4 暗号
犯人はどうやって、モーリッツとナタニエル、そしてマルティンに毒を飲ませたのか。
私とハドソン警部補が頭を捻るなか、カメリアは深緑の壁にかけられた絵画を見ていた。
「あの絵はマルティン様が描かれたのですか。」
カメリアは中央に飾られた絵を指して言った。
パウルは「ええ、そうです。」と肯定した。
「完成してすぐ、ぜひ部屋に飾ってほしいと頼まれたです。
あの時はそうなるとは思っていませんでしたが、これがマルティンさんの作品になってしまいました。」
毛皮を纏った少年が描かれたその絵は、死の間際に立たされたマルティンが残した物であったのか。
「マルティン様がこの絵を描き始めたのは、いつでしたの。」
カメリアの質問にパウルは「はて、どうだったかな。」と顎に手をやった。
「モーリッツ様の追悼の意を込めて描かれた絵ですから、モーリッツ様が亡くなってすぐでしょうか。
丁寧なマルティンさんには珍しく急いで描かれたことを覚えています。」
カメリアはいっそう注意深く絵を見つめた。
絵の中の少年は、細く長い十字の杖を手に気だるげな表情を浮かべていた。
少年の持つその杖は、よく見ると節があり、葦でできているのだとわかった。
次にカメリアは部屋の隅に置かれたピアノに注目した。
音楽家であったナタニエルはこのピアノを弾いていたに違いない。
カメリアはピアノを隈なく観察したあと、振り返って尋ねる。
「ピアノに触れても宜しくて?」
パウルは「わたくしは構いませんが。」と言いながらちらりとハドソン警部補の顔を伺った。
「我々警察の調査は済みましたから構いません。」
ハドソン警部補の許可を得ると、カメリアはおもむろにピアノの鍵盤をひとつづつ鳴らした。
カメリアの指に合わせて一音ずつ音が響く。
しかし、いくつか鳴らない鍵盤があった。
「シのフラット、その1オクターブ上のラ、ド、シのナチュラルの音が鳴りませんわね。」
パウルは「おかしいですね。」と眉を寄せた。
「ナタニエルさんが生きていたころは壊れていなかったんですがね。
ナタニエルさんはいつもそのピアノで演奏を楽しんでいましたから。」
カメリアは両手を合わせ、少し思案した。
そして彼女は断言する。
「ナタニエル様とマルティン様は犯人がわかっていたのですわ。」
ハドソン警部補が「どういうことですか。」とカメリアに詰め寄った。
「モーリッツ様が亡くなったとき、ナタニエル様とマルティン様は彼が殺されたのだと悟った。
2人は犯人が自分たちの命も奪うつもりだと予期していた。
だからナタニエル様とマルティン様は、犯人を示す暗号をこの部屋に残していたのですわ。」
「まさかその暗号とは、マルティン様が残した絵とナタニエル様の使っていたピアノのことですか。」
カメリアは「その通りですわ、ヒルダ。」と微笑んだ。
カメリアは、絵画とピアノから何を読み取ったのだろうか。




