2 三人の死
「亡くなったのは作家のモーリッツ、音楽家のナタニエル、画家のマルティンです。
3人はいずれもこの店の常連客で、コーヒーを片手に議論を交わす仲だったそうです。」
ハドソン警部補はそう語る。
コーヒーハウスという場所は、芸術家たちが語り会う交流の場としての役割を果たしているという。
議題は新鋭芸術から社会の変革を求める革新的思想まで様々だ。
この店でそんな議論に興じていた三人の芸術家が、一年の間に相次いで亡くなったのだ。
カメリアは「3人の死因は何でしたの。」と尋ねた。
「最初に亡くなったモーリッツと2人目のナタニエルは当初結核だと思われていました。
3人は住んでいた場所も近かったらしく、同じ医師が診察したんですね。
医師は3人目のマルティンが危篤となったときに事件性を疑ったんだそうです。」
私は「どうして不審に思ったのですか。」と首を傾げてしまった。
「3人は知人だったのですから、同じ病に感染するということはあり得る話ではないですか。」
ハドソン警部補は、「本当に感染症なら不審ではないんですがね。」とふくみを持たせた。
「彼らを診察した医師は優秀な人物だったんです。
医師はマルティンの爪に白い横線が、皮膚には黒いしみと白い斑点が現れていることに気がついた。
これらは結核の症状とは一致しないのだそうですよ。
医師がマルティンの髪や爪を調べたところ、ヒ素が検出されたのです。」
カメリアがぴくりと細い眉を動かした。
「ヒ素といいますと、危険な毒物ですわね。」
ハドソン警部補は「さすがはカメリア嬢、よくご存知だ。」とからかうように頷いた。
「モーリッツ、ナタニエルの遺体の髪と爪からも同じくヒ素が検出されました。
3人が病死でないことは明らかです。」
「では、何者かが3人にヒ素を使って殺害したのでしょうか。」
私の問いに、ハドソン警部補は「我々警察はそう考えております。」と答えた。
「3人は毒殺された可能性が高い。」
カメリアは「ヒ素は毒殺によく使われる毒物だと聞いたことがございますわ。」と言う。
「無色無臭で気づかれにくいのだそうですわね。
それに、ねずみ取りに使われますから入手しやすい。
その上、即死する毒でないからこそ病気に偽装することができますわ。」
ハドソン警部補も「飲み物や食べ物に混ぜて摂取させることは容易いでしょう。」とカメリアに同意する。
「3人がそろって飲食をした場所がこのコーヒーハウスでした。
ですから、我々警察はこの店で彼らが口にする物に毒が入れられたのではないかと疑っているんですよ。」




