3 毒
「こちらがお三方が使われていた席でございます。」
店主パウルはコーヒーハウス内の小さな部屋へカメリアと私を案内した。
ハドソン警部補もそれに同行した。
亡くなったモーリッツ、ナタニエル、マルティンの3人が議論に花を咲かせたのがこの部屋だ。
壁面には絵画が、部屋の隅にはピアノが置かれ、芸術家のたまり場らしい内装だ。
「お三方はコーヒーをゆっくりと楽しまれますから、気兼ねなくお過ごしになれるようにこの部屋に席をご用意したのです。」
深緑の壁紙が美しい小さな部屋は、元は倉庫として使っていたのを3人のために改装したのだという。
しかしハドソン警部補は、「他の客の迷惑にならないように部屋を分けたのでしょう。」と推測する。
「長時間居座り、過激思想について議論する3人のことを内心迷惑だと思っていたのではないですか。」
ハドソン警部補に問われたパウルは「とんでもない。」と強く否定した。
「わたくしは常連のお三方と親しくさせていただいておりました。
この壁紙だって、わたくしが彼らのために張り替えたんですよ。」
「ではパウルさん、この店で貴方以外に彼らが口にする物に毒を盛る機会があった人間はいますか。」
パウルは唇を噛み締めた。
「店の従業員はわたくしとレジ係のカルラだけです。
コーヒーを淹れるのも配膳もわたくしがしておりました。」
カメリアは「3人が目を離した隙にテーブルの上にあったコーヒーに毒を入れるのも難しいですわね。」という。
「この部屋は他の客席とは隔離されているのですから。」
「となると、犯人はコーヒーが3人のもとへ届けられる前にパウル様の目を盗んで毒を入れなければならなかったのでしょうか。」
ハドソン警部補は「そうなりますね。」と私に同意した。
「コーヒーカップはどこで管理しているのですか。」と聞けば、パウルは「カウンターの後ろの食器棚にあります。」と答えた。
「犯人はカップに毒を仕込んで食器棚に戻した、という可能性はありませんか。」
私はそう聞いたが、パウルは「可能性はあると思いますが、特定の方に毒を盛ることはできないでしょう。」と答えた。
「うちの店で使用しているカップのデザインは全て統一しています。
どなた様にも同じデザインのカップでご提供しておりますので、どのカップが誰の手に渡るかなどわからないはずです。」
ハドソン警部補はちいさく唸った。
「亡くなったのはこの部屋を使っていた3人だけ、他の客に影響は出ていませんからね。
犯人は3人を狙って殺害したと思えますが。」
標的だけを確実に殺すには、カウンターのカップやコーヒー豆に毒を仕込むのでは駄目だ。
「いったいどうやって犯人は毒を盛ったのでしょうか。」




