第6話
「……馬鹿な、ミシマの剣をもろに食らったというのに」
国王は切り付けたられたランスの首筋を見てそう呟いた。
薄皮一枚に僅かな傷が走っている。人間の限界値であるミシマの腕力をもってしてもただそれだけだった。
いくら『計測不能』とはいえ、頑丈さにも限度があろうというものである。
(が、しかし、それでも、ミシマには勝てぬだろうな……)
国王はミシマを見た。
勢いよく血液をまき散らしていた胸の大穴がみるみる内に塞がっている。
ランスが言う。
「あそこまで破壊されて死なないとはな、お前本当に人間か?」
「デュフフフフ、お前が言うなスレ乙ですわぁ。君の完全魔法耐性と同じでぇ、僕にもあるんだよねぇチート能力」
「……なるほど。違和感はあった。ここに入って来たとき、お前は無傷だったが服は斜めに切れていた。それも、前面と背面が全く同じようにな。体を斜めに切り飛ばされでもしない限りそんな切れ方しないだろ?」
「デュフフフフフフ、察しがいいでしゅねぇ」
五年前。ミシマの地下牢への幽閉を聞いた時、ミシマのことを詳しく知らない数人の大臣が国王に尋ねた。
なぜ、幽閉なのか? と。
万全を期すなら処刑するべきではないか。ミシマの功績を考慮してのことだろうか?
なるほど、当たり前の疑問である。なにせ国王は普段は温厚だが国のためとなれば非情な判断を躊躇なくとることで知られる人物である。
ならば、なぜか?
答えは一つ、単純なことだった。
その男が物理的に殺せないからである。
「反則能力『不死』。この世界にくるときにぃ、神様みたいなやつが僕にくれた力さぁ。僕はぁ、何をやっても死なないんだよぉ?」
そう言い終えたと同時に、ミシマの傷が完全に塞がる。
まさに反則という言葉がふさわしい固有能力だった。
「はぁ、それにしてもぉ、やっぱりこんな単純に切り付けるだけの武器じゃあ君は倒せそうにないし、気分も上がらないなぁ」
ミシマは手に持ったエクスカリバーを放り捨てた。
「実は、僕が貰ったチート能力はぁ、一つじゃないんだよねえ」
ミシマの掌の空間がぐにゃりと歪み、ある物が現れる。
「想像生成」
大ぶりな剣であった。だが、独特の形をしている。唸るような音と共に高速回転する小さな刃がいくつもついているのだ。
ミシマの元いた世界で言うところの、チェーンソーという武器だった。
「ねえ、ランスくーん。僕の住んでた世界には『洋ゲー』ってグローいやつがあってさぁ。敵やターゲットだけじゃなくてぇ、『モブ殺し』って言って一般人とかも殺せちゃうこと多いんだよねえ。んで、戯れに、こっちに反撃もできないようなヘルプミーヘルプミー言ってる人たちを嬲り殺しにするんだけどぉ」
ミシマは涎を垂らしながら満面の意味で言う。
「それが楽しくってさぁ!! 気が付いたらミッションほったらかしにして何時間も何時間も何時間も『モブ殺し』やっちゃうんだよねぇ!! 背後からナイフで頸動脈切り裂いて、車で引きつぶして、斧で脳天たたき割ってぇ。始めて殺ったのは金髪のOL風のモブでさあ。拳銃を口に突っ込んで震えながら両手を上げてるところをAボタン押して撃ち殺した時なんか〇〇しちゃったよぉぉぉぉぉ!! ランスくんは死ぬ前にどんな顔を僕に見せてくれるのかなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
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「自分で言うのもなんだけど、アタシは当時の大幹部の中でもずば抜けた実力を持っていたわ。でもね、あの男。ミシマ・カケルはまさに住んでる世界が違ったわ。誰であっても、彼とは戦いにもなりはしない」
かつてミシマと戦った魔王軍の元大幹部、『虐殺美将』ローレンス・グリモワールは語る。
「だって、死なないのよ? 戦いって要するに命の奪い合いだもの。それなのに自分だけは死なないなんてふざけてるわ。あの男にとっては全て相手の命を一方的に奪う行為……虐殺よ。それに向かい合ったときに感じた私を品定めするかのような邪悪な目線。魔王軍の魑魅魍魎たちが大人しい子犬に感じるほどのおぞましさだったわ。ええ、惨めに小水をまき散らしながらもう必死で逃げたわよ。同時に、魔王軍っていう狭い世界での強者を誇っていた自分が惨めになって、本拠地に逃げ帰ったその日のうちに魔王軍を抜けたわ」
現在は魔王軍やマルストピア王国のあるノースドームの反対側、サウスドーム辺境の国で、農家を営む人間の夫と一子をもうけて慎ましやかな生活を送る彼女は遠くを見つめて言う。
「ええ、今は幸せですし、戦いの世界に戻りたいとは思わないわ。もう二度と、あんな奴がいる世界になんか戻りたくないもの」




