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第1話

第一話 英雄


――今となっては昔の話である。

 ハジム村という小さな村があった。

 ある日、齢70を超える村長たちを含む村議会のメンバーが村で唯一の教会の前に集まっていた。


「なんだこれは……」


 村長が皺だらけの目元を大きく見開いて言う。

 教会は3年前に中央正教会から寄付されたものである。当時最新式の建築方式を使い、大きくはないが意匠は豪奢で荘厳。さらに、緊急時の避難場所としても使用を想定されていたため、作りは堅牢。大砲を数発撃ちこまれた程度では、壊れないように作られている。

 その、建物が……


「……これを5歳の少年がやったというのか?」


 崩壊していた。完璧なきまでに。

 木と石膏によって固められた壁は砕かれ、女神の像は小石と化し、中央を支えていた大きな柱は30メートル先まで吹っ飛んでいる。

 もはやそれは廃材置き場であり、戦場後の廃墟であった。

 なぜこのようなことになったのか?

 目撃者の話によれば、朝の礼拝に来ていた子供たちの間でケンカがあったらしい。


 ランス、と言う一人の少年がいた。

 白い髪という少し目立つ容姿をした少年は普段、人と話さず黙っているような子供であった。

 その少年に対して、ガキ大将のグループがいじめを始めた。

 始めは罵倒である。


―くらい、うざい、まっしろなくせに、ひとりぼっちのうすぐらやろう、おまえがいるとくらくなるからきょうかいにくるな、めがみさまはおまえみたいなやつはきらいなんだよ。


 しかし、その少年は無反応であった。

 それを見てガキ大将の頭に血が上る。


―むしするんじゃねえ。めがみさまのためにおまえをたいじしてやる。


 女神の意思を盾にするあたり、なかなかに独裁者の素質を持ったガキ大将である。

 そのガキ大将の拳が少年に叩きつけられた。

 しかし、少年は未だ無反応。そして、ガキ大将の拳を受けても身じろぎもしない。逆に殴りつけたガキ大将の手がビリビリと痛む。

 ふと、少年は自分の服に止まっていた羽虫に気づいたとでも言わんばかりに、ガキ大将の方を見て言う。


「きみ……なにがしたいの?」


 いよいよ、ガキ大将がキレた。

 グループの舎弟たちにも命じて、徹底的に殴りつけ蹴りつける。

 中には石や立てかけてある杖を武器に使いだす者もいた。

 やがて、席を外していた神父が戻ってきてその光景を目撃する。

 神父は慌てて、ガキ大将を羽交い絞めにして少年から引きはがした。

 ガキ大将は大人の腕の中で暴れながら、ここまでやっても平然と身じろぎ一つしなかった少年に言う。


―やい、ねくらやろう。よわむし。くやしかったらやりかえしてみろ。


 その一言を引き金に破壊劇は始まる。

 少年がぼそりと呟く。


「……うん。じゃあ、やってみる」


 次の瞬間。


 少年を囲っていたガキ大将の舎弟たちが吹っ飛んだ。


 何が起こったのかわからず、言葉を失うガキ大将と神父。

 少年はゆっくりと歩き、教会の建物を支える中央の柱の前まで行くと。

 蹴りを一閃。

 直径3メートルの柱をへし折った。

 支えを失いメキメキと軋み、崩れ落ち始める教会。

 神父もガキ大将も唖然とするが、少年はそんなことを微塵も気にせず柱を抱えこむと。


 柱に繋がった屋根や壁ごと持ち上げて、ガキ大将の方に振り回してきた。


 悲鳴を上げるガキ大将と神父。

 当たり前だが、食らったら木っ端みじんに四散して死ぬ。

 その時、少年はふと思い出したように呟いた。


「あ……死んじゃうのはよくないんだった」


 柱の軌道が大きく逸れた。

 ガキ大将と神父の頭の上を通過し、遠心力に耐えきれなくなった半ばからへし折れて、折れた先が砲弾のようなスピードで吹っ飛んでいき、30メートル先の地面に落下した。

 ガキ大将はその場に崩れ落ち、歯をガチガチと震わせて膝をついて股間から小水を垂れ流した。生涯消えることないトラウマが植え付けられた瞬間である。

 少年が「やってみる」と呟き自ら動きだしてから15秒。

 たった15秒で教会は廃墟と化した。一人の死人も出なかったのは奇跡であると、神父は述懐している。


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