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「ヴゥッッ……」
声にならない叫びをあげ、そして剣を引き抜いた。
痛みが、これが現実であることを証明していた。
刺したところから生温い血が流れ出て、瞬く間に冷えていく。
だんだんと視界が白く霞んでいく、呼吸が上手くできない。
周囲が簿焼ける中、レンギョウに視線を向ける。
小刻みに震えているのだけが分かった。
「なんで……どうして?」
レンギョウは小さく呟いた。
「どうして……って、わた…し……死にたかった、のよ」
そう言って、私は目を閉じ床に蹲った。
どれくらいそうしていただろうか、先ほどまでの痛みや息苦しさは跡形もなく消えていた。
顔を上げて胸元を見ると、流れた血と裂けたシャツはそのままだが、刺し傷は跡形もなく塞がっていた。
視界も元に戻っている。
「は?」
今度は首に短剣を当て引いてみた。
レンギョウは化け物でも見るかのように、こちらを眺めている。
先程より早く視界が霞み、息もできない。
口から血反吐が出る。
しかし、それも時間が経つにつれて、何事もなかったかのように元に戻っていった。
「なんで?なんで、私生きてるの?」
私は戸惑いを隠せなかった。
レンギョウは目を輝かせ、私のそばへと嬉々として擦り寄ってきた。
「さすがです。やはり引力に導かれてやって来た貴女は、この世界を救う“聖女様”に違いありません」
先ほどまで怯えていたとは思えない。
人のことは言えないが、こいつも狂っているらしい。
「その力で、瘴気に蝕まれ荒廃した土地や苦しむ人々へ、お導きを」
レンギョウは私の手を強く握りしめ、祈るように言った。
(どうして私が救わなきゃいけないのよ。力って言われても、よく分からないし……)
私は少し考え込み、また短剣を手に取る。
「え?」
レンギョウが、声を発するか否かの一瞬でその身体を切り裂いた。
レンギョウは痛みと驚きに、身をよじってのたうち回る。
そして私は試しに、回復を強くイメージしながら手を翳した。
「何するんですか?」
レンギョウは弾かれたように飛び起き、叫んだ。
「何って、分からないから試してみようかと」
自分の掌をじっと見つめながら、そう答えた。
(もしかして……他人には逆のこともできるのでは?)
私の脳裏に、もう一つの考えが浮かんでいた。
「ひとまず、皆さんに聖女様の召喚は成功したと報告に行きましょう」
レンギョウは手を叩いて笑みを浮かべると、明るく言った。
( 確かに、こんな薄暗い部屋の中じゃ状況も把握できないし……着いていくか)
「そうだね、行こうか」
反論する理由もなく、レンギョウの意見に従うことにした。
レンギョウは部屋で唯一の装飾品らしい燭台を手に取り、部屋を出る。
私はその背中を追った。
どうやらここは地下にあったらしい。
ろうそくの小さな炎が揺れる中、暗闇の階段を上っていく。
やがて地上へ出ると、廊下を歩く下働きの子が目に入った。
まだ幼いその子に、レンギョウは声をかけた。
「聖女様を部屋に案内して、服も着替えさせてくれる?」
それから私は、血に汚れた身体を拭かれ、白い細身のドレスに着替えさせられていった。
その後、私はこの国の王と名乗る男の前へ連れて行かれた。
名乗りはしたはずだが、興味がなくて記憶に残っていない。
世界樹を守っていたこの国だけが、最後まで荒れずに残った唯一の希望だとか、そんな話をされた気がする。
「我々のために、その力を貸せ。世界を救った暁には、望む褒美をくれてやろう」
助けを求める立場のくせに偉そうに話すその王に苛立ち、さっき思いついたことを試した。
手を前に突き出し、“生命”を吸い出す感覚を思い描いた。
王はその場に崩れ落ちた。
隣にいた王妃や王女が悲鳴を上げ、周囲にいた者たちがどよめいた。
「何やってるんですか!早く戻してください!」
レンギョウの声が耳元で騒がしく響いている。
そこから先は、ほとんど思い出せなかった。
私は、王の“生命”を戻したのかどうか、その記憶すら曖昧だった……。
私はため息をつき、とっくに座り飽きた玉座から立ち上がった。
そして、静まり返った城の外の様子を見に行くことにした。




