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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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16/20

第16話 ちょっと、回らなくなってきました

ヴィクトリア様の一件は、思っていた以上に大きかった。

アシュフォード侯爵夫人。

社交界でもよく知られた人である。

当然といえば当然なのだけれど、私はそこまで考えていなかった。

だって私が考えていたのは、銀色の髪に赤い口紅と大きな宝石が絶対似合う、ということだけだったから。

「お嬢様」

朝食を終えたところで、ローラが手紙の束を持ってきた。

「今日はこちらです」

「今日はこちら?」

嫌な言い方。

手紙の束を見る。

多い。

「昨日もこんなになかったよね?」

「はい。昨日の倍ほどでしょうか」

「何で?」

「ヴィクトリア様が、先日の集まりでお嬢様のお話をなさったそうです」

「…………」

ヴィクトリア様。

楽しそうに話している姿が、簡単に想像できる。

銀色の髪を活かした装いはかなり評判になったらしい。

『年齢に合わせて地味にするのではなく、今だから似合うものを選んだ』

そんな話まで広がっているという。

それ自体は嬉しい。

すごく嬉しい。

ただ。

「これ、全部相談の申し込み?」

「はい」

嬉しい。

けど多い。

最初の数日は、普通に受けた。

朝、一人。

午後、一人。

空いた時間に仕立屋さんへ行く。

ルカと相談する。

ノラさんから図案を受け取る。

夜に次の相談内容を考える。

楽しい。

ものすごく楽しい。

だから気づくのが遅れた。

「あれ?」

夜。

机の上を見る。

返事を書いていない手紙が三通。

明日確認しようと思っていた布も二種類。

ルカに伝えること。

ノラさんに確認すること。

セシリアさんの仕上がり確認。

新しい相談者の事前情報。

「……多い?」

横にいたローラが、静かに頷いた。

「多いですね」

「でも、できなくはない」

「お嬢様」

「何?」

「昨日も同じことをおっしゃいました」

そうだっけ。

「昨日は何時にお休みになりました?」

「…………」

遅かった。

「でも楽しいから」

「楽しいことと、疲れないことは別です」

正論。

ローラよ。

最近正論が鋭い。

翌日。

ちょうどベルフォード家へ来たロイさんに、その話をした。

最近、定期的に帳簿や予約状況を見てもらっている。

正式に頼んでいるわけではないのだけれど、もはや定期視察みたいになっていた。

「一週間で何人受けてる?」

「今週?」

「うん」

数える。

「……九人?」

「多いね」

「そう?」

「そのほかに服の確認と、ルカとの打ち合わせと、仕立屋との調整もあるよね?」

「あります」

「じゃあ多い」

即答された。

「でも、断るのも悪い気がして」

せっかく頼みたいと思ってくれている。

できるならやりたい。

「全部受けるのが親切とは限らないよ」

ロイさんが帳簿を見ながら言う。

「忙しすぎて一人ずつちゃんと見られなくなったら、そっちの方が困るんじゃない?」

「…………」

それは嫌だ。

ものすごく嫌。

相談に来た人の話を急いで聞いて、何となく決める。

絶対やりたくない。

「じゃあ、受ける人数を決める?」

「そう。まず一日に何人までなら、君が質を落とさずできるか」

質。

なるほど。

今まで私は、空いているところに予定を入れていた。

でも。

空いている時間と、使っていい時間は同じじゃない。

「それから、君じゃなくてもできることを分ける」

「私じゃなくても?」

「例えば手紙の整理。予約の日程調整。支払いの記録。仕立屋やルカへの連絡」

私は横を見る。

ローラと目が合った。

「…………」

「…………」

何となく。

二人とも同じことを考えた気がする。

その日の午後。

私はローラと向かい合った。

「ローラ」

「はい」

「仕事を手伝ってほしい」

「もう手伝っておりますが」

「そうなんだけど」

確かに今さら。

でも違う。

今までは、ローラがメイドとして私のそばにいる延長で、何となく手伝ってもらっていた。

手紙を持ってきてもらう。

予定を確認してもらう。

連絡してもらう。

でも、それ普通に仕事じゃない?

