第21話 デートには、どんな私で行く?
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「ローラ」
「はい」
「今度、ロイさんと二人で出かけることになったの」
「はい」
反応が薄い。
「共同事業を始めたお祝いで」
「はい」
「二人で」
「はい」
何。
「驚かないの?」
「何にでしょう?」
「二人で出かけることに」
ローラは少し考えた。
「そうなることもあるかと」
あるの?
私の知らないところで何が。
◇
お祝い当日。
「うーん」
私は衣装部屋を見る。
「何を着よう」
ローラの目が、ほんの少しだけ楽しそうになった。
「いつも通り、お好きなものをお召しになればよいのでは?」
「それが分からないの」
「お嬢様が?」
何、その驚き。
「分からないものは分からないよ」
普段なら早い。
まず、どんな自分でいたいかを決める。
そこからドレスを選び、髪、メイク、アクセサリーを合わせる。
でも今回は、その最初のところで止まっていた。
ロイさんと二人で出かける私。
……情報が増えてない。
「ローラ」
「はい」
「ロイさんって、普段の私をどう見てると思う?」
「難しいご質問ですね」
「いつもの私。どんな感じ?」
ローラは少し考えた。
「お仕事がお好きで」
「うん」
「行動が早くて」
「うん」
「ときどき早すぎて」
「余計なの入った」
「ロイ様によく止められていらっしゃいます」
「…………」
そうだけど。
「つまり、仕事してる私じゃん」
「普段よくご一緒になるのがお仕事の場ですから」
確かに。
でも今日は仕事ではない。
そこが難しい。
◇
とりあえず着てみることにした。
まず淡いラベンダー。
鏡を見る。
綺麗。
似合っている。
現世の私でも好きだった系統。
「どう?」
「とてもお似合いです」
「だよね」
ただ何か違う。
「これ着てロイさんに会ったら、そのまま帳簿出されそう」
「……分かる気がいたします」
やっぱり?
仕事感。
却下。
◇
次は柔らかなローズ色。
少し甘め。
「可愛い」
これは普通に可愛い。
鏡の前で角度を変える。
「ローラ」
「はい」
「これ、ロイさんに可愛いと思われそう?」
言ってから止まった。
ローラも止まった。
「…………」
「…………」
何。
「今のなし」
「承知しました」
「忘れて」
「難しいかと」
忘れて。
◇
三着目。淡いサックスブルー。
清楚。
上品。
かなり似合う。
でも。
「優等生っぽい」
「お嫌いですか?」
「嫌いじゃない。でも、今日じゃない気がする」
ローラが笑う。
「ずいぶん難しいですね」
本当。
何で。
人のことならもう少し分かるのに。
◇
四着目。柔らかなアイボリー。
よく見ると、小さな花の刺繍が入っている。
生地も軽くて。
歩いたら、少し揺れる。
袖を通して。
鏡を見る。
「…………」
好き。
普通に好き。
「これ」
「はい」
「これがいい」
今までと違って、すぐに決まった。
「ロイさんにどう見られるかは?」
聞かれて少し考える。
「これで会いたい」
口から出た。
あ。
そういうことか。
◇
私は、いつの間にか順番を逆にしていたらしい。
普段、相談者には最初に聞く。
何が好き?
どう見られたい?
そしてどうありたい?
なのに自分のことになったら、最初から「ロイさんにどう見えるか」ばかり考えていた。
それも大事。
でも私が何を着たいのかも大事だ。
「これにする」
改めて言う。
ドレスが決まれば、次は早い。
髪。
いつもより少し柔らかく。
全部をまとめず、下ろす。
顔周りには軽く動きをつけて、艶は残す。
メイクはローズ系。
血色を足す。
でも、頑張ってる感は出しすぎない。
そしてアクセサリー。
パール。
……違う。
透明な石。
これも少し違う。
「花」
小さな花のイヤリングを出した。
ドレスの刺繍と、ほんの少しだけ繋がる。
「これ」
完成。
◇
鏡を見る。
「…………」
可愛い。
うん。
かなり。
ただ一つ問題がある。
「ローラ」
「はい」
「これ、デートに行くみたいじゃない?」
ローラが不思議そうに私を見る。
「デートなのでは?」
「…………」
「お嬢様?」
デート。
言葉にしてみる。
ロイさんと二人で。
仕事ではなく出かける。
場所はロイさんが決める。
私はこんなに服を悩んでいる。
しかもさっき普通に。
ロイさんに可愛いと思われるか聞いた。
「…………」
なるほど。
「デートか」
「今お気づきになったのですか?」
「お祝いって言われたから」
「お二人で?」
「うん」
「それを一般に、デートと呼ぶこともあるかと」
ローラよ。
何でちょっと楽しそうなの。
◇
でも、不思議と大騒ぎするほどではなかった。
恥ずかしい。
とか。
どうしよう。
とか。
そういうのはある。
でも、それより一つ分かったことの方が面白い。
「私」
鏡を見る。
「ロイさんに、可愛いって思われたいみたい」
ローラが柔らかく笑った。
「そうなのですね」
「うん」
これはたぶん事実。
なら。
記録しておこう。
◇
ただ可愛く見られたいだけではない。
私はもう一度鏡を見る。
この服で何をしたい?
美味しいものを食べたい。
可愛いものがあったら見たい。
仕事以外のことも話したい。
ロイさんが笑ったら。
私も笑いたい。
「あ」
分かった。
「楽しんでる私」
「はい?」
「今日のコンセプト」
可愛い私。
綺麗な私。
より。
楽しんでる私。
そっちがいい。
自分が一番楽しくいて。
その結果可愛いと思われたらもっと嬉しい。
「これでいく」
決まった。
◇
恋愛なのかどうかはまだ分からない。
でも分からないなら。
見ればいい。
話せばいい。
一緒に過ごしてみればいい。
私はその方が得意だ。
◇
「ローラ」
「はい」
「今日、何着試したかは内緒ね」
「承知しました」
「特にロイさんには」
「もちろんです」
よし。
部屋を出る。
廊下でお兄様と会った。
「決まった?」
「何がですか?」
「服」
「…………」
何で知ってるの?
「ローラ」
「私ではございません」
即答。
じゃあ誰。
ベルフォード家。
最近情報が回るの早すぎない?




