」

「ローラしかいないし」

それに。

自分で考えて、自分で試して、ちゃんと上手くいった。

嬉しくないわけがない。

会場へ入った瞬間、空気がほんの少しだけ変わった。

気がした。

いや。

自意識過剰かもしれない。

もう少し観察しよう。

視線。

一つ、二つ、三つ。

知っている顔もある。

向こうが私を見て、一瞬、確認するような顔をする。

なるほど。

ちゃんと変わって見えるらしい。

「エレナさん?」

声をかけてきたのは、以前にも何度か顔を合わせたことのある令嬢だった。

「こんにちは」

「まあ。髪を変えられたのですね」

「はい。少しだけ」

「とてもお似合いです」

「ありがとうございます」

私は相手を見る。

柔らかな桃色のドレス。

可愛い。

「そのドレスも素敵ですね。とても綺麗な色」

「あら、嬉しい」

彼女が笑った。

私も笑う。

大丈夫。

普通に話せる。

というか、楽しい。

以前のエレナの記憶があるから、最低限のマナーも分かるし、何を話していいかも分かる。

それに、人の服を見るのも髪を見るのも普通に面白い。

あ。

この人。

今の髪より、少し首元を出した方が絶対綺麗。

でも、言わない。

まだ、求められてないから。

少し離れたところにいた男性と目が合った。

以前なら、たぶんすぐに逸らしていた。

今日は、一拍だけそのまま。

それから、軽く微笑む。

相手が一瞬止まった。

なるほど。

効く。

別に、落としたいわけじゃない。

ただ、人の印象というものは服だけでは決まらない。

視線。姿勢。表情。話し方。

同じ顔でも、全部で変わる。

私は少し楽しくなった。

仮説。

実行。

反応。

結果。

これ、美容というより研究に近いかもしれない。

帰りの馬車で、ローラが向かいから私を見る。

「お嬢様」

「うん?」

「今日は、ずいぶん楽しそうでしたね」

「楽しかった」

「皆様も驚いていらっしゃいました」

「やっぱり?」

「はい。何人かの方が、お嬢様のお話をしていましたよ」

「何て?」

「綺麗になった、と」

私は窓に映る自分を見る。

淡いラベンダー。

軽い髪。

柔らかい血色。

朝、考えた通り。

清楚で、柔らかくて、少しだけ華やか。

そして、以前とは違う。

「……ほらね」

「何がですか?」

「仮説通り」

ローラには、まだ分からないらしい。

でも、いい。

私には分かる。

この世界でも、ちゃんと使える。

現世でずっと集めてきた、私の知識。

そしてこれは、思っていたよりずっと面白い。

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