第18話
東京モノレールの硬いシートが、レールの継ぎ目を拾うたびに俺の体を規則正しく揺さぶっていた。窓の外には、天王州アイルから浜松町へと続く、光の海が広がっている。高層ビルの窓一つ一つが冷たく、しかし執拗にまたたいていた。だが、俺の目にはその壮大な夜景はもはや映っていなかった。意識は網膜の裏側で、今日という日に起きた出来事を執拗に再構築していた。
村上がウェルネススペースで漏らした言葉が、車輪のきしむ音と重なり合い、無限にリフレインしていた。
『七年前に、経理部の人が死んでから、うちの会社、こういうウェルネス系のことに、何かに憑りつかれたみたいに必死なんですよ』
思考の回路がショートする。
七年前の死。
イノベート・フォワード・アカデミー。
畠中の怯え。
佐藤の苛立ち。
木戸の偽善。
バラバラの音だったはずの断片が、頭の中で一つの禍々しい旋律を奏で始める。歪んだ悪意のメロディーが脳裏に響き渡る。
彼女はやはり、ただのいじめの被害者などではない。この会社の最も暗い秘密――不正請求、横領、いやそれどころか、七年前の死の真相を知ってしまった、危険すぎる目撃者かもしれない。
だから、今彼女は殺されかけている。ハラスメントという目に見えないナイフで、毎日、少しずつ、魂を削り取られている。実行犯は佐藤、黒幕は木戸。さらに、その背後には会社という巨大で顔のない組織そのものが、冷たい目で彼女の死を待っている。
そうか。そういうことだったのか。
あの廊下で会った時の、彼女のあの小さな頷き。あれは、同志への合図などではなかった。明確な声なきSOSだったのだ。
『私は、とてつもなく危険な秘密を握ってしまった。だから、命を狙われている。助けて』
――魂の、絶叫だった。
俺は、ごくりと乾いた唾をのんだ。彼女が危ない。
窓の外を流れる光が、俺の思考を加速させる燃料のように見えた。
『あなたは考えてるだけで、何も行動しようとしないじゃない!』
潮風が混じる夜気の中、夕梨花の言葉が声をもって俺の胸に突き刺さっていた。
モノレールは浜松町の駅へと滑り込んでいく。ドアが開く。俺が彼女を守る。手遅れになる前に。
決意を固め、光の洪水から夜の闇へと、一歩踏み出した。




