はじまり
この世界に来て、どれくらい生きているのか既に分からなくなっていた。
何年?何十年?に一度、勇者とか呼ばれる奴が来るが私を殺せた者はいなかった。
また、誰かが城へやって来たらしい。
手下についた魔物達が暴れているようで、騒音が響いている。
(前回から、もうそんなに経っていたか……)
そんな事を考えながら、何故かこちらに召喚された日のことを思い出していた。
(すっかり忘れていたのにな…)
────数百年前────
バンッ!!!
激しい物音と一緒に、冷たい地面に叩きつけられた。
「いっった!!」
その場に這いつくばり、痛みが引くのを待つ。
ゆっくりと起き上がり辺りを見渡すと、燭台の火が仄かに部屋を照らしていた。
石造りの壁に、冷え切った床。
装飾は一切なく、光の届く場所以外はほとんど見えなかった。
(生き、てる……ビルから落ちたはずなのに?)
本来ならコンクリートの上で、野垂れ死んでいるはずだった。
(もしかして、これが死後の世界とか言うやつ?)
そんな事を考えていると、どこからともなく人が現れた。
白いローブをまとい、フードを深く被っているため表情は読めない。
私の顔を覗き込み、何か話しかけてくる。
(何コイツ……怪しい)
「何言ってるか、全然分かんないんだけど?」
「ここはどこ?私は死ねたの?」
状況が飲み込めず、苛立ちがつのる。
その怪しい人物は首を傾げる。
しばらくこちらを眺めていたが、やがて何かを思い出したように顔を上げ、私の額に指を当てて来た。
「…何なの?」
問いかけても返事は無い。
代わりに、指先から淡い光が放たれる。
「眩しいんだけど…」
思わず目を瞑りながら言う。
「ごめんなさい、こちらに来たばかりは言葉が通じないというのを忘れていて」
言葉が、突然わかるようになった。
「……何言ってんの?私、死んだんじゃないの?」
改めて疑問をぶつけると驚いたような声をあげた。
「えっ?貴女は死んでないですよ、こちらの世界に召喚されたのです」
「……こちらの世界?召喚?」
「はい……ここに召喚の紋を描き、この世界の引力が強まる今夜、誰かが訪れるのをお待ちしておりました」
「意味分かんないんだけど、何で私が召喚されんのよ」
「…貴女の強い思いに反応し、引き寄せたようです」
「死んだって言われたほうがまだ理解できるわ…」
(天国や地獄を信じていたわけではないけど…異世界とか一番あり得ない……)
落ちた瞬間、生まれ変わりというものがあるのなら、次こそはせめてマシな人生を送らせてと願った。
けれど、それほど強く願ったつもりはない。
生きているのが、生まれてきたこと自体が最悪なことだと思っているのに?
生まれてこなければ辛さを、痛みを、絶望を感じなくてすんだのに……。
そいつは唐突に頼みごとをしてきた。
「貴女に、助けてほしいのです」
「助ける?何で私が?あんたの事も知らないのに?」
「……そうですね」
そう言って、そいつはフードを脱ぐなり、自己紹介を始めた。
「このヘリオトロープ国で魔術師をしてます、レンギョウです」
美しいブロンドの髪に、青白い顔をした華奢な若い女だった。
「……それで?助けてほしいって何?」
「この世界は、このままだと荒廃し滅んでしまう……だから貴女を呼んだのです」
「……滅びれば良いじゃない」
「は?……」
「だから、そのまま滅びれば良いじゃない」
「ええっと、もう一度……聞いても?」
「……聞こえなかった?これ以上聞かないで、滅びれば良いじゃないって言ったのよ」
「助けてあげる筋合いはないわ」
レンギョウは言葉を失ったように、口をぱくぱくさせた。
「あんたナイフとか持ってる?」
「……?」
レンギョウは何を言われているのか分からない、といった顔でこちらを見ている。
(察しが悪いやつ……)
「刃物は持ってるかって聞いてんの」
「あ、はい……護身用の短剣なら…」
ローブを開き、腰に差した剣を見せてきた。
「貸して」
そう言って、私はレンギョウの差し出した短剣を鞘から抜いた。
そして、自分の胸に突き刺した。
もう片方の作品に行き詰まり、間に考えたやつです。
数話で終わります、多分。




