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どうやら異世界転生ってやつ?〜令和の垢抜け研究者(自称)が、社交界をまるごとプロデュースします〜  作者: 天野みんと


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12/22

第12話 値段を決めてませんでした

「値段を決めずに、もう仕事を始めた?」

ロイさんが聞いた。

「はい」

「新しいドレスを作るところまで?」

「はい」

「仕立屋と、新しく手伝う人も増えそう?」

「はい」

「それで?」

「値段を決めてませんでした」

「…………」

静か。

怖い。

怒鳴られる方が、まだ分かりやすい。

ロイさんはしばらく黙って、私を見る。

「エレナ嬢」

来た。

「はい」

「座って」

「もう座ってます」

「じゃあ、そのまま動かないで」

逃げないよ。

◇

「まず」

ロイさんが紙を出す。

「今回、誰の時間を使ってる?」

「私」

「だけ?」

「オスカーさん」

「うん」

「ノラさん」

「うん」

「セシリアさんも……?」

「依頼する側の時間は今はいい」

違った。

「他には?」

考える。

「店の人」

「そうだね。材料も使う」

「はい」

「それを全部使って、最後に『値段はあとで考えます』だと、誰が困る?」

「…………みんな?」

「正解」

耳が痛い。

「依頼する側だって困るよ。最後に思っていたより高い金額を言われたら?」

「嫌です」

「逆に安すぎたら?」

「私たちが困る」

「そう」

分かる。

言われればすごく分かる。

「君が自分の時間を無料で使うのは、まあ君が決めればいい」

「はい」

「でも、他の人の時間まで勝手に無料にすることはできない」

「……はい」

これは本当にそう。

◇

私は、楽しい。

考えるのが楽しい。

だから自分が何時間使ったかを、あまり気にしていなかった。

でも、

ルカも。

オスカーさんも。

ノラさんも。

仕事だ。

その人たちにも生活がある。

技術がある。

経験がある。

「楽しそうだから、一緒にやってください」

だけでは続かない。

「私」

紙を見る。

「ちょっと間違えてました」

「何を?」

「楽しいから、お金のことは後でいいかなって」

ロイさんは何も言わない。

「でも、楽しい仕事だからこそ、ちゃんと払われた方がいいですよね」

「俺はそう思う」

「一緒にやってくれる人にも、『この仕事やってよかった』って思ってほしい」

言いながら少しずつ考えが繋がる。

「ルカも、ノラさんも、オスカーさんも。それぞれ得意なことで誰かを喜ばせて、それでちゃんとお金ももらえるなら」

それってすごくいい。

「みんなにとって、楽しい仕事になるでしょう?」

ロイさんが少し笑った。

「そういうところは、いいと思うよ」

「そういうところは?」

「行動の早さも長所だと思ってる」

「本当?」

「ただし」

来た。

「行動が早いのと、決めるべきことを飛ばすのは別」

「…………はい」

反論できない。

◇

そこから料金の考え方を整理した。

まず私の相談と分析。全体の方向を決める部分。

そこが、この仕事の中心。

服を新しく作るなら、その料金は別。材料も別。

ルカや、今後他の専門家にお願いするなら、その分もちゃんと払う。

そして、外に頼む費用が発生するなら先に相談者へ伝える。

「全部、最初に分かるようにした方がいいんですね」

「少なくとも、何にお金がかかるのかはね」

「途中で変わる場合は?」

「その都度、確認する」

なるほど。

「あと」

ロイさんが言う。

「ノラって人に今後頼むなら、どういう形で頼むのかも決めた方がいい」

「どういう形?」

「仕立屋を辞めてもらうの?」

「え」

全然考えてなかった。

「辞めなくていいです」

即答。

だって、オスカーさんのところで働いているからこそ服のことも分かる。

「じゃあ、必要なときだけ頼む?」

「それがいい」

「お店に支障が出ない範囲で?」

「はい」

「店側の了承も取る」

「はい」

「報酬も決める」

「はい」

決めることが増えた。

でも今度は嫌じゃない。

決める理由が分かったから。

◇

「副業ですね」

「何?」

「あ」

また。

「お店を続けながら、別の仕事もすること」

「便利な言葉だね」

「でしょう?」

この世界でも使えばいいのに。

いや、私が広めればいいのか。

……今はいい。

だってやることが増える。

ノラさんには仕立屋さんを辞めてもらわない。

必要なときに、デザインが必要な案件だけ、力を借りる。

それなら私も嬉しい。

ノラさんも新しい仕事ができる。

オスカーさんの店も困らない。

ちゃんとお金も払う。

これ、いいじゃん。

◇

話が終わる頃には、最初に持ってきた紙がまた文字だらけになっていた。

でもすっきりした。

「ありがとうございました」

「どういたしまして」

「ロイさん」

「何?」

「私、ロイさんと話すの好きです」

一瞬、ロイさんが止まった。

「…………そう?」

「はい」

何で止まったんだろう。

私は続ける。

「考えてたことが、ちゃんと形になるから」

「ああ」

ロイさんが少しだけ笑った。

「それならよかった」

「一人だと、また『まあいい』って飛ばしそうなので」

「そこは飛ばさないで」

「今回で学びました」

「本当に?」

「たぶん」

「エレナ嬢」

笑われた。

でも、本当に話しやすい。

私が頭の中に散らかしているものが

この人と話すと

一つずつ

置く場所が決まる。

やっぱり面白い。

◇

帰宅して最初にやったのは、セシリアさんへの連絡だった。

今回の相談料。

新しいドレスの費用。

仕立て。

材料。

先に伝える。

ノラさんの仕事についてもオスカーさんに相談する。

順番大事。

「お嬢様」

ローラが横から見ている。

「何?」

「今日は、先に決めていらっしゃるのですね」

「学習したから」

「素晴らしいです」

何か褒め方が子どもっぽい。

まあいい。

うん。

これはまあいいでいい。

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