第55話「嵐を呼ぶお姫さま」
初夏の心地よい風が吹き抜ける、ある日の午後。
吉平は家の前の広場で、サチや葵たちと一緒に天日干しにした薬草の仕分けをしていた。栞も不器用ながら、真剣な顔で葉の大きさを揃える作業を手伝っている。
「吉平、この葉っぱはこっちの籠でいいの?」
「うん、ありがとうサチ。それが乾いたら、次は葵さんの集めてくれた根っこを……」
平和で、いつも通りの長閑な日常。
しかし、その静寂は、重々しい車輪の音と馬のいななきによって唐突に破られた。
「……何かしら、この音?」
葵が手を止め、村の入り口へと続く山道に目を向ける。
木々の間から姿を現したのは、この鄙びた山奥の村には到底似つかわしくない、豪華絢爛な「牛車」だった。漆塗りの車体に、色鮮やかな几帳。周囲には、身なりの良い屈強な護衛たちが数名付き従っている。
「あれは……都の相当な身分の方が乗る車ですわ。なぜこんな山奥に?」
葵がいぶかしげに目を細める。村人たちも何事かと遠巻きに集まり、呆然とその光景を見守っていた。
牛車は、吉平の家のすぐ目の前でゆっくりと止まった。
護衛の一人が恭しく進み出て、御簾をそっと持ち上げる。
中から現れたのは、一人の少女だった。
この時代ではまず見かけることのない茶色の髪を、愛らしい「ツインテール」に結い上げており、質の良い薄紅色の衣を身に纏っているが、着物の裾はまるでミニスカートのようにやけに短い。年齢はサチたちと同じか、少し上くらいだろうか。
少女は牛車から降りると、護衛の制止も聞かずにスタスタと歩き出し、広場にいる吉平たちをぐるりと見渡した。
そして、その視線が吉平の顔でピタリと止まる。
「えっと……怪我、ですか? それともご病気で……?」
吉平が医者として前に出ようとした、その瞬間だった。
少女の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。
「——っ、お兄ちゃん!!」
「!?」
周囲の時が止まったかのような静寂の中、少女はとツインテールと短い着物の裾を翻し、猛スピードで吉平に突進した。そして、彼の胸に勢いよく飛び込み、その首に思い切り腕を回したのだ。
「うわっ!? ちょ、ちょっと、君!?」
「ずっと……ずっと探してた! 会いたかったよぉ、お兄ちゃん!!」
吉平は突然の抱擁にパニックになりながらも、その少女から漂う気配に、ひどく強烈な「前世の記憶」を揺さぶられていた。




