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第57話「お兄ちゃんはモテ期?」

結衣は、吉平の腕をしっかりと抱き込んだまま振り返る。が、その険しい表情は、数秒でみるみるうちに驚きへと変わっていった。


「えっ……ちょっと待って。みんな、すっごく綺麗で可愛くない……?」


結衣はサチの前にツカツカと歩み寄ると、有無を言わさずそのほっぺたを両手でむにむにと引っ張った。

「んんっ!? なにするのよ!」

「健康的な元気っ子! おめめぱっちり!お肌もすべすべ!私たちの時代のアニメキャラならピンク髪の人気モノね。 はい、合格!」


次に結衣は葵の背後に回り込み、その華奢な腰からふくよかな胸元へと、まるで品定めをするようにねっとりと視線を這わせた。

「ひゃっ……!? な、なんなのですかあなた……!」

「うわぁ、この色気とプロポーション……大人の魅力たっぷりね。お兄ちゃん、贅沢すぎ!」


さらに震える桔梗の手を握って「すごくきれいな顔をしてるのねえ。少し陰があって守ってあげたくなる儚さ!」と目を輝かせ、屋根裏から覗く美影を指差して「ちょっと、その身体の線がくっきり出る黒い服、最高じゃない!大化けするスタイルよ! 」と大興奮。

美影は「ひっ……!」と顔を真っ赤にして奥へ引っ込んでしまった。


ひと通りセクハラまがいのチェックを終えた結衣は、くるりと吉平に向き直り、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて脇腹を小突いた。


「ちょっとお兄ちゃん! 前世じゃあんなに奥手で草食系だったのに、なにこんな山奥でとびきり可愛い恋人たちとハーレム作ってるのよ!」

「ハ、ハーレムって……! 違う、みんなは俺の医療を手伝ってくれてる大切な……」

「いいのいいの! 妹としてすっごく嬉しいような、鼻が高い気分だわ!」

結衣はうんうんと頷きながら、まるで保護者のような顔つきになる。


「こ、恋人……っ!?」

サチが顔をゆでダコのように真っ赤にする。

「私たち、吉平様の恋人に見えるんですの……?」

葵も扇で口元を隠しながら、その頬をほんのりと赤く染めて視線を泳がせた。桔梗も「恋人……」と呟きながら顔から火を出している。


修羅場になるかと思いきや、結衣の持ち前の明るさと「オヤジくさいシスコン」っぷりが、場の空気を一気にコメディへと変えてしまった。

吉平は「ま、待って結衣、色々誤解だから!」と慌てふためく。


そんな中、少し離れた場所で一人静かに薬草の葉を揃えていた栞が、すっと立ち上がり歩み寄ってきた。


「なるほど。前世の記憶を持つ実の妹、ですか。しかも、身内という絶対的な立場から愛嬌で場を呑み込んでしまう……」

栞は結衣を頭の先から足元まで静かに観察し、小さく息を吐いた。

「ずいぶんと強敵ライバルが現れたものですね」


「な、なによあなた……やけに綺麗だけど?もしかして正ヒロイン気取り?だったらもっと愛嬌が必要ですよー」結衣が茶化すが、栞はいつもの涼しい顔で首を傾げた。


正妻ヒロインも何も。一番というなら私かもしれませんよ。私はすでに吉平殿に肌を晒し、毎晩、寝所を共にし、私専用の『下着』の隅々まで知っている仲ですから」


「——っ!?」

「し、栞さん!? 言い方! 語弊があるから!」

吉平が慌てて訂正しようとするが遅かった。


「し、したぎっ!? お兄ちゃん、いくらなんでも展開早すぎない!? この女の人に何したのよーっ!!」

「違うんだ結衣、これは純粋な採寸で……!」


結衣は、再び吉平の腕にぎゅっとしがみついた。


「でもっ! 妹としてはやっぱりちょっと嫉妬しますわ! お兄ちゃんが立派になってモテるのは許すけど、お兄ちゃんの『一番』は絶対にこの結衣なんだからね!」


都からやってきた最強で、少しブラコンで、妹なのに同じ年頃という強烈な個性で、吉平の穏やかな日常は、かつてない賑やかな大波乱の渦へと飲み込まれていった。

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