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第7話「深窓の令嬢と、館に巣食う『埃の魔物』」

「けほっ、こほっ……申し訳、ありません。突然押し掛けたりして……」


村の集会所に運び込まれた少女は、あおいと名乗った。

京の都に屋敷を構える中級貴族の娘だが、幼い頃から原因不明の激しい咳と微熱に悩まされ、「不治の呪い」として空気の悪い屋敷の奥に隔離されていたらしい。

いよいよ命が危ういとなり、藁にもすがる思いで老婆の従者と共に「奇跡の癒し手」の噂を頼りに村へやってきたのだ。


「葵様、無理に喋らなくていいわ。吉平、この子どうなの? 体がすごく熱いけど……」


サチが葵の額に濡れ手拭いを当てながら、心配そうに吉平を見上げる。

すっかり看護師としての貫禄が出てきたサチは、身分など気にせず、目の前の苦しむ少女を純粋に気遣っていた。


吉平は葵の呼吸音を聞き、青白い肌と充血した目を観察する。

そして、彼女が着ている豪華だがひどくカビ臭い着物の匂いを嗅いで、原因を確信した。


「……呪いじゃない。これは、重度のアレルギー性気管支炎だ」

「あれるぎい……? 師匠、それは西国の妖の類ですか?」


桔梗が小首を傾げる。吉平はため息をついた。


「簡単に言えば『ほこりとカビの毒』だ。貴族の屋敷は風通しが悪いうえに、古い調度品や着物がたくさんあるだろ? 葵様は、屋敷に溜まった見えないゴミやカビを長年吸い込み続けて、肺が悲鳴を上げているんだ」


平安貴族の住む寝殿造は、一見風雅だが、御簾や几帳といった布製品が多く、掃除機もない時代ではダニやカビの温床だった。そこにずっと閉じ込められていれば、喘息やアレルギーが悪化するのは当然である。


「なんてことだ……。葵様は、ご自身の屋敷の穢れに蝕まれていたというのですね。大陰陽師様、いかがなされますか。すぐに浄化の祭壇を……」

「だから祭壇はいらないって。サチ、葵様の着ているものを全部脱がせて、俺の余っている麻の着物に着替えさせてくれ。桔梗は、お湯を沸かして蒸気を作ってくれ」


「はいっ! まかせて!」

「承知いたしました! この桔梗、全身全霊で湯を沸かします!」


吉平の指示のもと、二人の少女が慌ただしく動き始める。

葵は、自分を助けるために泥まみれの農民サチとエリート陰陽師(桔梗)が対等に協力し合う姿を、熱に浮かされた瞳で不思議そうに見つめていた。

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