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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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15/20

第15話 今が使い時です

ある日わたしはアシュフォード侯爵家を訪れた。

うん。大きい。

知っていた。

侯爵家なのだから。

そりゃ大きい。

でも実際に来ると。

大きい。

語彙がなくなる。

「エレナさん!」

ヴィクトリア様は今日もものすごく元気だった。

「待っていたわ」

「本日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。さあ、こっち」

早い。

私より早いかもしれない。

横を見るとロイさんが少し遠い目をしている。

「母上。エレナ嬢は逃げないから」

「分かってるわ」

分かってなさそう。

案内された部屋には。

服。

布。

アクセサリー。

そしてその隣。

「…………」

宝石。

いっぱい。

「これ全部ヴィクトリア様の?」

「そうよ」

すご。

侯爵夫人。

すご。

私はつい見てしまう。

色。

大きさ。

形。

石。

金属。

好きで集めていたけれど、あまり使っていないものも多いらしい。

「身につけるのは小さいものばかりね」

ヴィクトリア様が言う。

「大きいものは派手すぎる気がして」

私は一つ手に取る。

深い色の石。

存在感十分。

でも、今のヴィクトリア様なら負けない。

「これ」

「素敵でしょ。気に入って買ったのだけれど使えていなくて。」

「今こそ使い時です」

「今?」

「はい」

若い時じゃなくて今。

銀色の髪。

落ち着いた肌。

積み重ねた年齢。

全部がこの宝石に合う。

ルカにも来てもらっていた。

ヴィクトリア様の銀髪を見るなり、ルカが目を輝かせた。

「あら。綺麗」

「染めた方がいいかしら?」

ヴィクトリア様が聞く。

「隠したいなら染めればいいわ」

ルカが髪を持ち上げる。

「でも、魅せるなら話は別」

さすが。分かってる。

「エレナはどうしたいの?」

「使いたい」

「でしょうね」

髪は長さを大きく変えすぎない。

でも、重たく見える部分を整えて艶を出す。

銀色がちゃんと光として見えるように。

「染めない方がいい?」

ヴィクトリア様が聞く。

「私は、こっちが好きです」

答える。

「でも、最後に決めるのはヴィクトリア様です」

「なら、染めない」

即決。

やっぱり親子。

似てる。

ロイさんを見たら嫌そうな顔をした。

何も言ってないのに。

服は深い色。

ただし全部を重くはしない。

肩に上質な布を一枚。

顔周りには強さが出る色。

そして口紅。

赤をしっかりと。

「濃くない?」

ヴィクトリア様が鏡を見る。

「濃いです」

「いいの?」

「いいです」

弱くする理由がない。

ヴィクトリア様自身が負けないから。

むしろ。

薄くすると中途半端に見える。

「今のヴィクトリア様だから、これが映えるんです」

若い頃の彼女を私は知らない。

でも今、目の前にいる人は。

この赤を普通に使える。

最後に宝石。

さっきの存在感のあるもの。

「本当にこれ?」

「はい」

「ロイ」

ヴィクトリア様が息子を見る。

「どう?」

「俺に聞く?」

「聞いてるの」

ロイさんが母親を見る。

一瞬。

黙る。

そして。

「いいんじゃない?」

「それだけ?」

「……今までで一番、母上らしい」

ヴィクトリア様が嬉しそうに笑った。

私はその言葉がすごく分かる。

若く見える。

ではない。

昔のヴィクトリア様に戻った。

でもない。

今のヴィクトリア様。

一番本人らしい。

鏡の前。

銀色の髪。

赤い唇。

深い色。

存在感のある宝石。

ヴィクトリア様が。

自分を見る。

「私」

少し角度を変える。

「今の私、結構好きだわ」

出た。

好き。

私は笑う。

これやっぱり一番嬉しい。

そのあとヴィクトリア様は、次々に宝石を出し始めた。

「これは?」

「使えます」

「これは?」

「ちょっと待ってください」

「これは?」

「母上」

ロイさんが止める。

「今日は一つずつにして」

「だって楽しいじゃない」

分かる。

すごく分かる。

「エレナさん、また来てね」

「ぜひ」

「即答しないで」

ロイさん何で。

帰る前に少しだけロイさんがアシュフォード家の中を案内してくれた。

ロイさんが気軽に使用人に声をかける。

向こうも自然に返す。

ヴィクトリア様に対しても呆れながらちゃんと優しい。

なるほど。

こういう家で育ったんだ。

何となく分かる。

人との距離。

余裕。

話し方。

仕事のときの押しつけなさ。

全部が急に繋がった気がした。

「何?」

ロイさんに聞かれる。

また見てた。

「今日」

「うん」

「ロイさんのことも、いっぱい知りました」

ロイさんが一瞬止まる。

「……俺?」

「はい」

「母上の話じゃなく?」

「それもですけど」

家。

家族。

育った場所。

今まで仕事の話ばかりしていたから。

こういうの知らなかった。

「なるほど」

ロイさんが少しだけ変な顔をした。

何だろう。

まあ。

いいか。

馬車の中。

私は今日のヴィクトリア様を思い出す。

若くする。

ではなく。

今を使う。

年齢が増えたから。

選択肢が減るとは限らない。

前は似合わなかったものが。

今は似合う。

髪の色が変わったから。

使える色が変わる。

本人の存在感が増したから。

大きな宝石に負けなくなる。

その時々の自分で遊べばいい。

「…………」

これ。

また一つ私の中の「魅せ方」が増えた気がする。

変わることは悪いことじゃない。

隠さなくてもいい。

その人の今を一番綺麗に使えばいい。

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