第20話 だったら、一緒にやればいい
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「ロイに、これまで相談に乗ってもらった分のお金を払いたい?」
お兄様が聞き返した。
「はい。顧問料というか……」
「顧問料って何だ?」
「あ」
また現世用語。
ロイさんには普通に通じたから、これは大丈夫なのかと思っていた。
何あの人。順応しすぎ。
「仕事の相談にずっと乗ってもらっているので、その分をちゃんと払いたいんです」
「ああ、なるほど」
お兄様は少し考えるように腕を組んだ。
「でも、あいつのやってることって、もう助言だけじゃないだろ」
「え?」
「予約の上限も一緒に決めてる。利益も見てる。人を増やすときも話してるし、今後どう広げるかも一緒に考えてるんだろ?」
言われてみれば、全部そうだ。
最初はただ、分からないことを聞きに行っていただけだった。それがいつの間にか、私は何かを思いつくたびロイさんに話し、ロイさんはそれが事業として成立する形を一緒に考えてくれるようになっている。
「……ほとんど中にいるじゃないか」
「中」
確かに。
私の仕事なのに、かなり中にいる。
◇
「それなら、共同事業契約っていう形がある」
「共同事業?」
「複数人で、一つの事業を一緒に運営するときに結ぶ契約だ」
会社を作る、みたいなことだろうか。
「新しく商会を作る必要はあるんですか?」
「必ずしもない。誰が何を出すか、何を担当するか、利益をどう分けるか。何かあったとき、どこまで責任を持つか。それを決めて契約すればいい」
なるほど。
お兄様は指を折りながら、今の仕事の形を整理していく。
私はサービスの中心にいて、相談者を見て全体を考える。
ルカやノラさん、オスカーさんは、それぞれの専門分野で仕事を受ける。
ローラは運営を支えてくれている。
「ロイだけが曖昧なんだよ」
「…………」
本当だ。
「相談に乗る人にしては入りすぎてるし、ただの手伝いにしては責任を持ちすぎてる。今さら一回ごとの助言料を払うより、今後も一緒にやるつもりなら――」
お兄様は、何でもないことのように言った。
「だったら、一緒にやればいい」
一緒にやる。
その言葉は、思った以上にすんなり私の中に入ってきた。
私はやりたいことを広げる。
ロイさんは、それを続けられる形にする。
私が「これ面白そう」と言えば、「じゃあ、どうやったらできる?」と返してくる。
私が勢いよく走れば、必要なところだけ止める。
……確かに。
もう、かなり一緒にやっている。
◇
数日後、私はロイさんの仕事場へ行った。
「お兄様に相談してきました」
「何て?」
「共同事業にしたらって」
ロイさんが少し目を見開く。
「ダミアンが?」
「はい」
「意外とちゃんと考えたな」
「失礼ですよ」
お兄様に。
まあ、私もちょっと同じことを思ったけど。
「それで」
私は持ってきた紙を机に置いた。
「ロイさんがよければ、ちゃんと一緒にやりませんか?」
言ってから、少しだけ変な感じがした。
一緒にやる。
今までもやっていたのに、言葉にすると何かが変わる。
ロイさんも、一瞬だけ黙った。
「俺は別に、報酬が欲しくて口を出してたわけじゃないよ」
「分かってます」
「面白かったから」
「それも分かってます。何回も聞きました」
ロイさんが笑う。
でも、私は続けた。
「私、自分が楽しくて、人にも喜んでもらえて、それがお金になるって、すごくいいと思ってるんです」
「うん」
「それを、自分だけにしたくない」
ルカにも。
ノラさんにも。
オスカーさんにも。
ローラにも。
この仕事をやってよかったと思ってほしい。
それぞれが得意なことで誰かを喜ばせて、それに対してちゃんとお金も受け取る。
そんな仕事にしたいと思うようになった。
「だから、ロイさんにもそう思ってほしいんです。今までみたいに、ロイさんだけ何となく手伝ってくれている状態は嫌です」
ロイさんはしばらく私を見ていた。
それから、少し笑う。
「分かった」
「本当?」
「うん。一緒にやろう」
よし。
思っていたより嬉しい。
やっぱり、この形が一番しっくりくる。
◇
「ただし」
来た。
条件。
「出資させてよ」
「…………」
出資。
「何で?」
「一緒にやるなら、俺も中に入るから」
「でも」
私は混乱した。
「私、お金を払う話をしに来たんですよね?」
「そうだね」
「何で、お金をもらう話になってるんです?」
ロイさんが笑った。
何。
私、何かおかしいこと言った?
