第13話 隠さなくていい
セシリアさんへ費用を伝えると、返事はすぐに来た。
その内容でお願いしたい。
そう書かれていた。
よかった。
これで今度こそ正式な仕事だ。
◇
ノラさんの件も、オスカーさんに相談した。
「この店の仕事を辞めていただきたいわけではないんです」
最初に言う。
「私の仕事で、デザインを絵にしてほしいときだけお願いしたくて」
オスカーさんが腕を組む。
「必要なときだけ?」
「はい。本来のお仕事に支障がない範囲で」
「報酬は?」
「もちろんお支払いします」
言えた。
成長。
「ノラはどうしたい?」
オスカーさんが本人を見る。
ノラさんは少し緊張していたけれど。
「やってみたいです」
はっきり言った。
「新しいものを考えるの、好きなので」
よし。
「では、店の仕事に差し支えない範囲なら」
オスカーさんも頷いた。
決まった。
ノラさん、チーム加入。
……チーム?
いつの間にか増えてる。
◇
そしてドレスが完成した。
深い紺。
余計な装飾はほとんどない。
胸元はすっきり。
布が身体にまとわりつきすぎず。
でも必要以上に離れない。
腰位置は、セシリアさん自身に合う場所。
裾まで綺麗に縦の線が落ちている。
「…………」
鏡の前に立ったセシリアさんが。
動かない。
私は横で待つ。
前にもこの時間があった。
アシュリーさんのとき。
鏡を見る。
少しの沈黙。
これ、緊張するんだよね。
「どうですか?」
そう聞くと、セシリアさんが自分の身体を鏡越しに見る。
胸元。
腰。
全身。
「私」
ゆっくり言う。
「こういう服、着てもよかったんですね」
「もちろん」
「ずっと」
手がドレスの布をなぞる。
「もっと飾らないと、身体が目立つと思っていました」
でも今は、何も隠していない。
無理に細く見せようとも。
小さく見せようともしていない。
ただ服のラインを整えただけ。
「今日の私」
セシリアさんが鏡を見る。
少し笑う。
「ちょっと、好きかも」
「…………」
それすごくいい。
私は、こういう言葉を聞きたかったのかもしれない。
◇
数日後。
セシリアさんは、そのドレスで夜会へ出た。
もちろん私も行った。
検証大事。
「セシリアさん、雰囲気が変わりましたね」
「そのドレス、とても素敵」
「ずいぶんすっきり見えるわ」
反応良好。
本人も楽しそう。
そして、ある令嬢が何気なく聞いた。
「セシリアさん、以前よりお痩せになった?」
私は少し離れたところで聞いていた。
セシリアさんが一瞬、私を見る。
それから笑った。
「いいえ」
はっきり。
「何も変わっていません」
「まあ、そうなの?」
「はい。ドレスを変えただけなんです」
その言葉が妙に嬉しかった。
身体は何も変わっていない。
変える必要もなかった。
ただ、似合っていなかった服を本人に合わせただけ。
私はグラスを持ちながら。
小さく呟く。
「……ほらね」
◇
翌日、私は売上と費用をまとめた紙を前にしていた。
相談料。
仕立て。
ノラさんへの報酬。
その他。
「…………」
こうして見るとちゃんと仕事した感じがする。
「お嬢様」
ローラが隣から覗く。
「どうですか?」
「面白い」
「数字がですか?」
「うん」
前は、お金の話になるとちょっと面倒と思っていた。
でも、誰にいくら払った。
何にいくらかかった。
最後にどれだけ残った。
それを見るとこの仕事が本当に動いたんだと分かる。
「ロイさんにも見せたい」
言ったあとで、あれ?何で?と思う。
まあ教えてもらったからか。
「ご連絡しますか?」
「うん」
ローラよ。
最近私の行動予知してない?
◇
ロイさんのところへ持っていくと。
「じゃあ、振り返ろうか」
と言われた。
振り返り。
つまり、ちゃんと利益が出たのか。
何に時間がかかったのか。
次に変えた方がいいところはないか。
を見るらしい。
「仕事って」
私は紙を見ながら言う。
「終わったら終わりじゃないんですね」
「そうだね」
「面白い」
「本当に好きだね」
「何が?」
「この仕事」
「はい」
即答。
これはもう迷わない。




