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第8話「泡の魔法と、姫君の初めての深呼吸」

数時間後。

吉平が指示した「蒸気吸入(お湯の湯気を吸わせて気道を広げる)」と「温かい塩粥による水分・栄養補給」、そして何より「カビだらけの着物を脱がせて風通しの良い部屋に寝かせる」という物理療法により、葵の激しい咳は嘘のように治まっていた。


「……息が、吸えます。胸の奥でヒューヒューと鳴っていた悪い虫が、いなくなりました……」

「よかったわ! もう大丈夫よ、葵ちゃん」


サチが自分のことのように喜び、葵の手をぎゅっと握る。

葵の頬に、ほんのりと赤みが差した。


「サチさん、と言いましたね。あなたの手、農作業をしていると聞いたのに、とても白くてすべすべなのですね。ほのかに良い香りもします……」

「えっ? あ、ああ、これは吉平が作った『しゃぼん』のおかげよ! ねえ、葵ちゃんも熱が下がったら、しゃぼんで体を清めてもらいなよ。すっごく気持ちいいんだから!」


翌日、すっかり歩けるようになった葵を、サチと桔梗が水浴び場へと連行した。

吉平は少し離れた場所で、背を向けて見張りをしている。


「さあ葵様! この『しゃぼん』の驚異の浄化力をとくとご覧あれ! こうして水をつけてこすると……ほら! 白い雲が!」

「ひゃっ!? き、桔梗様、そんなに泡を立てて……ああっ、くすぐったいです……!」


囲いの中から、普段の静かな葵からは想像もつかない、可愛らしい悲鳴と笑い声が聞こえてくる。


「こら桔梗、はしゃぎすぎ! 葵ちゃんの肌は赤ちゃんなみにデリケートなんだから、私が優しく洗ってあげるわ。……ほら葵ちゃん、髪の毛もこの泡で洗うのよ」

「サチさん……すごい、この泡、なんだか温かくて……」


水浴びを終えた葵が吉平の前に姿を現した時、吉平は一瞬言葉を失った。

病的な青白さは消え、石鹸で磨かれた肌は透き通るような真珠色に輝いている。濡れた髪を拭きながら上目遣いで吉平を見つめる葵は、深窓の令嬢らしい儚げな色気を纏っていた。


「吉平様……。この身に憑いていた長年の呪いを、あのような心地よい泡の魔法で解いてくださるなんて。私、命ある限り吉平様にお仕えいたします……!」


頬を染め、胸の前で手を組みながら熱っぽい視線を送ってくる葵。

その過剰なまでの忠誠心(と好意)に、吉平の後ろでサチと桔梗がピクリと反応した。

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