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プロローグ 魔王瞬殺。

それを最終決戦と呼ぶにはあまりにも一方的過ぎた。

 魔王ラドム・ベルネリアと勇者ランス・シンダーガードの戦いはものの数分で終わってしまったのである。

 戦いが始まると同時に魔王が繰り出した数々の超魔法。

 摂氏4000度の熱線を放つ火属性最上位魔法「テンペスト・バーン」。

 対象に死神の呪いをかけ、骨の髄から腐らせていく究極黒魔術「キリング・ブレス」

 そして、五大属性の最上位魔法を同時に放つ、魔王の必殺「デリート・ヘル・ペンタグラム」

 その一撃一撃は勇者と共に魔王城に攻め入った王国軍の兵士たちをまとめて消し飛ばすほどの一撃である。

 しかし。


「ば……ばか……な……」


 魔王ラドムはまるでボロ布のような有様で倒れていた。へし折れた角や口元から流れ出る鮮血が痛ましい。

 一撃。

 たった一撃であった。

 魔王の全身全霊を込めた超魔法の嵐は、目の前の男に傷一つ負わせることは出来ず、逆に勇者が無造作に放った拳でねじ伏せられてしまったのである。


「な、なぜだ! なぜ、この私の攻撃が効かない! 魔王であるこの私の攻撃が」


 余りの不条理さに、幼子のように声を張り上げる魔王。

 見下ろすのは勇者ランス。

 一言で言えば白い少年である。

 容姿や背格好はいたって普通のどこにでもいそうな18歳くらいの少年。顔立ちはどちらかと言えば精悍で整っている、背の丈も平均よりは高いほうだろう。細身だが引き締まった筋肉を感じさせる体つきもしている、だがやはり、そのどれもが目の前の魔王と比べてしまうと普通の範囲であった。

 ただし白い。髪も肌も瞳の色さえ白かった。

 それが、たった一つだけ、明らかに常人とは違うところであり、致命的に違うところであった。

 いや、もう一つだけ。むしろ、こちらの方が異常である言うと者も多いかもしれない。

 完全なまでの無表情。そして、見ていると飲み込まれそうになるほどの虚無を携えた瞳である。

 色素の薄い瞳からは一切の感情を読み取ることが出来なかった。死体ですらもう少し表情豊かである。

 ランスは致命傷を負った最後の敵をその瞳で感慨なく見下ろして言う。


「なんだ魔王。お前でもダメなのか……」


 それだけ言うと、ランスは踵を返してその場を去って行く。


「ま、まて、人間……俺はもう助からん。最後に一つだけ教えてくれ……人間であるお前がどうやってそこまで強くなった?」


「どうやって、か」


 ランスは立ち止まって答える。


「どうやっても何も、俺は初めからこうだったんだよ」


「なん……だと?」


「俺は強力な固有能力と、ステータスとして計測できないほどの身体能力と魔力量を持ってこの世に生まれた。俺はずっと探している、俺を倒してくれる相手を……」


 そう言い残して再び歩き出すランス。


「ははは……魔王に生まれ、誰よりも強いつもりで生きてきたが、どうやら井の中の蛙だったらしい。」


 魔王はその背中に向けて、血の滴る牙の生えた口で笑いながら言う。


「なあ、勇者よ。強すぎる勇者よ。残念ながらお前はその望みを叶えるには強すぎる! この世界にはお前に勝てるやつなどいないさ! いや! 勝負になるやつすらいない。かつての遥か古き時代の魔王たちは散り際に勇者に呪いをもたらすのが定番だったようだが、貴様には必要もあるまい。せいぜい叶わぬ願いを永遠に追い続けるがいい、その行き過ぎた強さこそが最大の呪いだ。ハッハハハハハハハハハアアアアアアアア!」


 魔王の笑い声は、その命が尽きるまで止まらなかった、とその戦いに参加した兵は後に述懐している。


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