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第45話「巫女山からの使者と、乙女たちの絶対防衛線」

村の広場に設けられた特設の祈祷所(という名の予防接種会場)での処置が終わってから数週間。

都から流れてくる恐ろしい流行病の噂とは裏腹に、吉平の村からはただの一人も疱瘡の感染者が出なかった。「あの村には強力な結界が張られている」という噂は、春の風に乗って近隣の村々や荘園へと瞬く間に広まっていった。


そんなある日の昼下がり。吉平の家に、数人の女性が訪ねてきた。

白い小袖に緋色の袴という、ひと目で神に仕える者とわかる清らかな装い。彼女たちは、隣の山にある「巫女山」からの使いだった。


巫女山とはその名の通り、見習いから高位の者まで、女性ばかりが修行をしながら暮らす男子禁制の聖域である。


「どうか、私たちの山も助けてください。麓の村まで病が迫り、皆が恐怖に震えております。あなたの村を救ったというその奇跡の術を、どうか我々にも……」


丁寧に頭を下げる巫女たちを見て、吉平は迷うことなく頷いた。

「もちろん行きます。すぐに道具の準備をしますから、少し待っていてください」


医者として、病に怯える人を放っておくことなどできない。吉平が奥の部屋へ向かおうとした、その時だった。

サチが猛烈な勢いで吉平の前に立ちはだかり、両手を広げて通せんぼをした。


「ちょ、ちょっと待って吉平! 巫女山に行くって、本気で言ってるの!?」

「本気も何も、困ってるんだから助けないと……」

「だーっ! 吉平は巫女山がどういう場所か全然わかってない! あそこはね、神様に仕えるためにって名目で、近隣の村から選りすぐりの器量よしの女の子ばっかりが集められた『美女の巣窟』なんだよ!?」


サチの言葉に、奥で帳簿をつけていた葵が扇をパチンと閉じて立ち上がった。

「サチさんの言う通りですわ、吉平様。巫女山は神聖な場所を謳っておりますが、実態は有力な貴族との繋がりを持つための政治的な側面も強いのです。あそこにいる巫女たちは、権力者や優秀な殿方を手玉に取る術を心得ている、いわば魔性の女の集まり。無防備な吉平様が足を踏み入れれば、骨の髄まで吸い尽くされてしまいますわ」


「葵様まで何を言ってるんですか。吸い尽くされるって、血を?」

「血ではありませんわ! 理性や貞操や将来の約束です!」


吉平が呆然としていると、今度は桔梗が数珠をジャラジャラと鳴らしながら迫ってきた。

「危険です、師匠! 大勢の巫女が発する霊力と、女人禁制の山に抑圧された肉欲の陰気が混ざり合えば、凄まじい呪縛の結界となります。師匠の純潔な陽の気が、大勢の巫女たちに貪り食われるビジョンが私にはハッキリと見えます!」

「桔梗、お前のはただの妄想だろ」


「吉平様」

最後に、天井の梁から美影が音もなく舞い降りてきた。彼女はなぜか、大量のクナイと煙玉を全身に装備した完全武装状態だった。

「私が影として同行します。吉平様に色目を使う女狐がいれば、片っ端から暗殺して……いえ、峰打ちで気絶させ、吉平様の視界と貞操を物理的にお守りいたします」


「美影、物騒すぎるから武器を置け。いいか、みんな。俺は医者として、病気を防ぐ手伝いに行くだけだ。色目を使われるとか、骨抜きにされるとか、そんな余裕があるわけないだろ?」


吉平は苦笑いしながら、心配で今にも泣きそうなサチの頭を優しく撫でた。

「お前たちが一番可愛いってわかってるから、心配するな。終わったらすぐ帰ってくるよ」


「……っ! もう、吉平のばか! 絶対に変な女に鼻の下伸ばしちゃ駄目だからね!」

さらりと言われた「一番可愛い」という言葉に四人は顔を真っ赤にして黙り込み、吉平は無事に荷物をまとめて巫女山へと出発することができたのだった。


そして、数日にわたる巫女山での出張予防接種。

ヒロインたちの心配をよそに、吉平は完全に「仕事モードの医学生」と化していた。美しい巫女たちが薄着で腕を差し出そうが、涙目で吉平の胸にすがりつこうが、吉平の口から出るのは「はい、動かないでくださいね」「患部は清潔に保ってください」という事務的な言葉のみ。

一切の下心を見せず、ただひたすらに全員の命を救うためだけに汗を流すその誠実な姿は、恐怖に怯えていた巫女たちの心を、別の意味で深く打ち抜くことになったのだが、吉平本人は全く気づいていなかった。

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