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7

母が去ったあと、雫さんが教室に顔を出した。


隣には、友人らしき人がいた。


「永久ちゃん、来たよ」


そう言って教室へ入ってきた彼に、一斉に視線が集まった。


教室の奥へ隠れても、クラスメイトに呼ばれるだろう。


すぐさま駆け寄り、雫さんに声を掛けた。


ただ、この姿を見られることも、周囲の視線も恥ずかしかった。


「いらっしゃいませ……雫さん本当に、来たんですね」


私は目を逸らしながら呟いた。


「似合ってるよ」


私は、その一言に頬が熱くなるのを感じた。


「この子が、例の永久ちゃん?」


隣にいた雫さんの友人が、私を見て目を丸くした。


「可愛いじゃん」


「雫センセーの友人です。よろしく」


冗談めかして頭を下げる彼に、私は戸惑いながら小さく会釈を返した。


「そうだよ。だから、あまり困らせないでね」


雫さんは苦笑しながら友人へ言う。


「分かってるって」


友人は肩をすくめて笑った。


その様子を見ていたクラスメイトたちが、興味津々といった様子で私のもとへ集まってくる。


「神代さん、その人誰?」


「もしかして彼氏?」


私は首を横に振った。


「ち、違うよ。家庭教師」


そう答えると、皆は驚いたように顔を見合わせる。


「家庭教師?」


「なんか、仲良いね」


「そうかな……」


その反応の意味が分からず、私は首を傾げた。


少し考えてから答える。


「でも……お兄ちゃんみたいな人、かも」


その言葉に、クラスメイトたちは微笑んだ。


「なるほどね」


「そういう感じなんだ」


私はよく分からないまま、二人を空いている席へ案内した。


「こちらへどうぞ」


席に着いた二人へ注文を聞き、厨房へ向かう。


出来上がったクリームソーダを二つ、お盆に乗せて運んだ。


「えっと……どうぞ、ごゆっくり」


小さくそう言って頭を下げる。


席を離れると、後ろから女子たちの話し声が聞こえてきた。


「いいなぁ。あんな格好いい家庭教師、私もほしい」


「近くにあんな人がいたら、同級生の男子なんて目に入らないよね」


その言葉に、雫さんは少し困ったように笑っていた。


「俺の妹も、永久ちゃんみたいな子なら良かったのに」


雫さんの友人が、冗談交じりに話している。


私はその様子を横目に見ながら、他のお客さんの接客へ戻った。


しばらくして、雫さんがクリームソーダを飲み終え、席を立った。


「ごちそうさま」


私は、グラスを下げるため彼に近づいた。


すると、近くにいたクラスメイトが声を掛けてきた。


「神代さん、休憩取ってないよね?」


「えっと……私は、大丈夫かな」


「大丈夫じゃないって」


「せっかくお兄さん来てくれたんだから、一緒に文化祭回ってきたら?」


「でも……」


言葉に詰まる。


その格好で教室の外を歩かないこと。


母の言葉が蘇った。


「……」


「さっき、お母さんに言われたこと気にしてる?」


クラスメイトが、私の迷いに気づいたように声をかけた。


「もう帰ったなら大丈夫じゃない?」


それでも、すぐには頷けなかった。


すると、雫さんが自分の上着を脱ぎ、私の肩へ掛けた。


「これならどうかな?」


私は驚いて顔を上げる。


「永久ちゃん、少し借りても良い?」


彼がクラスメイトへ尋ねる。


「どうぞ。神代さん、楽しんできて」


クラスメイトはそう言って微笑んだ。


雫さんと、学校の色んな場所を巡った。


お化け屋敷や迷路、射的、自主制作映画、他クラスの喫茶店、演劇やバンドのステージ――どれも新鮮だった。


途中、途中でよくカップルと間違われた。


戸惑う私をよそに、彼は笑って兄だと答えていた。


去年は、一人空き教室か受け付けにいた。


高校の文化祭が、こんなに派手で賑やかだなんて知らなかった。


「あの、ありがとうございます」


私は、教室の外へ連れ出してくれた彼にお礼を言った。


「どういたしまして。僕より、さっきの子に伝えたほうが良いと思うけどね」


雫さんは、そう言って穏やかに笑った。


初めての経験ばかりで楽しかった。


それから季節は巡り、文化祭の余韻も落ち着いた頃には冬になっていた。


あの日を境に、幼馴染とは少しずつ言葉を交わすようになった。


彼が言うには、幼い頃の私は笑ったり、泣いたりしていたという。


私が歳を重ねるにつれ、表情を失っていったことを心配していたそうだ。


その言葉を思い出しながら、私はいつしか眠りについていた。

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