第56話「時空を超えた再会」
「うわっ!? ちょ、ちょっと、君! 離れて!」
吉平は突然の抱擁にパニックになり、なんとか彼女の肩を掴んで少し引き離した。
「君ってなによ! ずっと探してた妹に向かってひどい!」
涙目で怒る少女の顔を正面から見つめ、吉平はわずかに首を傾げた。
(……なんだ、この感覚。すごく懐かしい気がする。この大きな瞳、少し勝気な眉の形……どこかで……)
しかし、吉平の頭はすぐには正解を導き出せなかった。
「い、妹? いや、俺にはこの時代に妹なんて……」
「この時代じゃないわよ、鈍感! 『前』の話よ!」
その言葉と、彼女の口から出たあまりにも自然な現代語のイントネーションに、吉平の動きがピタリと止まる。
「前……? いや、でも待て。そうだ、確かに俺には妹がいた。名前は…『結衣』……ただ自分より4歳くらい年下だったような。君みたいに、俺と『同い年』くらいじゃ……」
吉平が混乱していると、少女は呆れたようにため息をつき、ツインテールを揺らした。
「お兄ちゃんが若い姿で転生してるからでしょ! 今の私たちは、見た目も年齢もほぼ同じの同い年なの!」
「あっ……!」
吉平は自分の手を見下ろした。医大生だった記憶を持ったまま若い身体になったのだから、妹が何らかの違いでズレた年齢で転生していれば、今の自分と年齢が並んでも不思議じゃない。
それに気づいた瞬間、年齢というフィルターが外れ、目の前の少女の面影が、前世で可愛がっていた『結衣』の姿と完全に重なり合った。
「本当に……結衣、なのか? でも、どうして俺だって分かったんだ?」
「顔なんて見てなくても、あの行商人の話を聞けば一発でわかるもん!」
結衣は腰に両手を当て、ビシッと吉平を指差した。
「強いお酒と熱湯で消毒して、肌を絹糸で縫い合わせて、極めつけに蜂蜜の抗菌作用で傷を塞ぐ! そんな『現代の医学知識』を平安時代で使ってる人間なんて、医学生だったお兄ちゃんしかいないじゃない!」
得意げに種明かしをするその理屈っぽくて生意気な言い回しも、吉平の記憶にある妹の姿そのものだった。
「……そうか。よく、無事で見つけてくれたな」
吉平の目から戸惑いが完全に消え、ようやく深い実感が湧き上がってくる。彼は震える手で妹の背中をそっと抱きしめ返した。
長い時を超えた妹との再会。
そもそも2人がなんで転生してるのかも含め、話したいことは山ほどある。
感動的な空気が広場を包み込む——はずだった。
「…………お、お兄、ちゃんですって?」
背後から聞こえた、地を這うような低い声に吉平はビクッと肩を揺らした。
サチの持っていた薬草の籠が、バサッと地面に落ちる。
「まさか……以前、吉平様が仰っていた『ずっと胸の奥に残っている、どうしても見つけ出したい女性』……!?」
桔梗が数珠を強く握りしめ、ワナワナと震え出した。
「お兄ちゃん、なんて甘えた呼び方……間違いありませんわ。どう見ても妹に見えませんのに…ついに現れましたのね」
葵が冷ややかな闘志を燃やして一歩前に出る。
「見えない『前世の女』が、ついに実体を持って……」
美影もタイツののまま準備万端だ。
ただならぬ殺気に気づいた結衣は、吉平の腕をしっかりと抱き込んだまま、サチたち五人を見つめた。




