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さっき見た彼女は泣いていた。


あの涙が、頭から離れない。


手を伸ばせば届く距離だった。


あのまま抱きしめてしまいたかった。


泣いていた理由は何だろうか。


昨夜の僕の質問のせいで、過去を思い出させてしまったのだろうか。


そうだとしたら、申し訳ないことをした。


“死にたかった”彼女はそう言った。


“死にたい”では無かった。


長い間、死ねないことで、どこか諦めきったような響きだった。


彼女が、そうなった原因の一つは過去の僕だった。


『……分かりました』


あの日、そう言ってくれた彼女の言葉を鵜呑みにした。


普段なら気づけるはずの声音、表情に気づけなかった。


転生するたびに、ふとした瞬間に彼女を思い出す。


繰り返し夢見るのは、彼女と過ごした日々、消えてしまった日のこと。


彼女の母親から、連絡が来て、すぐに探しに向かった。


どんなに探しても見つからなかった、あの日のこと。


廃ビルの途中の階に残っていた、埃っぽいベンチ。


誰かが座った真新しい跡が残っていた。


そこに、さっきまで彼女がいたのではないか。


いつも、そこで夢は途切れる。


あの日、彼女を追い詰めたのは僕だった。


彼女の心の傷は、いくら時間が経とうと癒えないほどに深いのだろう。


絶対に僕だと知られてはいけない。


知ったらまた、彼女は怯え僕の前から姿を消すかもしれない。


先に食事を摂りながら、そんなことを考えていると、彼女が姿を現した。


あの後、さらに泣いたのであろう。


瞼や鼻が赤く腫れて、頬もほんのりと赤く染まっている。


そんな顔を見るのは辛いが、目を惹かれる。


見つめていると、チラリとこちらを見たあと僕の前に座り朝食を食べ始めた。


なんと声を掛けようか。


迷いながら、ただ食事をする彼女を眺めていた。


早く声をかけないと、部屋へ戻ってしまう。


焦る僕は、唐突に話を切り出した。


「今日、国の図書館へ行こうと思う」


「君が死ねる方法を探すために行く、帰りは……二、三日後になると思う」


彼女は僕を一瞥し、何か考えている様子だった。


しばらくして、彼女はゆっくりと口を開いた。


「……私も、ついて行って良い?」


僕は驚き、返事が出来なかった。


彼女は、僕を避けるものだと思っていた。


「……迷惑、かな?」


彼女は、首を傾げる。


その仕草さえ、懐かしさで胸が引き裂かれそうだった。


「良いよ。城から出ても大丈夫?」


僕はなんとか声を絞り出す。


「大丈夫……長い間、外に出てなかったから」


「王都……場所、変わった?」


「昔、山を下りた先に見えた王都とは違うの?」


彼女は、不思議そうな顔をしていた。


「一度だけ移動してるよ。数百年前、占星術師が昔の場所は良くないと進言したらしい」


彼女は、それで理解したようだった。


「そっか……私は世界を救ったあと、この山に城を建てられて……そのまま隔離されたんだ」


小さく呟いた。


「準備ができたら、出ようか」


僕がそう言うと、彼女は頷いた。


「ごちそうさまでした。準備して来ます」


彼女はそう言って、立ち上がり部屋を出ていった。


僕はその背から目が離せなかった。


あの頃の話し方だった。


少しだけ声が弾んでいた。


それだけで十分だった。


あの頃の彼女が垣間見えた。


食事の後を片付けた後、部屋へ戻り僕も出かける準備を始めた。


部屋の扉を叩く音がして出ると、着替えた彼女が立っていた。


彼女は、普段の黒く長いドレスでは無く、肩が少し出る白い膝丈のワンピースを着て現れた。


長く綺麗な黒髪は、高い位置で一つに括られている。


よく似合っていた。


彼女が口を開くより先に言葉がついで出る。


「似合ってる」


言葉にしてから気づく。


あの日も、同じことを言った。


彼女は目を見開いた。


一瞬、何を言われたのか理解できないような顔をする。


それから、頬を染めた。


先程までのように、泣いて赤いわけではない。


照れているようだった。


「……良かった」


「服……ほとんど持ってなくて、レンギョウのところから着れそうなもの探したの」


彼女は俯きながら呟く。


「僕も準備が出来たよ、行こうか」


僕は彼女に声をかけ、部屋を出た。


薄暗く埃っぽい廊下を二人で進む。


足音だけが静かな城に響く。


言葉はなかった。


それでも、不思議と気まずさは感じなかった。

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