第十二話で学んだ。人の時間を勝手に無料にしてはいけないのだ。

それなのに。

一番近くにいるローラには普通にやってしまっていた。

「ちゃんと仕事としてお願いしたいの」

ローラが少し驚いた顔をした。

「私に、ですか?」

「うん。予約とか、手紙とか、支払いの記録とか。私、そこまで全部やると多分また何か飛ばすから」

「それは……そうかもしれません」

否定して。

少しくらい。

「もちろん、お屋敷の仕事もあるでしょう? だからそっちも調整して、私の仕事をやってもらう分はちゃんとお給金も別にしたい」

ローラはしばらく黙っていた。

「嫌?」

「いえ」

首を振る。

「ただ、少し驚いて」

「何で?」

「お嬢様が、そこまで考えてくださっていたので」

……第十二話の私に聞かせたい。

「ローラと一緒にやりたいの」

これは本当。

元のエレナの頃から、ずっとそばにいた人。

この世界で私が一番最初に話した人。

仕事を始めてからも、ずっと見ていた人。

「お願いしてもいい?」

ローラが笑った。

「もちろんです」

よし。

ローラ正式加入。

仕事を整理し始めて数日。

今度は、別のものが気になった。

ローラの制服。

「ローラ」

「はい?」

「その服、動きやすい?」

「制服ですか?」

「うん」

見る。

可愛くない。

いや仕事着なので、可愛さが最優先でないのは分かる。

でももっとできる。

動きやすくて。

清潔感があって。

ちゃんと仕事向きで。

それでいて着たときに少し嬉しいもの。

「好きな色ある?」

「急ですね」

「ある?」

ローラは少し考えた。

「落ち着いた青は好きです」

「青」

似合いそう。

「動くとき困るところは?」

「袖が少し長いことと、裾はもう少し軽くてもいいかもしれません」

なるほど。

好き。

実用性。

本人の意見。

全部聞く。

これいつもの仕事と同じじゃん。

オスカーさんとノラさんにも相談して、まずローラの制服を作った。

落ち着いた青を基調にした、動きやすい形。

袖は邪魔にならない長さ。

エプロンも重すぎない。

襟元とリボンに、ほんの少しだけ可愛さを残す。

完成した制服を着たローラは、鏡の前で何度か身体を動かした。

「楽です」

「本当?」

「はい。それに」

鏡を見る。

「少し、仕事に行くのが楽しみになる気がします」

「…………」

それ。

いい。

すごくいい。

仕事って長い時間を使う。

だったら仕事をする自分のことも、少し好きでいられた方がいい。

一着作ったら当然他の人の分も気になる。

厨房。

掃除。

庭。

仕事内容が違えば、必要な形も違う。

「お嬢様」

ローラが察したような顔をした。

「全部変えるおつもりですか?」

「……駄目?」

「まずは旦那様に――」

「あ」

父。

いない。

わけない。ただ転生してから会ったことがない。

そうだった。いるんだった。父。

「帰ってきてから相談した方がいい?」

「本来でしたら」

本来。

「でも、試作くらいなら」

「お嬢様」

とりあえず数種類だけ。

試しただけ。

そしてその制服が、なぜか噂になった。

『ベルフォード家で働くと、可愛い制服が着られるらしい』

「…………」

私はローラを見る。

「何で?」

「若い使用人の方々の間で、お話が広まったようです」

「制服で?」

「はい」

「そんなことある?」

「あるようですね」

最近ベルフォード家では、働き手を募集していた。

特に若い人がなかなか集まらないと、家令たちが話していたのを聞いたことがある。

それが、制服を変えただけで応募が増えた。

「…………」

そんなことある?

あるらしい。

そして、そのタイミングで両親が帰ってきた。

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