第10話「快適リフォームと秘密の『採寸』会」
手洗いうがいと石鹸の導入で、村の衛生状態は劇的に改善された。だが、吉平にはまだ不満があった。
それは「住環境」である。
平安時代の庶民の家といえば、土間と筵だけの薄暗くジメジメとした小屋だ。これではカビやダニが繁殖し放題である。
「よし、家を大々的に改装しよう! 床を高くして湿気を防ぎ、大きな窓を作って風通しと日当たりを良くするんだ!」
吉平の宣言に、三人の少女たちが集まってきた。
「家の改装? それなら私が力仕事を手伝うわ!」
腕まくりをしてやる気満々のサチ。
「師匠の新たなる結界構築ですね! 私も霊符を貼る場所を考えます!」
相変わらず斜め上の解釈をしている桔梗。
「吉平様、木材の調達と大工の手配、それに費用の計算はすでに終わっております」
葵はいつの間にか分厚い帳簿を開き、完璧な手回しを見せていた。
「葵様、仕事が早すぎる……。じゃあ、まずはみんなの新しい寝巻きとシーツを作りたいんだ。清潔な麻布で、体に合ったものを作りたいから、採寸をしたいんだけど」
吉平は竹の尺を取り出し、サチに手渡した。
「とはいえ、いくらなんでも男の俺が、単衣や小袖姿のお前たちを直接測るわけにはいかないからな。奥の部屋で、三人で測り合って数値を教えてくれ」
「もう、吉平ったら変なところで気を遣うんだから。わかったわ、任せて!」
サチが竹尺を受け取り、三人の少女たちは襖の向こうの部屋へと移動していった。
やがて、衣擦れの音とともに、薄着になった彼女たちの賑やかな声が漏れ聞こえてくる。
「まずは桔梗ね。うわあ、腰ほっそい!……って、あれ? お胸は意外と控えめなのね?」
「なっ、無礼な! 私の霊力は全身に無駄なく行き渡っているのです! 一箇所に質量を集中させるなど、陰陽のバランスが崩れます!」
「はいはい、次は私ね。桔梗、ここ測って」
「くっ……農民の分際で、無駄に健康的な肉体を……! 毎日畑を耕していると、ここまで育つというのですか」
「ふふん、吉平の作ったご飯を毎日食べてるからね!」
襖の向こうのキャッキャとはしゃぐ声に、縁側で待つ吉平は少しだけ居心地が悪そうに頭をかいた。
健全な健康管理の一環とはいえ、年頃の美少女三人が下着同然の姿で採寸し合っている様子を想像すると、どうしても少し意識してしまう。
「よし、最後は葵ちゃんね。ちょっと腕を上げて……」
サチの声がした直後。
「……えっ?」
サチの素っ頓狂な声が響いた。
「あ、葵ちゃん……意外と、その……大きいわね」
「っ!? 霊力(胸囲)の大きさで、この私が後れを取ったというの……!?」
桔梗が信じられないものを見たかのような声を上げる。
「な、なんのことでしょう……サチさん、桔梗様、あまり見ないでくださいませ……恥ずかしいです」
「いやいや、いつもゆったりした着物だから全然気づかなかったけど、三人の中で一番すごいじゃない! 葵ちゃん、なにか特別なもの食べてたの!?」
「い、いいえ、ずっとお屋敷の奥で寝込んでおりましたので……ひゃっ、サチさん、くすぐったいです」
「ええい、私にも触らせなさい! どのような呪術を使えばこのように……!」
「あ、あはは……吉平様ー、もう終わりますからねー……っ!」
部屋の中からは、恥じらう葵の声と、興味津々で群がるサチと桔梗の楽しげな笑い声が絶え間なく聞こえてくる。
病弱で暗い部屋に閉じこもっていた葵が、年相応の女の子たちと一緒にこんなにも明るくはしゃげるようになった。
その事実が吉平には何よりも嬉しく、にぎやかな採寸会が終わるのを、彼は少し赤くなった顔で微笑みながら待つのだった。




