ななつめ(出会い②)
勉強のつもりで書いております。
よろしくお願いいたします。
前回からの続き小学生時代のお話になります。
俺は今、まことの住むマンションの前に来ている。
いじめを止めてそのまま成り行きで連れて来られてしまった、そんな感じだ。
この辺りは俺達とは別学区だったから、小学校から3、4kmは走った事になる。
そう、腕の裾を掴まれてここまで強制的に走らされて来たのだ。
「あ、あの…さ…毎日…こんな…に…走って通ってるの?」
「うん!そうだよ。」
息も絶え絶えな俺と対照的にまことは満面の笑みでニッコリと答えた。
俺の右手の裾は既にびろんびろんに伸びてしまっている。
そしてこの状態でずっと引っ張られて来たので俺の心臓は鼓動を荒げてばくばくと、今にも破裂しそうに荒ぶっている。
「あ、そ、そう…なんだ…あ、あはは…ゲホッゲホッ。」
部屋ではまことのお母さんが夕飯の下拵えをしていた。
夕方になったらまことを連れて旦那さんの経営する道場まで行って一緒にトレーニングと指導をするんだって。
皆疲れて帰ってくるから、すぐ夕飯を食べられる様に準備をしているんだと教えてくれた。
白いタイルのキッチンはしっかり掃除されていて、コンロの上の鍋からは煮物の香ばしい香りがする。
そして鼻から伝わった香りが俺の食欲を刺激してお腹が大音量でぐぎゅうぅぅと鳴ってしまった。
赤面していると…。
「あらあら…ちょっとだけ食べてみる?」
そう言いながらくすくすと笑う、まことのお母さん。
これだけ清潔なキッチンだし全く抵抗もない。
アレルギーや好き嫌いの有無を確認すると、鍋から大根と鶏肉の煮物を小皿に取り分けてくれた。
丁度良く煮詰まって黄金色になった大根は甘辛くてほろ苦くて、鶏肉は口の中でほろほろと解ける程柔らかく旨味が口中に広がる。
「うわっ!おばさんこれすごく美味しいです!」
「あらありがとう。お口に合ってよかったわ。」
気がつけば三人とも大根の煮物を食べていた。
「これ夕飯の前に無くなっちゃうね」
何気ないまことの一言に皆で顔を突き合わせて笑ってしまった。
まことのお母さんは髪の毛を凄く短くカットしていて、見た感じも中身もさっぱりしている。
親子だからかニコニコしている表情がまこととそっくりだ。
「あのね…。」
まことはさっきあった出来事の説明を始めた。
なんでも以前は仲の良い友達グループだったのが、最近急にギクシャクし始めたらしい。
原因はあのいじめてきた保君とかいうやつだ。
「お父さんとの約束もちゃんと守ったよ!!」
顔を真っ赤に興奮して、ぎゅっと握った拳をぶんぶん振り回して訴えるまこと。
お母さんはうーん…と一瞬考えてから頷くと、何かを悟った様な顔つきで答えた。
「そうねぇ。何か言いたい事が上手く伝えられなかったのかもね?だから保君を嫌わないであげて。」
ふーん?と不思議そうな顔で聞いているまこと。
といっても俺だってどういう事なのかまるで分からないのだけれど。
「ま、いっか!」
少し悩んだあとまことのお母さんが叫んだ。
えっ良いの?ま、俺にも分からないし別に良いのか。
何故か、にへらーっと気持ち悪い笑みを浮かべて俺とまことを見ているのが気になるけど…。
そのまま学校での事やら話していたら、いつの間にか窓から夕日が差し込んでいた。
そう二人は道場へ行かなきゃならない。
あれ?これまずいぞ?俺はこれっぽっちも帰りの事を考えていなかった。
またあの道を何キロも歩かなきゃならないのか…。
「あっ心配しなくてもお家まで送ってくわよ?まっかせなさい!!」
不安が顔に出ていたらしい。
俺は家の前に降ろして貰い、二人は軽自動車でそのまま道場へと向かって行った。
これを切っ掛けに度々まことの家に遊びに行く様になるのだけど…。
それから数日過ぎたある日のことだった。
校庭では複数のクラスが体育の授業中。
俺達はサッカーをしていた。
四時間目なのもあって、みんなの動きが悪い。
だらだらと動いては今日の給食なんだっけと雑談混じりでやっている。
そんな時のサッカーは暇。任されたディフェンスは特に暇。
なので他のクラスの見物をしていた。
サッカーゴールが設置されているここは校庭の一番隅なので、グラウンド全体がよく見えるんだ。
俺達の他には…鉄棒をやっている上級生と、ここと真逆の場所で同学年かな?ドッジボールをしている。
…あれ?
ドッジボールの方から、転がるボールを追いかけながら誰かがやって来る。
でもよく見るとそいつはボールを拾う様に見せては蹴り飛ばし、こちらへ向かって一直線。
ーーーわざとやっているとしか思えない。
でもその理由はすぐに分かった。
「おい!お前!見てんじゃねーっての!」
「えっと…いきなり何?」
「この前はよくも邪魔してくれたな?」
ーーーあの時の保君だ。
「あのさぁそれ、自分が悪いんでしょ?相手が嫌がる様なことしてさ…」
「うっ…オレが…先…っての。」
また泣いた。
一体なんなんだこいつは…。
ドン引きしている俺の背中に何かふわっとした柔らかいものが触れる。
これは…?
ーーーサッカーのゴールネットだ!
保君ににじり寄られて既に逃げ場を失っていたらしい。
保君の左手が上がる…殴られる!?
ガコォーーン!!
コーナーポストの上部に何かが激しくぶつかって、そのまま地面に跳ね返ると俺達の足元の土を抉って半分埋まる形で止まった。
「これ…ドッジボールのポールじゃ…。」
「ひいっ…!?」
真っ青な顔をしながらボールを2個とも抱えて小走りで戻る保君。
先生が俺のピンチに気が付いて助けてくれたんだろうか?
でもそもそも何処からどんな力で投げたらこんな事が出来るんだろう…。
もしやここから?と気になってドッジボールをしているクラスに目をやると生徒も教師も全員唖然とした表情でこちらを見ていた。
ーーーとりあえず助かったけど一体誰が助けてくれたんだろう?
そして俺はこの後もう一度保君が泣くのを見ることになる。
それはまことのお母さんのお通夜。
斎場入口で号泣しているのを見つけてそっとハンカチを手渡し話を聞いてあげたのだ。
正直何を言っているのかまるで聴き取れなかったけど、他人のためにここまで泣けるこいつは案外悪い奴じゃ無かったのかも知れない。
ただ涙と鼻水でべちょべちょになったハンカチを返そうとするので「それはあげるよ」と断った。
そして俺達はここから友達になった。




