第17話 私たちが留守の間に、何があった?
「…………」
玄関ホールにて。
父と母が私を見ている。
正確に述べると。
私。
その後ろにいるローラ。
廊下を歩く新しい制服の使用人。
途中からやってきたお兄様。
そして、なぜか今日に限って来ているロイさん。
順番に見ている。
「エレナ?」
母が、最初に口を開いた。
「はい。お母様」
「……エレナよね?」
「そうですけど」
何。
「ずいぶん」
母――エレノア・ベルフォードは、私を上から下まで見る。
「変わったわね」
ああ。そっちか。
両親は、私が自分をプロデュースし始める前に領地へ出ている。
帰ってきたら。
娘の髪型が変わり。
服装が変わり。
姿勢まで変わっている。
そりゃ。驚くか。
「いろいろ変えました」
「いろいろ……」
母の視線が今度はお兄様へ動く。
「ダミアンも?」
「俺は最初の被験者」
「被験者?」
父が初めて口を開いた。
まずい。
説明すると長くなる。
◇
居間へ移動して私はこの数か月に起きたことを説明した。
もちろん転生のことは省略して。だって話がややこしくなる。
自分を整えた。
そしてお兄様も整えた。
そうしたらアシュリーさんに頼まれた。
それで噂が広がった。
そんななかロイさんに仕事にしたらと言われた。
だから仕事にした。
まずルカと一緒にやるようになった。
そのあとノラさんを見つけた。
それでセシリアさんの新しいドレスを作った。
それからヴィクトリア様をプロデュースした。
ただ依頼が増えすぎた。
そのためローラにも正式に仕事を手伝ってもらうことにした。
ついでに制服も変えた。
「待ちなさい」
父――アルバート・ベルフォードが、額に手を当てた。
「どこから聞けばいい?」
「最初から話しましたけど」
「そういう意味じゃない」
隣でロイさんが笑っている。
何でいるの。
いや、帳簿を見に来てたんだけど。
今日じゃなくてもよかったじゃん。
◇
「ロイ君」
父が言う。
「なぜ君までいるんだ?」
「定期的に事業の状態を見ています」
ロイさんがさらっと答える。
「定期的に?」
「はい」
父が私を見る。
「エレナ」
「はい」
「侯爵家のご令息が、定期的に我が家へ来ているのか?」
「そうですね」
「そうですね、ではなく」
何?
問題?
「仕事の相談に乗っていただいています」
「……そうか」
父はまた額を押さえた。
頭痛でもするんだろうか。
「お父様、大丈夫ですか?」
「誰のせいだと思ってる」
私?
横を見ると、お兄様が笑いを堪えていた。
◇
母は、父より少し楽しそうだった。
「でも、ヴィクトリア様のお話は、領地でも聞いたわ」
「本当ですか?」
「ええ。アシュフォード侯爵夫人の装いが変わって、とても素敵だったって」
母は私を見る。
「エレナ・ベルフォードが考えたと聞いたのだけれど」
「はい」
「名前を聞けばあなたしかいないのに、どうしても結びつかなくて」
失礼。
「だって、出かける前のあなたは、人前で自分から話すこともほとんどなかったでしょう?」
それは元のエレナ。
「ちょっと、やりたいことを見つけたので」
そう答えると母の表情が柔らかくなった。
「そう」
それだけ。
でも、何だか嬉しそうだった。
◇
そして、父が一番驚いたのは私の仕事ではなかった。
制服だった。
「制服を変えた?」
「はい」
「家の?」
「全部ではないです。まだ試してるところで」
「私に相談せず?」
「…………」
そこ。
ですよね。
ローラに言われた。
「すみません」
「エレナ。家のことを変えるなら、次からは先に相談しなさい」
「はい」
これは私が悪い。
反省。
◇
ところが翌日、父の方から私を呼んだ。
「制服の件なんだが」
「はい」
また怒られる?
「応募が増えている」
「らしいですね」
「らしいですね、ではない」
何で。
「特に若い女性の応募が増えた。使用人の募集はしばらく苦戦していたんだ」
「そうだったんですか?」
「お前、知らずにやったのか?」
「可愛い方が仕事楽しいかなと思って」
「…………」
父が黙る。
それから深いため息。
「結果としては、助かった」
「本当?」
「本当だ」
よかった。
「ただし」
「先に相談します」
「分かってるならいい」
成長している。
◇
その夜母とお茶を飲んだ。
「本当に、楽しそうね」
「はい。すごく楽しいです」
「仕事が?」
「仕事も。みんなと考えるのも」
ルカ。
ノラさん。
オスカーさん。
ローラ。
ロイさん。
気づけば人が増えていた。
「お友達もできたのでしょう?」
「お友達?」
アシュリーさん。
そういえばお茶会に誘ってもらった。
「……はい」
母が笑う。
「よかったわね」
その言い方が、少しだけ元のエレナに向けたものにも聞こえた。
だから私も。
「はい」
と答えた。
◇
そして、母はカップを置くと何でもないことのように言った。
「ねえ、エレナ」
「はい?」
「今度は、私もお願いしていい?」
「何をですか?」
「あなたの、その……魅せ方?」
「…………」
お母様のターン。
来た。




