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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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18/22

第18話 明るい色を、諦めなくていい

最近、ベルフォード家にはよく人が集まる。

「この襟だと、もう少し線を細くした方が綺麗じゃない?」

「そうね。でも、生地がこれなら少し幅があってもいいわ」

ルカが布を見ながら言う。

隣ではノラさんが図案を直している。

オスカーさんは、その二人のやり取りを聞きながら何かを計算している。

ローラは予定表を見ている。

私は布を当てている。

ふと、部屋の入口を見ると父が立っていた。

「…………」

「お父様?」

「いや」

何。

「これが、いつものことなのか?」

「最近は、わりと」

「そうか……」

また額に手を当てている。

お父様。

そんなに頭痛持ちだったっけ。

今日の相談者は母。

エレノア・ベルフォード。

ヴィクトリア様と年齢は近い。

でも全然違う。

ヴィクトリア様は、存在感が強い。

年齢を重ねたことで、昔は負けていた強い色や大きな宝石まで使えるようになった。

一方の母は柔らかい。

顔立ちも。

色も。

雰囲気も。

私に少し似ている。

というより私が母に似たのか。

「お母様は、どんなものがお好きですか?」

いつも通り聞く。

「昔は明るい色が好きだったわ」

「今は?」

母の今日のドレスは、濃い灰色。

悪くはない。

でも、顔が少し沈んで見える。

「最近は、こういう方が落ち着いて見えるかと思って」

「年齢的に?」

「……そうね」

なるほど。

ヴィクトリア様と同じ言葉。

でも、同じ答えにはならない。

布を何枚か当てる。

深い茶。違う。

濃紺。悪くない。

でももっとある。

淡く明るい青。

「これ」

顔が一気に明るくなる。

母自身も鏡を見て少し驚いたようだ。

「こんな明るい色、久しぶり」

「好きですか?」

「好きよ。でも」

出た。

でも。

「もう少し若い人の方が――」

「年齢じゃなくて、お母様に似合うからです」

そう言うと、母が止まった。

「明るい色だから若い。暗い色だから大人、ではないでしょう?」

大人らしく見せたいなら。

色を暗くするだけが方法ではない。

生地。

形。

装飾。

全部で作れる。

「この色を使って、形をもっとすっきりさせましょう」

私は布を身体に沿わせてみる。

「生地は上質なもの。装飾は少なくていいと思います」

「明るいのに、子どもっぽくならない?」

「ならないです」

むしろ母の柔らかい顔立ちなら。

このくらいの色が自然。

「髪は?」

ルカが母の周りを一周する。

現在は肩より少し長い。

柔らかく巻いている。

綺麗。

でも、顔も柔らかい。

服も明るく柔らかい。

全部をふわふわさせなくてもいい。

「少し切りたい」

私が言うのと。

「あたしも」

ルカが言うのが。

ほぼ同時だった。

顔を見合わせる。

「肩くらい?」

「そうね。ワンレン気味にして、面を綺麗に見せたいわ」

「それ」

母が笑う。

「二人とも同じことを考えるのね」

「得意分野は違いますけど」

でも、似合う方向が噛み合ったとき。

楽しい。

肩のあたりで揃えた髪は。

巻きすぎない。

艶を出して。

綺麗な直線を少し残す。

柔らかな母の顔立ちの中に。

一本すっきりした線が入る。

いい。

メイクは血色を少し足すだけ。

強くしない。

ヴィクトリア様の赤とは違う。

アクセサリー。

ここで私は少し考える。

明るい青。

艶のある髪。

柔らかな血色。

「パール」

「真珠?」

「はい」

小さな一粒を耳元に。

それだけ。

「ネックレスは?」

母が聞く。

「いらないです」

「ブローチは?」

「なし」

「そんなに何もなくていいの?」

「いいんです」

普通だからいい。

パールって珍しくない。

でも、母には。

その静かな艶が合う。

「足さなくていいと思います」

それも一つの美しさだ。

完成した。

母が鏡を見る。

艶のある。

肩までの髪。

明るく柔らかな青。

小さなパール。

自然な血色。

ヴィクトリア様とは全然違う。

でも、すごく綺麗。

「似てるわね」

母が鏡越しに私を見る。

「誰と?」

「あなたと、私」

並んでみる。

確かに。

色の雰囲気。

顔の柔らかさ。

少し似ている。

でも同じではない。

「親子でも、別の人ですから」

「そうね」

似ていても同じ服を着ればいいわけじゃない。

同じ色でも使い方が違う。

それが面白い。

父を呼んだ。

母が少し楽しそうに立つ。

「どう?」

「似合ってる」

父が言う。

「それだけ?」

「…………」

困ってる。

お父様。

頑張って。

「……綺麗だよ」

母が笑った。

私も小さく。

「……ほらね」

言う。

父には聞こえなかったらしい。

よし。

母は、鏡を見ながら。

髪に触れた。

「私、明るい色が好きだったのよね」

「また着ればいいじゃないですか」

「そうね」

年齢が増えたから。

似合うものが変わることもある。

ヴィクトリア様みたいに。

今だから使えるものが増えることもある。

でも。

ずっと似合っていたものを。

年齢だけを理由に。

手放さなくてもいい。

ヴィクトリア様と母。

同じくらいの年齢。

それでも答えは全然違う。

やっぱり。

「五十代はこれ」

みたいな正解はない。

見るのは年齢じゃなくてその人。

母が、ふと私を見る。

「エレナ」

「はい?」

「あなた、本当にこの仕事が好きなのね」

「はい」

今度は考えなくてもすぐ答えられた。

「すごく」

母は少し嬉しそうに笑う。

「よかったわね」

またその言葉。

私も笑った。

部屋へ戻ると、ローラが手紙を一通渡してきた。

「アシュリーさんからです」

「アシュリーさん?」

久しぶり。

手紙を開く。

相談したいことがあるようだ。新しいドレスについて。そして最後に。

『それとは別に、今度はお仕事ではなく、お友達としてお茶をしませんか?』

「…………」

そこで気づく。

そういえば私、アシュリーさんと友達になったんだった。

仕事が楽しすぎて普通に遊ぶのを忘れていた。

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