◇
「今後、必要になると思うよ」
ロイさんが説明する。
人を増やす。
道具を揃える。
もっと事業を大きくする。
そうなれば、先にお金が必要になることもある。
「今はベルフォード家の部屋を使ってるけど、いつまでもそうする?」
「…………」
考えたことがなかった。
「例えば、専用の場所を作る。相談する部屋があって、服や布の見本を置けて、化粧品やアクセサリーも見られる。ルカが髪を整えられる場所も作れる」
待って。
それ。
「ノラさんが絵を描く机も置ける?」
「置けるね」
「ローラが仕事する場所も?」
「もちろん」
「服もいっぱい置ける?」
「場所次第だけど」
「欲しい」
即答した。
ロイさんが笑う。
「早いな」
だって。
それ、絶対楽しい。
相談に来た人が、服を見て、布を触って、化粧品を試して、髪まで整えられる。
ルカがいて。
ノラさんがいて。
ローラがいて。
必要ならオスカーさんともすぐ話せる。
今まで別々だったものが、一つの場所に集まる。
想像しただけでわくわくする。
「欲しいです」
「二回言った」
「だって欲しいから」
「じゃあ、そのためにも考えよう」
こうして。
私がお金を払うつもりで始めた話は、なぜかロイさんからもお金を出してもらう話になった。
◇
出資。
利益。
役割。
責任。
決めることは多かった。
でも今度は飛ばさない。
お兄様にも入ってもらい、一つずつ確認する。
「ここは?」
「決めます」
「これは?」
「確認します」
「損が出た場合は?」
「…………ロイさん」
「こっち見ても答えは出ないよ」
「分かってます」
逃げてはいない。
ちょっと助けを求めただけ。
今の私は学習している。
「まあいい」で流していいのは、自分ではどうにもできないこと。
決められることは、決める。
それが、仕事を続けるために必要だから。
◇
役割も改めて整理した。
私は相談者を見て、その人の魅力を見つけ、どう魅せるかを考える。全体の方向を決める。
ロイさんは、数字と市場、運営、大きな判断。それから、これから先どう続けるかを考える。
ローラは、予約や連絡、記録、調整。
ルカは髪。
ノラさんはデザイン。
オスカーさんは、服を実際の形にする。
「何か、すごいですね」
私は紙を見ながら言った。
「何が?」
「チームっぽい」
「今さら?」
また今さらって言われた。
◇
そして、利益。
ここは大事。
「ロイさんも、ちゃんと取ってくださいね」
「分かってる」
「本当に?」
「君、第十二話以降、お金に厳しくなったね」
「何の話です?」
一瞬。
空気が止まった気がした。
十二話?
そんな話数、本人は知らない。よね?
「……今、何か変なこと言いませんでした?」
「そう?」
ロイさんは普通の顔をしている。
お兄様も、何も気づいていない。
…………。
まあいい。
これは考えても答えが出ないやつ。
◇
契約がまとまった日、私はロイさんと握手した。
前にルカともしたことがある。
でも、少し違う。
「改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
共同事業者。
何か。
いい響きだ。
◇
それから少し時間が経った。
予約の上限は守っている。
料金も決まっている。
支払いも記録されている。
ローラの仕事量も調整できている。
ノラさんには必要なときだけ来てもらう。
継続相談も始まった。
売上も利益も、ちゃんと見える。
私は机の上を眺めた。
手紙は整理されている。
確認待ちのものも分かる。
誰かに支払いを忘れているわけでもない。
締切直前の何かもない。
「…………」
何も燃えてない。
「ローラ」
「はい?」
「最近、問題ないね」
「そうですね」
「すごい」
「普通は、それがいいことかと」
そうなんだけど。
私の仕事。
ついに回ってる。
◇
そんな日の帰り道、ロイさんが言った。
「一度、祝いでもしようか」
「お祝い?」
「共同事業も始まったし、最近ちゃんと回ってるから」
「いいですね。みんなにも――」
「いや」
途中で止められた。
「二人で」
「…………」
二人。
私とロイさん。
その瞬間、アシュリーさんとの会話が頭に戻ってきた。
気になる人。
素敵だと思う人。
そう聞かれて、最初に浮かんだ顔。
「嫌?」
ロイさんが聞く。
「いえ」
嫌ではない。
むしろ。
「行きたいです」
答えると、ロイさんが笑った。
「じゃあ、来週」
「はい」
日時を決める。
場所はロイさんが考えるらしい。
◇
帰りの馬車で、私は少しだけ考えた。
二人で。
仕事ではなく。
お祝い。
ロイさんと出かける。
「…………」
何だろう。これ。
結構楽しみ。
なるほど?
まあいい。
来週までに考えよう。
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