194 大人達の話し合い
次が最終話になります
◇◇◇◇
「あ、そうだ! お風呂にはいろう!」
「そだね! お風呂はいったら、おやつたべよ!」
「スイもおやつ食べるのである」
「ばうばう~」
ルリア達が部屋を出て行くのを、マリオンは黙って見送った。
結構きつく叱ったのだが、特に落ち込んでいないようなので、マリオンは安心した。
子供達が去ると、部屋にはマリオンとトマス、それに男爵家の女執事が残った。
マリオンと女執事が長椅子に並んで座り、机を挟んで、正面にトマスが座る。
「ふう……お忙しいでしょうが、改めて報告をお願いします」
「御意」
トマスはあくまでも大公家の家臣。だからマリオンは丁寧に接する。
そしてトマスも大公から男爵家に派遣されているので、主君に対するかのように接するのだ。
「事の経緯は――」
トマスは何も隠さずにマリオンに対して改めて報告していく。
直訴から始まり、ダムで起こった事件、そして村を救うまでだ。
それを女執事は黙々と筆記していく。大公爵家に提出する報告書を作成しているのだ。
黙って聞いていたマリオンはふうっと息を吐く。
「相変わらずルリア様は、規格外ですね」
「はい」
「トマスさんも、大変ですね」
「大公殿下に任された任務ですから」
ルリア達には知らされていないが、トマスは特別な任に就いている。
その任は単なるルリアの護衛ではない。
それはルリアが、常識外れの事をやらかすときでも、ルリアの味方をするという任務だ。
しつこく止めず、ルリアの意思が堅い場合は尊重するようにと、トマスは命じられていた。
もし、大人に誰も味方がいないとなれば、ルリアは黙ってこっそり行ってしまう。
それを、グラーフとアマーリアは懸念したのだ。
「今後とも、ルリア様のこと、よろしくお願いしますね」
「はい。ですがあまり大変ではないんです。ルリア様が何をするのか楽しみになっています」
そういって、トマスは笑う。
マリオンも微笑んで、机に置かれたお茶を一口飲んで窓の外を見る。
「それにしても、あの人が……ね」
あの人とは前男爵のことだ。
トマスは前男爵の末路についても、細かく正確に報告したのだ。
「お悔やみ申し上げます」
前男爵とマリオンは既に離縁済みだが一応トマスはそういった。
サラ達は、前男爵に関してはまともに報告しなかった。
報告内容は、とても悪い奴が現われたけど、ルリアとダーウが倒したぐらいだ。
だがトマスは当然、事細かに報告する。
化け物をルリアとダーウが倒したら、男爵の顔をしたおぞましい化け物が現われたこと。
その化け物はサラに対して父だと名乗り、助けろと命乞いしたこと。
その命乞いを、サラははねつけたこと。
サラの発した言葉の一つ一つまで、トマスはできるだけ正確にマリオンに伝えた。
「男爵閣下は、ご立派でした」
「そうね。あとで褒めてあげないと」
そういいながら、マリオンは前男爵に対して全く心が動いていないことに気がついた。
同情やさみしさ、感傷的な気分、もしくは怒りや憎しみ、そういった感情すら浮かばなかった。
ただ、サラが傷ついていないかだけが心配だった。
「村での振る舞いも男爵閣下は、五歳とは思えぬほどご立派でした」
「ありがとう」
サラを褒めてもらい、マリオンは嬉しかった。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
その日の夜。
サラとミアは、マリオンと一緒の寝台で眠った。
「あのね、ママ、サンダーがね――」「……」
「そう、よかったわね」
「それで、ビトが――」「……」
サラはマリオンに抱きつきながら、今日あったことを話していく。
ミアもマリオンに無言で抱きついていた。
「あのね、ママ」
「どうしたの?」
「化け物が……前男爵のかっこうになったの」
「そう」
「それで……親の言うことを聞けって。でもサラはお前なんか親じゃないって言ったの」
「そうね、化け物はサラの親ではないわね」
サラは少し不安そうにマリオンを見る。
「…………」
ミアがぎゅっとサラに抱きつく。
「それで、ミアにたのんで化け物をたおしてもらったの。サラがたおしたの」
「そう。偉かったわね」
「ねえ、ママ。よかったのかな?」
「もちろん、よかったのよ」
マリオンはサラとミアを優しく撫でた。
「サラは何も間違ったことをしていないし、何も悪くないわ」
マリオンがそういうと、サラはほっとしたようだった。
そんなサラをマリオンはぎゅっと抱きしめる。
「可愛いサラ。サラはママの宝物なの」
「えへへ。うん」
「無事に帰ってきてくれてありがとう」
「うん」
「これからはあまり危ないことをしたらダメよ?」
「うん。わかった」
サラは優しく抱きしめられ、撫でられている間に眠ってしまったのだった。
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