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第9話「有能すぎる秘書令嬢と、勃発する正妻戦争」

葵の回復は劇的だった。

新鮮な空気と清潔な環境を手に入れた彼女は、本来の聡明さを発揮し始めた。


「吉平様。この『しゃぼん』ですが、材料の獣脂と木灰の比率を変えれば、もっと泡立ちが良くなるのではないでしょうか。私が計算式を立ててみました」

「えっ、葵様、これ全部暗算でやったの……!?」


ある日の午後、吉平が驚愕の声を上げた。

葵は病弱で部屋に引きこもっていた間、暇つぶしに漢籍や算術の本を読み漁っていたらしい。結果として、彼女は当時の貴族の中でもトップクラスの事務処理能力と計算能力を持つ「超有能な頭脳派」に育っていたのだ。


「はい。それと、村の備蓄食料と布の管理帳簿も私が整理しておきました。吉平様の貴重な時間を、雑務で奪うわけにはいきませんから」

葵はふんわりと可憐に微笑みながら、完璧に整理された木簡の束を吉平に差し出した。


「す、すごいな葵様……これなら、石鹸の量産化や近隣の村との交易も視野に入れられるぞ!」

吉平が葵の手をとって喜んでいると、背後から凄まじいプレッシャーを感じた。


「ちょっと吉平! 帳簿なら私だって書けるわよ! 昨日、吉平に平仮名を教えてもらったもん!」

サチが対抗心を燃やして間に割り込んでくる。


「ふふっ、サチさんは現場の作業がお似合いですわ。吉平様の頭脳を支えるのは、この葵の役目です」

「なによその余裕ぶった態度は! 一緒に水浴びした仲だと思って!」


「お待ちになられよ、お二人とも!」

そこへ、ビシッと陰陽師のポーズを決めた桔梗が乱入してきた。

「大陰陽師様を俗世の雑務で煩わせるなど言語道断! 私は昨夜、ついに師匠の秘術の真髄を一つ理解しました! 手洗いの儀式における『指の間の浄化』の重要性をまとめた巻物を執筆したのです!」


「桔梗、お前はいい加減、衛生管理を魔法に結びつけるのをやめろ……」


物理的なサポートで吉平を支える幼馴染のサチ。

知力と管理能力で吉平の事業を拡大していく令嬢の葵。

斜め上の解釈で吉平を神格化し、謎の理論体系を作り上げるポンコツ陰陽師の桔梗。


三者三様の個性を持つ美少女たちに囲まれながら、吉平の小さな「手洗いうがい」から始まった村の改革は、やがて京の都の経済と常識を根底から覆す大きなうねりとなっていくのだった。

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