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第60話「正妻アピール合戦」

「そ、それってつまり……っ!!」


サチが、目をギラギラと輝かせて立ち上がった。

「私たち五人が、こんな風に不思議な縁で吉平の周りに集まってきたってことは……この五人の中の誰かが、その『転生した彼女』ってことに決まってるじゃない!!」


「なっ……!?」

吉平は部屋の隅へと後退し、あまりの恐怖に息を呑んだ。


「その通りですわサチさん! 初めてあなたと完全に意見が一致いたしましたわ!」

葵が不敵な笑みを浮かべ、美しい髪をかき上げてふんぞり返った。


「吉平様に釣り合う高貴な女性……それは当然、大人の魅力と圧倒的な事務処理能力を持ったこの私ですわ! きっと前世の私は、大商会の長、現代の言葉で言う『しーいーおー』というやつだったに違いありません! ええ、デートの記憶もおぼろげにありますわ。いつも高級なフレンチの茶屋で、フォアグラの饅頭を食べておりましたわね!」

前世の知識など欠片もないのに、吉平から聞いた現代語を適当に繋ぎ合わせて必死にマウントを取る葵。


「浅はかですわ葵様! 階段から共に落ちるという不測の事態、それは強烈な呪詛と因縁の証! つまり前世の私も占い師か陰陽師として、師匠と魂の契りを交わしていたのです! 私こそがその彼女です!」

桔梗が鼻息を荒くして参戦する。


「ちょっと待ってよ! 吉平の一番近くにいて、一番最初に病気を治してもらったのは私よ!? 物語の王道は幼馴染からの恋人発展って決まってるんだから! 前世の私も絶対に吉平の幼馴染からスタートした正統カップルだったはずよ!」

サチが吉平の胸元に掴みかかるような勢いで猛アピールする。


「なるほど、階段から一緒に転げ落ちたことで、吉平様の記憶に不具合が生じているのですね。でしたら解決策は明白ですわ。吉平様、今すぐ私と二人、この縁側から複雑に絡み合いながら転げ落ちてみましょう。それを再現すれば、愛の記憶もたちどころに呼び覚まされるはずです。……あ、結衣様は今回はお留守番で結構ですわ」

栞までがいつもない涼しい顔で、人の感情から見事にズレた天然すぎる解決策を提案し、しれっと「彼女枠」のど真ん中に名乗りを上げた。


「ちょっとあんたたち! いくら私が記憶喪失だからって、適当な妄想で彼女ヅラしてマウント取らないでよ!」

結衣が兄の貞操を守るために必死にツッコミを入れるが、恋のライバルを出し抜ける特大の既成事実を前に、乙女たちの暴走はもう誰にも止められない。


「吉平! 私よね!? 私が彼女だったって言って!」

「師匠! 早く私との甘い記憶をお祓いで思い出してください!」

「吉平様、私のこの豊満な胸に抱かれていた記憶が、魂に刻まれておりますでしょう?」

「さあ、吉平様、縁側へ。いい感じの段差がありますわ」


薄着の部屋着姿の美少女たちが、吉平に覆いかぶさるようにして一斉に詰め寄ってくる。ゆるんだ襟元から豊かな膨らみや白い肌が容赦なく視界に飛び込んできて、吉平は顔から火が出そうだった。


「わーーっ! 待て、俺も本当に記憶がないんだ! 誰の顔も名前も思い出せないんだよぉ!」

吉平は部屋の隅に追い詰められ、両手で顔を覆って涙目で悲鳴を上げた。


そんな大騒ぎの部屋の片隅で、美影だけは争奪戦に一切参加せず、天井から静かにそのやり取りを眺めていた。

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