第5話「幼馴染のヤキモチと、泡立つ魔法の石」
数日後。
どういうわけか、桔梗は都へ帰る護衛たちを追い返し、村に居着いてしまった。
「大陰陽師様(吉平)の秘術をすべて盗むまでは帰りません!」と宣言し、吉平の家の隣に無理やり粗末な小屋を建てて住み始めたのだ。
これに面白くないのが、幼馴染のサチである。
「ねえ吉平。なんであのキラキラした貴族のお姫様が、ずっとうちの畑をウロウロしてるのよ。邪魔なんですけど」
サチは口を尖らせながら、吉平と一緒に竈の火の番をしていた。
「まあそう言うなよ。彼女なりに俺の『医療』に興味があるみたいだし、手伝ってくれるって言うんだから」
「手伝いって……昨日も薪割りをしようとして、斧をすっぽ抜かして長老の家の屋根に穴を開けたじゃない! ぜんぜんポンコツよ、あの陰陽師!」
サチの言う通りだった。桔梗は知識こそ豊富だが、生活能力が皆無だったのだ。
当の桔梗は今、竈の反対側で真剣な顔をして鍋の中身を見つめている。
「師匠! このドロドロとした液体は、いったい何の儀式に使うのですか? やはり、強力な呪詛を跳ね返すための霊薬……」
「違う違う。今日は『石鹸』を作るんだよ。獣の脂と、木灰から作った強い灰汁を混ぜて煮詰めるんだ」
吉平が作ろうとしているのは、ごく原始的な石鹸だった。
手洗いの効果をさらに高めるためには、どうしても界面活性剤が必要だったのだ。病気を防ぐための最強の盾である。
「しゃぼん……? それで身体を清めるのですね! 私にもやらせてください!」
桔梗が意気揚々と木の棒を受け取り、鍋の中身をかき混ぜようとする。しかし、慣れない力仕事にすぐに腕がプルプルと震え始めた。
「ほら、貸しなさいよ。そんなへっぴり腰じゃ、日が暮れちゃうわよ」
見かねたサチが棒をひったくり、力強く、かつリズミカルに鍋をかき混ぜ始めた。彼女の腕まくりをした細い腕には、農作業で鍛えられたしなやかな筋肉がついている。
「くっ……! 農民の少女風情に、この私が後れを取るなど……!」
「ふふん、吉平の右腕はこの私よ。ぽっと出のお姫様には負けないんだから」
サチは得意げに笑い、桔梗は悔しそうにハンカチを噛む。
バチバチと火花を散らす二人を見ながら、吉平は苦笑した。
なんだかんだで、サチも桔梗も吉平の指示を素直に聞いてくれるので、作業自体は恐ろしくスムーズに進んでいる。
やがて、鍋の中の液体がもったりと固まり始め、吉平の狙い通りの「石鹸の原型」が完成しつつあった。




